虚弱な兄と比べて蔑ろにして来たクセに、親面してももう遅い

月白ヤトヒコ

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「そ、れは……」

 前に、どこかで聞いたような言葉。

 ああ……そう、だ。

 キアン君が、似たようなことを僕に言っていた。どこか人を見透かすような尊大な態度で――――

 『確執に、引け目だか負い目だか、罪悪感だかは知らぬが・・・それらを抱くのは自由だ。しかし、それらを理由にして自身を不幸にするのは如何なものだぞ』と。『お前の弟は、自身が理不尽な目に遭ったからとそれを嘆き、誰かの不幸を願うような狭量で陰険な男か?』と、僕に訊いた。

「セディック様のことが大好きなネイサン様が、セディック様のことが大好きなわたしの可愛いリヒャルトが。セディック様が不幸な顔をしていて、その様子を見てもなにも思わず、笑って暮らせるような薄情な子だと、そう思っているのですか?」

 ネイトは、リヒャルト君は……「どうしたの、どこか痛いの? セディー」って、「セディー兄さま元気ないですか?」って、きっと僕のことを心配してくれる。

 ケイトさんの声と共に、『あまり、自分の弟を見縊みくびってやるな。お前になにかあれば、あれは悲しむだろう』と、キアン君の声が蘇り――――

「セディック様は、ご自分を自己満足な不幸・・・・・・・に陥らせることで、それを贖罪にするつもりで、ネイサン様やリヒャルトの顔を曇らせるおつもりですか? 悲しい思いをさせるおつもりですか?」

 ふるふると、首を横に振る。

「では、ネイサン様を、リヒャルトを幸せにして、セディック様も一緒に幸せになりましょう。誰が赦さなくても。セディック様がご自分のことを赦せずとも。わたしもネイサン様も、リヒャルトも、ネヴィラ様も、ヒューイ様も、セディック様の味方です」

 優しく背中を撫でられて……

「忘れないでください。あなたのことを愛している人達は、あなたの幸せを願っているのですから」
「っ……ありがとう、ございますっ……ケイトさん」

 ぼろぼろと目から零れる熱い雫が、嗚咽が止められない。

「はい」

 まだ、僕は自分を赦せそうにはないけど。でも、幸せになってもいいのだとケイトさんに言われて――――赦されてもいいのだと、そう思えるようになった。

 「……あい、して ……ます…… ケイトさん」

「ふふっ、ようやく言ってくれましたか。わたしも、愛していますよ。セディック様」

 小さく掠れた声に応える、愛情の滲む声。柔らかくて温かい唇が、そっと額に落とされた。

 ああ、きっと僕は・・・ネイトが言った通り、随分と前からケイトさんのことを好きになっていたんだ。

 そう言えば――――『お前、あまりバカな言動をして凛々しい嫁御よめごに捨てられぬよう、せいぜい気を付けるがいいぞ』って、キアン君に忠告を受けた気がする。

 占いは信じていないけど・・・あの忠告は、有り難く肝に命じておこう。

 ケイトさんに嫌われるのは、ネイトやリヒャルト君に嫌われるのと同じくらい、耐えられない。

✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽


 多分、次の話は視点変更。

 セディーのこの話書くの、結構キツかった……(*゚∀゚)=3


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