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しおりを挟むロイ様とレイラ様、そしてお二人の息子のレオル君。三人が並んでいるところを見て、切なそうな……どこか、泣き出しそうにも見えたセディック様は――――
ご自分が、幸せになってもいいのかな? と、わたしに聞かれました。
そんなの、当然です。
セディック様とネイサン様の……ご両親(と、そうお呼びするのも嫌ですが)が、悪いのであって。お身体の丈夫ではなかったセディック様は、なにも悪くありません。
本来であれば、ネイサン様への罪悪感など感じる必要も無かった筈なのです。
ネイサン様がネヴィラ様と似ていらっしゃるのは、一目瞭然。嫁姑問題があろうがなかろうが、ネイサン様を生んだのは、実の母親であった……お会いしたことが無いのでお名前しか知りませんが、メラリア様なのです。
お二人も子供を生んでおきながら、母親には成れなかった残念な女性。
仲の宜しくなかったというネヴィラ様と、そのネヴィラ様によく似たネイサン様を厭うたことについては多少の同情と、一定の理解を示しましょう。
けれど、ネヴィラ様とは然程似てはいないセディック様のことだって、セディック様がご両親を嫌う様子から鑑みると、あまり可愛がってはいなかったのでは……? と、容易く推察できてしまいます。
・・・いえ、それは違いますね。ご両親の愛情を知らない、とセディック様はご自分で断言致しました。少なくとも、セディック様もネイサン様も、実のご両親に愛されたと感じてはいないのです。
そもそも、親というのは、自分の子供が生まれただけで簡単に成れるものではないのだそうです。親というのは、子供を育てながら、自分も子供に色々と教わりながら、親として育てられて、漸く成れるものなのだと、わたしの母が言っていました。
ネイサン様が本当に実のご両親のことを、もうどうとも思ってはいないように。無関心であるように見えるのに比べ、未だセディック様は、彼らのことを嫌いだと、赦せないのだと憤っていました。
それは、ネイサン様がご両親に対してなにも期待していないから。ネイサン様の心にはもう、ご両親を想うお気持ちが然程無いからに外なりません。
誰しも、なにも期待していないものに対しては、最初から感情を動かしたりはしないもの。よく知らない他人に対して無感情なのと同じことでしょう。まあ、迷惑や実害を被れば、悪感情を抱くのは普通のことだと思いますけど。
これを言うとセディック様はわたしにとても怒るか、否定なさるかもしれませんが……セディック様は、きっと期待をなさっていたのです。
ご両親が、セディック様とネイサン様。お二人のことを愛し、慈しんでくれることを。普通の家族のように仲良く暮らせることを。
けれど、その願いは叶わなかった。
セディック様はご自分のその期待が裏切られたことが、とても哀しかったのです。悔しかったのです。そして、そのことに・・・幼い頃から、ずっとずっと憤り続けているのです。
子が親を慕うのは、親の愛情を求めるのは自然なこと。どんなに酷い親であろうとも……やはり、愛してほしいと、求めてしまう心はなにもおかしくはないと、わたしは思います。
ネイサン様にその親の愛情を求める気持ちが希薄なのは、きっと物心が付く前に親許を離れ、ネヴィラ様とヒューイ様に育てられたからなのです。
ネイサン様にとって、両親……父親と母親だと認識しているのはエドガー様とメラリア様という実のご両親ではなく、ネヴィラ様とヒューイ様。そして、クロシェン家のミモザ様とトルナード様だからなのでしょう。
そう言った意味では、セディック様の方がネイサン様よりも……ご両親のことに囚われている、と言えるのかもしれません。
そう……セディック様は、ずっとご両親のことに囚われていたのです。ご両親がネイサン様にしたされた仕打ちに。ご自分が、長年ご両親へとされていた仕打ちに。
だから、セディック様は――――
ネイサン様に対して、過剰な罪悪感を抱いてしまうのでしょう。ご自分が、幸せになってもいいのかな? と、そう深く苦悩していたのでしょう。
『ネイトは優しいから』と、何度も仰るセディック様は・・・おそらく、ご自分のことを優しいとは思っていないのかもしれません。けれど、ご自分でそうは思っていないだけで、セディック様がとてもお優しい方だということを、わたしは知っています。
いいえ。ネイサン様やわたしだけではないでしょう。セディック様に助けられた人は、沢山いるのです。成績が良いからと妬まれていた方。才能があるのに、それを充分に活かすことのできなかった下位貴族の方。居丈高な方々に虐げられて、潰されそうになっていた方。
それらの方々を、ときにハウウェル侯爵家の威光を使用して、ときに元第三王子殿下の威光を利用して、ときに裏から手を回して、影に日向に助けていらっしゃったことは、セディック様を慕う方々のご様子から一目瞭然。ネイサン様とはまた違ったやり方で、セディック様に救われていた方は沢山いるのです。
斯く言うわたしもまた、セディック様に救われたうちの一人。
セディック様が、リヒャルトを可愛がればいいとおっしゃってくれたお陰でわたしは救われました。有象無象の『誰か』の言葉など、関係無い。自分がやりたいこと、したいと思っていることをしてもいいのだと、そうわたしに気付かせてくれたのは、誰でもないセディック様なのです。
わたしに、リヒャルトを愛する歓びを教えてくれたのはセディック様なのです。
ご自分が寂しい思いをしても、どんなに傷付いても、ネイサン様の幸せを願って行動できるセディック様。そして、ネイサン様だけでなく、リヒャルトのことも実の弟のように可愛がってくださるセディック様。
その在り方が、尊敬から愛しさへと変わって行ったのはいつのことでしょう・・・
誰かを愛することは、守ることはとても自然にできるのに。愛されることには慣れていない様子の、どこか臆病なセディック様には――――
まずは、わたしの愛情を信じてもらうことから始めましょう。
わたしが、リヒャルトが、どれ程セディック様のことを大好きになって、愛しているかを伝えましょう。
ふふっ、なぜだかセディック様の慌てるお顔が浮かぶ気がしますね。
「覚悟してくださいね? セディック様」
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まあ、自分でも実は俺って案外繊細だったのかっ!? と、びっくりしました。ꉂ(ˊᗜˋ*)
なので、どういう風に書いたらいいのか? というのが、ヤトヒコの中で決まるまで気長に待って頂けるとうれしいです。(*ᴗˬᴗ)⁾⁾
後でこのお返事は差し替えるかもです。(´-ω-)人
tensinokizunaさん。感想をありがとうございます♪
すみません、体調不良で返事が遅くなりました。(´-ω-)人
楽しんでもらえて、なにか心に残って頂けたなら幸いです♪(*´∇`*)
tensinokizunaさん。感想をありがとうございます♪
ネイサン「まあ、そうなんですが……数年来の習慣もありますが。ぶっちゃけ、スピカになんと手紙を書いていいのかわからないんです!」(ノω・`|||)
「スピカに、好きな男の子が……」(lll __ __)