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彼が愛でるは、龍胆か水仙か……
しおりを挟むわたくしは、なにも答えられませんでした。
夜会から、わたくしは一人で帰りました。彼が助けてあげている彼女を……愛おしそうな表情で覗き込む彼に、声なんて掛けられませんもの。
わたくしも、きっと選ばなくてはいけないのでしょう。
現在わたくしは、当主としての教育を受けております。我が領には、領民がいるのです。
放り出すことなど、できません。
なので、わたくしは――――
彼の元婚約者だった方は仰いました。『龍胆のままでいるのはごめんでしたし、水仙を愛でる趣味もありませんもの』と。
わたくしだって、あの方同様に……龍胆のままではいたくありませんし。水仙に付き合い続けられる程、酔狂でもありません。
なので、決めました。
わたくしは、彼との婚約を解消しようと思います。
彼に婚約の解消を申し出ると、
「そう。好きな人ができたんだね。少し残念だけど、おめでとう」
少し寂しそうな笑顔で、あっさりとわたくしを祝福してくれました。
「ええ。本当に、ありがとう、ございました……」
ああ、やはり……あなたは、簡単にわたくしの手を放せるのですね。
好き、でした。わたくしを、あのつらい状況から救い出してくれたあなたが。
熱心にわたくしを助けてくれるあなたに、わたくしへ優しい眼差しを注いでくれるあなたが、わたくしのことを好いてくれているのだと思ったこともありました。
けれど、わたくしは龍胆でいることも、水仙に付き合い続けることもできないと判断しました。
なので、あなたを好きだったことを、この気持ちを断ち切ることにします。
それからわたくしは、求婚者の釣り書き中から条件のいい方を選んでお見合いをして――――
領主としてのわたくしを支えてくれる方と結婚し、穏やかに暮らしております。
彼は相変わらず――――正義感が強くて優しく、困っている人を助け続けて、皆さんに囲まれて人気者のようです。ちらりと、あのときとはまた別の、可哀想な境遇の女性の側に寄り添っているのが見えました。
彼が愛でるは、龍胆か水仙か……
龍胆の花言葉は、『正義』や『勝利』、『誠実』に加え……『悲しんでいるあなたが好き』などがあります。そして水仙の花言葉は、『自惚れ』や『自己愛』などでしたわね。
彼は無自覚に可哀想な女性を好んでいるのか、それとも……彼を見上げるきらきらとした瞳。その瞳の中に映る、自分をこそ愛しているか。
なんて――――わたくしにはもう、どうでもいいことですわね。
願わくば……もしあなたが龍胆を好むとご自分で自覚してしまった場合には、意図的に可哀想な境遇の方を作り出したりしませんように。
そう、願っております。
どうか、あなたもお幸せに。
――おしまい――
。.:*・゜✽.。.:*・゜ ✽.。.:*・゜
読んでくださり、ありがとうございました。
多分、花言葉を知ってる人には、なんとなく落ちが想像できたかもしれませんね。ꉂ(ˊᗜˋ*)
水仙なら、自己完結して一人でも幸せになれる。でも、龍胆を自覚したらヤンデレまっしぐらかも……?
窮地を救ってくれた王子様的な人に一回うっかり惚れちゃったけど、冷静になってよくよく考えてみたら、ヤンデレorナルシストって無いわー……な話でした。(*`艸´)
彼が龍胆か水仙かはご想像にお任せします。
感想を頂けるのでしたら、お手柔らかにお願いします。(*・ω・)*_ _)ペコリ
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