670 / 673
577
しおりを挟む「セディック様は、どうお考えですか?」
質問に質問で返される。
「僕、は・・・ケイトさんが、望むなら・・・」
答えた声が、思ったよりも小さく掠れている。ああ、みっともないなぁ。
「セディック様は、自分の子供ができることが怖いのですか?」
真っ直ぐに見詰める瞳を見ていられなくて、目を伏せる。
「僕、は……」
「はい」
急かすことなく、話を聞く姿勢を見せるケイトさん。
「自分の両親が、ずっと嫌いでした」
「はい」
あの二人が、僕から小さかったネイトを取り上げた。ネイトに冷たくした。ネイトを傷付けた。だから、嫌いだった。ずっとずっと、大嫌いだった。
「愛情のある振りをして、お祖父様とおばあ様を責める為の道具にされることが嫌だった。なにより、僕を理由にして、ネイトに酷いことをするのが心底赦せなかった」
「はい」
普段、母はずっと僕に付いていた。でも、母からの愛情なんて感じたことなど無かった。
「それに、僕は……普通の家庭というのを知りません。貴族の家なら大して珍しくもないかもしれませんが。家族全員で食事をした覚えも、殆ど無い。父と母と、話の通じる会話をしたような覚えも無い。だから僕は……家族の愛なんて、知らない。そんな僕が、もしも自分の子供が生まれたとして……ちゃんと可愛がれるのかな? 父や母みたいに、自分の子供を疎まないでいられるのかな? 子供に酷いことをしないと、ケイトさんに酷いことを言ったり、つらい目に遭わせないと、傷付けないと言い切れるのかな?」
そう考えると・・・とても怖い。怖くて、堪らなくなる。
だって、僕は紛れもなくあの二人の子供で――――あの二人と長いこと一緒に暮らしていた。そして、幼少期にはあの二人を切り捨てることを決めた。僕は、自分が薄情者だと知っている。関心が無い人には、幾らでも冷たくなれる。現に、両親を切り捨てたところで、なんの痛痒も感じなかった。むしろ、これで邪魔者が消えると、安堵さえした。
僕はそういう人間だ。そんな冷たい、薄情な人間だ。
「はぁ・・・根が深いですね」
珍しく、呆れたようなケイトさんの深い溜め息。
「このようなことは、あまり言いたくないのですが」
そう前置きしたケイトさんの言葉に、身構える。
「実はわたし、セディック様とネイサン様のご両親の話を聞いたときから、彼らのことが嫌いでした」
「え?」
「でも、今。更に大嫌いになりました」
顰められた顔に、静かな怒りを感じる。
「知っていますか? セディック様。自分の子供を生んだだけでは、自分の子供が生まれただけでは、人間は親には成れないのですよ。そういう意味では、セディック様とネイサン様のご両親は、親に成り切れなかった方々ということになります」
「?」
「セディック様と、ネイサン様をお育てになったのは、誰ですか? ネヴィラ様とヒューイ様ではありませんか? クロシェン家の方々ではありませんか? 彼らは、セディック様とネイサン様のご家族ではありませんか?」
「それ、は……」
「セディック様は、彼らに愛されているのではないですか? それとも、セディック様は彼らからの愛情を感じられませんか?」
ケイトさんの質問に、首を振って否定する。
「セディック様の言葉を聞いたら、ネヴィラ様とヒューイ様は、セディック様に家族だと思われていなかったのだと、ショックを受けてしまいますよ。それに・・・」
ぐいっと頬に手を添えられ、無理矢理上げられた顔を、ケイトさんに真っ直ぐ覗き込まれた。
「わたしは、セディック様に傷付けられる程柔じゃありません。もしセディック様が間違ったことをしたら、引っ叩いてでも止めてあげます。わたしの平手打ちは痛いですから、覚悟してくださいね? リヒャルトのことを悪く言った元婚約者を、吹っ飛ばしたこともあるんですから」
「ぁ、ははっ……痛いのは、嫌だなぁ……」
16
お気に入りに追加
750
あなたにおすすめの小説


なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?
ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。
だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。
これからは好き勝手やらせてもらいますわ。

生命(きみ)を手放す
基本二度寝
恋愛
多くの貴族の前で婚約破棄を宣言した。
平凡な容姿の伯爵令嬢。
妃教育もままならない程に不健康で病弱な令嬢。
なぜこれが王太子の婚約者なのか。
伯爵令嬢は、王太子の宣言に呆然としていた。
※現代の血清とお話の中の血清とは別物でござる。
にんにん。

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

婚約破棄で見限られたもの
志位斗 茂家波
恋愛
‥‥‥ミアス・フォン・レーラ侯爵令嬢は、パスタリアン王国の王子から婚約破棄を言い渡され、ありもしない冤罪を言われ、彼女は国外へ追放されてしまう。
すでにその国を見限っていた彼女は、これ幸いとばかりに別の国でやりたかったことを始めるのだが‥‥‥
よくある婚約破棄ざまぁもの?思い付きと勢いだけでなぜか出来上がってしまった。

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる