虚弱な兄と比べて蔑ろにして来たクセに、親面してももう遅い

月白ヤトヒコ

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「ロイ兄さま!」
「おう、リヒャルトも久し振り。元気だったか?」
「はいっ! ロイ兄さまはおつかれですか?」
「まぁ、赤ちゃんが可愛いからちょっとな。ついつい、じ~っと見ちまうんだ」
「わかりますっ」

 赤ちゃんが生まれてから、ロイ君はうちじゃなくてフィールズ公爵家に寝泊まりしている。なんでも、レイラさんと交代で赤ちゃんの面倒を見ているそうだ。

 寝不足なのか目の下に隈を作って少々疲れた顔をしているけど、それでも笑顔で、全然つらそうには見えないし、機嫌も良さそうだ。

 初産で旦那の方が生まれたばかりの赤ちゃんの面倒を見ることは珍しいと、助産師や医者が驚いていたらしい。しかも、ロイ君は赤ちゃんの面倒を見るのが上手い。

「どうしてロイ様はそんなに抱っこが上手なんですのっ?」

 と、新米ママなレイラさんが不満そうに唇を尖らせるくらいには。

「ああ、スピカとは年が離れているからな。赤ん坊の面倒見るのは、ちっこい頃から慣れてるんだよ」

 ロイ君はそう言って笑っていた。

 最初はさすがに、新生児の扱いには緊張していたし、今でも扱いが慎重なのに変わりはないけど。

 でも・・・ロイ君がレイラさんと赤ちゃんのことを、とても可愛がっていることがわかる。

 普通の家族って、こんな感じなのかな? なんて、感心してしまう。まぁ、ロイ君はきっと、多分普通の父親よりはかなり子煩悩な父親という部類に入りそうだけど。

 そういう光景は僕には、少し・・・

「今来たんですか?」
「……え? ああ、ううん」
「レイラ様に赤ちゃんを見せてもらって、今から帰るところです」

 なんだかぼんやり気味な僕の代わりに応えたのは、ケイトさん。

「ああ、そうですか。すみません、セディックさんの手伝いを放っぽり出して」
「ふふっ、全然気にしなくていいよ? どうせ、うちにいても気もそぞろだったし。下手なミスを連発されるくらいなら、レイラさんに付いててあげた方が断然いいですからね」
「うっ……」
「それより、ロイ君?」

 と、ロイ君の顔を覗き込む。

「は、はい」
「レイラさんと赤ちゃんの体調を気遣うのは当然なんだけど。君も、ちゃんと休まないと駄目だよ」
「へ?」

 チクリと揶揄からかった後だからか、ぱちぱちと驚いたように瞬く瞳。あ、なんかこういう顔は、スピカちゃんと似ているかも。

「赤ちゃんの子守りをするのと、レイラさんの看病をするのは凄くいいことだと思うよ? でもね、それで君が無理して倒れたら、レイラさんが心配するでしょ。それに、フィールズ公爵家にも迷惑が掛かる。だから、睡眠と食事はきちんとって元気でいること。約束、できる?」
「はい。ありがとうございます。セディックさん」

 にっこりと笑って頷くロイ君。これなら大丈夫かな?

「宜しい。それじゃあ、僕達は帰りますね」

 と、うちに戻った。

✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽

 それから――――赤ちゃんを見たいというリヒャルト君の要望でレイラさんと赤ちゃんのお見舞いにフィールズ公爵家をちょくちょく訪ねることになった。

 赤ちゃんの名前も、ロイ君とレイラさんが一生懸命考えて、レオル君と命名された。

 ロイ君もレイラさんも疲れた顔はしているけれど、段々と回復して来て・・・大変そうだけど、幸せそうでもある。

「あ、赤ちゃん……レオルくんがうごきましたっ」
「ああ、小さいお口がむにゃむにゃして本当に可愛いのですっ♪」
「はい、かわいいですっ♪」

 と、週末に帰省して来るなり赤ちゃん……レオル君の傍に張り付いているルリアさんと一緒に、飽きもせずにレオル君をきゃっきゃっと眺めているリヒャルト君。

「ルリも、早くレオル君を抱っこしたいです」
「ぼくも、レオルくんだっこしたいです」
「はいはい、抱っこはレオルの首がちゃんと据わってからな?」
「くびがすわるんですか?」
「あ~、えっと、あれな。赤ちゃんが、自分で自分の頭を持ち上げられるようになることを首が据わるって言うんだよ。それまでは、赤ちゃんは自分の頭も持ち上げられないからな。抱っこに慣れてない人が抱っこすると、赤ちゃんが危険なんだ。首を怪我したら大変なことになるからな。わかるか?」
「育児書によると、大体三~五ヶ月くらいで首が据わるようになる、と書いてあったのです。リヒャルト君。レオル君が成長するまでは、ルリと一緒に我慢です」
「わかりました……三ヶ月、ガマンです」

 なんて、微笑ましいやり取りをしている。

 ぼんやりとそんな光景を眺めていると・・・


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