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俺の八つ当たり受けろ? お前らが、その子にやってることと同じだろ。

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 うちで開催されているパーティーで、家族に冷遇されている子供を見た。

 なんでも、その子が生まれるときに母親が亡くなったそうで。それから、父親と上の兄弟に目の仇にされているのだとか。俺は初めて見たが……有名になる程の、噂をされる程の家族の言動。

 奥さんが、母親が亡くなって悲しいとか寂しいとかはわかるけどさ? でも・・・馬っ鹿じゃね? って思うのは、俺が他人だからなんだろうけどさ?

 でも、これじゃ亡くなった母親も本当浮かばれないぜ。

 俺、こういうの大っ嫌いなんだけど? ちょっと前に、親友が突然神学校に入りやがった。それもこういう、ほぼ同じような理由で、だ。

 見てて聞いてて、至極不快だわ。むしゃくしゃする。癇に障る。

 というワケで、子供に向かって「人殺しが!」とか、「お前のせいで愛する妻が……」とか云々、周囲の視線もはばからず、大人げなく怒鳴っている見苦しいオッサンと、罵倒されて委縮している子供の間に割って入ることにした。

 俺の前で、そんなクソみたいなことしてるそっちが悪い。

 罵倒されてる子は親友じゃないし、このオッサンはアイツの父親じゃないのも判ってる。

 けど、赦せん。目障りで耳障りだ。

 だから――――俺の八つ当たり受けろ? お前らが、その子にやってることと同じだろ。

「あの、五月蠅うるさいんですけど? そういうの、やめてくれません?」
「なんだ君はっ!?」
「主催側の関係者ですけど? 他のパーティー参加者の迷惑になるのですが? そんなにその子が疎ましいなら、とっとと養子に出すなりなんなりすればいいじゃないですか」

 それがこの子の為にもなる。

 家族として暮らして行けないなら、さっさと離れればいいと思う。だというのに、こういう輩はなぜか、元凶だと信じ込んでいる相手……子供を、不幸な状況下に置いておかないと気が済まないらしい。謎思考過ぎるぜ。

「それは失礼をした。しかし、これは我が家の問題だ。口出ししないで頂こう」
「やー、実際、あなた方は他のパーティーでもやらかしているので、大変見苦しいんですよ」
「っ!?」

 現に、主宰側の俺が誰だか判らないのがいい証拠。良識ある人達から遠巻きにされて、まともに社交できてないんじゃね?

「それに、他人の俺が口出しするのもどうかと思うんですが……あなた方の奥さん、そして母親は本当に可哀想ですよね」
「……ええ。コイツが生まれたせいで、妻は若い身空で亡くなってしまいました。本当なら、もっと生きたかったでしょうに」

 と、またしても子供へと憎悪の籠る眼差しを向けるオッサン。

「本当ですよね。あなた方がそうやって、その子を目の仇にする度、冷遇する度、理不尽に叱責する度、『キャー、わたしの仇に仕返ししてくれてありがとう! わたしの産んだ子だけど、そんなの関係ないわ! だって、わたしの命を奪った子だものね! もっと冷遇して、もっとつらい目に遭わせて、追い詰めて思い知らせてやって!』って、そういう、自分の子供を傷付けて喜ぶような性格の悪い女だって、死んだ後も家族に、旦那や子供に喧伝されるって、マジ憐れだわー」

 あ、やべ。思わずってか、めっちゃ口調崩れた。ま、いっか。どうせ、うちよか爵位低い相手だし。それに、全くもって、微塵も、一切尊敬できねぇし。

「っ!? な、なにを言っているっ!! 妻を侮辱するなっ!!」

 おお、めっちゃ顔真っ赤。マジ切れされてるわ。けどさ?

「え~? だって、アンタらがやってんのは、そういうことでしょ? アンタの奥さんは、命懸けで産んだ子を、自分が死んだからって、残されたアンタや他の兄弟達に、『自分の仇を討ってね?』って言うような女だって。自分達でそう貶めてるじゃん。死んだ後まで、そんな『性格の悪い、自分の子供を傷付けて喜ぶような悪女』だって。アンタらの言動で示されて、マジ可哀想。奥さんが自分で頼んだワケじゃなくても、自分達が自主的にその子を虐げてるんだとしても、だ。『奥さんは、母親は、そういうことされて喜ぶような女』だって、アンタ達がそう示してんじゃん。ヤだわー。アンタの奥さん、そんな女だったワケねー? 家族にそう思われて、実際にアンタらにそういう行動取られてんじゃん。死んだ後にそういう汚名着せられてるってことだろ? 死者に鞭打つって、こういうこと言うんだろうなー?」
「っ!!」

 なんぞ、めっちゃショックっ!! って顔してるわ。

「アンタらがその子へ掛けた言葉が、行動が、態度が、アンタの奥さんを、お前らの母親を、性格の悪い、自分の子供が虐げられて喜ぶような悪女だって周囲に示してんだよ。アンタらの奥さん、母親は、そんなことを喜ぶような女なの? もっとやれって、そんなこと言うような女なの?」
「ち、違うっ!? 妻は、妻は決してそんな非道な女じゃないっ!?」

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