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しおりを挟む「セディック様は、どうお考えですか?」
質問に質問で返される。
「僕、は・・・ケイトさんが、望むなら・・・」
答えた声が、思ったよりも小さく掠れている。ああ、みっともないなぁ。
「セディック様は、自分の子供ができることが怖いのですか?」
真っ直ぐに見詰める瞳を見ていられなくて、目を伏せる。
「僕、は……」
「はい」
急かすことなく、話を聞く姿勢を見せるケイトさん。
「自分の両親が、ずっと嫌いでした」
「はい」
あの二人が、僕から小さかったネイトを取り上げた。ネイトに冷たくした。ネイトを傷付けた。だから、嫌いだった。ずっとずっと、大嫌いだった。
「愛情のある振りをして、お祖父様とおばあ様を責める為の道具にされることが嫌だった。なにより、僕を理由にして、ネイトに酷いことをするのが心底赦せなかった」
「はい」
普段、母はずっと僕に付いていた。でも、母からの愛情なんて感じたことなど無かった。
「それに、僕は……普通の家庭というのを知りません。貴族の家なら大して珍しくもないかもしれませんが。家族全員で食事をした覚えも、殆ど無い。父と母と、話の通じる会話をしたような覚えも無い。だから僕は……家族の愛なんて、知らない。そんな僕が、もしも自分の子供が生まれたとして……ちゃんと可愛がれるのかな? 父や母みたいに、自分の子供を疎まないでいられるのかな? 子供に酷いことをしないと、ケイトさんに酷いことを言ったり、つらい目に遭わせないと、傷付けないと言い切れるのかな?」
そう考えると・・・とても怖い。怖くて、堪らなくなる。
だって、僕は紛れもなくあの二人の子供で――――あの二人と長いこと一緒に暮らしていた。そして、幼少期にはあの二人を切り捨てることを決めた。僕は、自分が薄情者だと知っている。関心が無い人には、幾らでも冷たくなれる。現に、両親を切り捨てたところで、なんの痛痒も感じなかった。むしろ、これで邪魔者が消えると、安堵さえした。
僕はそういう人間だ。そんな冷たい、薄情な人間だ。
「はぁ・・・根が深いですね」
珍しく、呆れたようなケイトさんの深い溜め息。
「このようなことは、あまり言いたくないのですが」
そう前置きしたケイトさんの言葉に、身構える。
「実はわたし、セディック様とネイサン様のご両親の話を聞いたときから、彼らのことが嫌いでした」
「え?」
「でも、今。更に大嫌いになりました」
顰められた顔に、静かな怒りを感じる。
「知っていますか? セディック様。自分の子供を生んだだけでは、自分の子供が生まれただけでは、人間は親には成れないのですよ。そういう意味では、セディック様とネイサン様のご両親は、親に成り切れなかった方々ということになります」
「?」
「セディック様と、ネイサン様をお育てになったのは、誰ですか? ネヴィラ様とヒューイ様ではありませんか? クロシェン家の方々ではありませんか? 彼らは、セディック様とネイサン様のご家族ではありませんか?」
「それ、は……」
「セディック様は、彼らに愛されているのではないですか? それとも、セディック様は彼らからの愛情を感じられませんか?」
ケイトさんの質問に、首を振って否定する。
「セディック様の言葉を聞いたら、ネヴィラ様とヒューイ様は、セディック様に家族だと思われていなかったのだと、ショックを受けてしまいますよ。それに・・・」
ぐいっと頬に手を添えられ、無理矢理上げられた顔を、ケイトさんに真っ直ぐ覗き込まれた。
「わたしは、セディック様に傷付けられる程柔じゃありません。もしセディック様が間違ったことをしたら、引っ叩いてでも止めてあげます。わたしの平手打ちは痛いですから、覚悟してくださいね? リヒャルトのことを悪く言った元婚約者を、吹っ飛ばしたこともあるんですから」
「ぁ、ははっ……痛いのは、嫌だなぁ……」
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