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中編
しおりを挟むそんなある日のこと。
「アンタ、まだママがここに迎えに来るって信じてるの? バッカじゃない? そんなアホな子って、アンタくらいなものよ。そもそもさ、アンタのママのビョーキって、どう聞いたってヤク中なんだけど。ああ、ヤク中って知ってる? 違法な薬を、勝手に使う悪い奴のことよ。薬欲しさに犯罪でもなんでもする、クズな奴ら。入院って言ってるみたいだけど、それも怪しいわ。更生施設だとか、刑務所の間違いなんじゃないの? まぁ、間違いなくアンタを虐待した罪で、逮捕は確実だけど」
と、サンディよりも年上の女の子が、サンディのママを信じて待つ気持ちを踏み躙って笑いました。
意地悪な言葉に、サンディは施設へ来て初めて声を上げて泣いてしまいました。
「なに泣いてんのよ? あたしはアンタに、親切にゲンジツってやつを教えてあげただけよ」
女の子はサンディの泣き顔を見てそう言うと、どこかへ行ってしまいました。
そうやって、心無い言葉に打ちのめされたサンディが失意で落ち込んでいるときのことでした。
「是非ともこの子を養子に迎えたい」
と、言ってくれる人が現れたのでした。
サンディを養子にと望んだのは、とてもお金持ちの一家でした。
何度も施設に足を運び、サンディに面談をして、自分達が如何にサンディを家族にしたいと願っているかを熱心に語るのでした。
サンディは、とてもとても迷っていました。
施設にいるのは、捨てられた子達。誰も迎えに来ない。親が迎えに来たことなんてない――――そんなことを言われても、今までのサンディは、ずっとずっとママのことを信じていました。
サンディのママだけは違う。病気が治ったら、絶対に迎えに来てくれるの! だから、サンディは他の家の養子になんかならない! サンディはママを待っているんだから! と。
けれど・・・年上のあの子に言われた言葉がサンディの胸を、ママを信じていた心を、ずたずたに傷付けたのです。
サンディのママは病気。
それも、薬物中毒という最低な病気。
入院したのは更生施設。そうじゃなければ、サンディを虐待した罪で逮捕されていて、刑務所の中にいる・・・
サンディは、ママに虐待されていた・・・
その言葉が、ずっと頭から離れません。
ママはサンディを愛していなかったの?
サンディは、ママを愛していたのに。愛していたから、どんなにつらくても我慢していたのに――――
サンディが迷っている間、お金持ちの一家はサンディを急かすことはありませんでした。「ゆっくり考えて、いい返事を聞かせてほしいからね」とのこと。
けれど、サンディがどうしようかと迷っているうちに施設の他の子供達が、
「お金持ちが引き取ると言っているのにそれを断って施設に居座るつもりだ」
「なんて嫌な奴」
「あんなバカなガキなんかより、自分が金持ちに引き取られたい」
「なんの価値も無いクセに」
「ヤク中のガキが、なにを勘違いしてんだか」
と、サンディを目の敵にして嫌がらせをするようになりました。
サンディのごはんが取られたり、わざと溢されたり、駄目にされたりしました。
わざとぶつかられて、何度も転ばされました。
身体のあちこちに痣ができました。
わざと洋服を汚されました。
一人だけ仲間外れにされました。
みんなに無視されました。
みんなに笑われました。
毎日、小さな傷が絶えませんでした。
判り易く虐めたり、大きな怪我をさせられることはありません。問題児だと見做されると、養子にしてもらえなくなるかもしれないからです。
大人達には判らないよう、陰湿にサンディへの嫌がらせは続きました。
もっと確りしなさいと職員達に叱られました。
サンディに問題があるのだと言われました。
みんなと仲良くしなさいと言われました。
話を聞いてもらえませんでした。
職員達はサンディを助けてくれませんでした。
施設の中にはサンディの味方をしてくれる人は、誰もいませんでした。
サンディは、ママを待つことに迷いを生じていました。そしてとうとう、施設にいる他の子供達に陰湿な嫌がらせを受けることに疲れてしまいました。
自分にはなんの価値も無い、と。
その結果、サンディは――――
サンディを引き取りたいと熱心に言っていたお金持ちの家に里子に出ることを決めました。
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