上 下
672 / 673

579

しおりを挟む


「そ、れは……」

 前に、どこかで聞いたような言葉。

 ああ……そう、だ。

 キアン君が、似たようなことを僕に言っていた。どこか人を見透かすような尊大な態度で――――

 『確執に、引け目だか負い目だか、罪悪感だかは知らぬが・・・それらを抱くのは自由だ。しかし、それらを理由にして自身を不幸にするのは如何なものだぞ』と。『お前の弟は、自身が理不尽な目に遭ったからとそれを嘆き、誰かの不幸を願うような狭量で陰険な男か?』と、僕に訊いた。

「セディック様のことが大好きなネイサン様が、セディック様のことが大好きなわたしの可愛いリヒャルトが。セディック様が不幸な顔をしていて、その様子を見てもなにも思わず、笑って暮らせるような薄情な子だと、そう思っているのですか?」

 ネイトは、リヒャルト君は……「どうしたの、どこか痛いの? セディー」って、「セディー兄さま元気ないですか?」って、きっと僕のことを心配してくれる。

 ケイトさんの声と共に、『あまり、自分の弟を見縊みくびってやるな。お前になにかあれば、あれは悲しむだろう』と、キアン君の声が蘇り――――

「セディック様は、ご自分を自己満足な不幸・・・・・・・に陥らせることで、それを贖罪にするつもりで、ネイサン様やリヒャルトの顔を曇らせるおつもりですか? 悲しい思いをさせるおつもりですか?」

 ふるふると、首を横に振る。

「では、ネイサン様を、リヒャルトを幸せにして、セディック様も一緒に幸せになりましょう。誰が赦さなくても。セディック様がご自分のことを赦せずとも。わたしもネイサン様も、リヒャルトも、ネヴィラ様も、ヒューイ様も、セディック様の味方です」

 優しく背中を撫でられて……

「忘れないでください。あなたのことを愛している人達は、あなたの幸せを願っているのですから」
「っ……ありがとう、ございますっ……ケイトさん」

 ぼろぼろと目から零れる熱い雫が、嗚咽が止められない。

「はい」

 まだ、僕は自分を赦せそうにはないけど。でも、幸せになってもいいのだとケイトさんに言われて――――赦されてもいいのだと、そう思えるようになった。

 「……あい、して ……ます…… ケイトさん」

「ふふっ、ようやく言ってくれましたか。わたしも、愛していますよ。セディック様」

 小さく掠れた声に応える、愛情の滲む声。柔らかくて温かい唇が、そっと額に落とされた。

 ああ、きっと僕は・・・ネイトが言った通り、随分と前からケイトさんのことを好きになっていたんだ。

 そう言えば――――『お前、あまりバカな言動をして凛々しい嫁御よめごに捨てられぬよう、せいぜい気を付けるがいいぞ』って、キアン君に忠告を受けた気がする。

 占いは信じていないけど・・・あの忠告は、有り難く肝に命じておこう。

 ケイトさんに嫌われるのは、ネイトやリヒャルト君に嫌われるのと同じくらい、耐えられない。

✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽


 多分、次の話は視点変更。

 セディーのこの話書くの、結構キツかった……(*゚∀゚)=3


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

公爵令嬢の立場を捨てたお姫様

羽衣 狐火
恋愛
公爵令嬢は暇なんてないわ 舞踏会 お茶会 正妃になるための勉強 …何もかもうんざりですわ!もう公爵令嬢の立場なんか捨ててやる! 王子なんか知りませんわ! 田舎でのんびり暮らします!

完結 若い愛人がいる?それは良かったです。

音爽(ネソウ)
恋愛
妻が余命宣告を受けた、愛人を抱える夫は小躍りするのだが……

裏切りの代償~嗤った幼馴染と浮気をした元婚約者はやがて~

柚木ゆず
恋愛
※6月10日、リュシー編が完結いたしました。明日11日よりフィリップ編の後編を、後編完結後はフィリップの父(侯爵家当主)のざまぁに関するお話を投稿させていただきます。  婚約者のフィリップ様はわたしの幼馴染・ナタリーと浮気をしていて、ナタリーと結婚をしたいから婚約を解消しろと言い出した。  こんなことを平然と口にできる人に、未練なんてない。なので即座に受け入れ、私達の関係はこうして終わりを告げた。 「わたくしはこの方と幸せになって、貴方とは正反対の人生を過ごすわ。……フィリップ様、まいりましょう」  そうしてナタリーは幸せそうに去ったのだけれど、それは無理だと思うわ。  だって、浮気をする人はいずれまた――

婚約者の隣にいるのは初恋の人でした

四つ葉菫
恋愛
ジャスミン・ティルッコネンは第二王子である婚約者から婚約破棄を言い渡された。なんでも第二王子の想い人であるレヒーナ・エンゲルスをジャスミンが虐めたためらしい。そんな覚えは一切ないものの、元から持てぬ愛情と、婚約者の見限った冷たい眼差しに諦念して、婚約破棄の同意書にサインする。 その途端、王子の隣にいたはずのレヒーナ・エンゲルスが同意書を手にして高笑いを始めた。 楚々とした彼女の姿しか見てこなかったジャスミンと第二王子はぎょっとするが……。 前半のヒロイン視点はちょっと暗めですが、後半のヒーロー視点は明るめにしてあります。 ヒロインは十六歳。 ヒーローは十五歳設定。 ゆるーい設定です。細かいところはあまり突っ込まないでください。 

婚約破棄? 五年かかりますけど。

冬吹せいら
恋愛
娼婦に惚れたから、婚約破棄? 我が国の規則を……ご存じないのですか?

【完結】要らないと言っていたのに今更好きだったなんて言うんですか?

星野真弓
恋愛
 十五歳で第一王子のフロイデンと婚約した公爵令嬢のイルメラは、彼のためなら何でもするつもりで生活して来た。  だが三年が経った今では冷たい態度ばかり取るフロイデンに対する恋心はほとんど冷めてしまっていた。  そんなある日、フロイデンが「イルメラなんて要らない」と男友達と話しているところを目撃してしまい、彼女の中に残っていた恋心は消え失せ、とっとと別れることに決める。  しかし、どういうわけかフロイデンは慌てた様子で引き留め始めて――

(完結)私が貴方から卒業する時

青空一夏
恋愛
私はペシオ公爵家のソレンヌ。ランディ・ヴァレリアン第2王子は私の婚約者だ。彼に幼い頃慰めてもらった思い出がある私はずっと恋をしていたわ。 だから、ランディ様に相応しくなれるよう努力してきたの。でもね、彼は・・・・・・ ※なんちゃって西洋風異世界。現代的な表現や機器、お料理などでてくる可能性あり。史実には全く基づいておりません。

もう誰にも奪わせない

白羽鳥(扇つくも)
恋愛
妹に奪われ続けてきました。お人形も本もドレスも、家族の愛も… そしてその対象が婚約者になる頃には、私は全てを諦めていた。 ある時、「悪役令嬢」を名乗る第二王子の婚約者と話した後、 彼女だと勘違いされた男から関係を強要されてしまう。 責任を取って新たな婚約を結んだものの、理不尽にも恨まれてしまい… そんな私にも、奪われない物はあった。絶対に、誰にも。 ※表記には軽いですが性描写が入ります。R15越えはありません。 ※アルファポリスでの掲載再開しました。第二章は一日二話投稿です。 ※第15回恋愛小説大賞に参加。

処理中です...