虚弱な兄と比べて蔑ろにして来たクセに、親面してももう遅い

月白ヤトヒコ

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 視点変更です。

__________

「へぇ……新生児って、こんな感じなんだ」
「おかおがまっかで、とっても小さいですね。赤ちゃん、おねつですか?」

 すやすやとベビーベッドに眠る赤ちゃんの顔を、柵越しにそっと見詰めるリヒャルト君。起こさないようにと、心配そうな小さく囁く声。

「ふふっ、いいえ? この子は元気ですわ。生まれたばかりの赤ちゃんは、お顔や身体が真っ赤なものと決まっているそうですよ。全身が赤いから、『赤ちゃん』と言うらしいですわ」

 クスリと笑うレイラさんの顔は、少し前に比べると少々窶れて見える。けれど、柔らかい笑顔を赤ちゃんとリヒャルト君へ向けている。

「そうなんですか? 姉さま」
「はい。そのようです。それにしても、こうしていると・・・リヒャルトが赤ちゃんの頃のことを思い出しますね」

 リヒャルト君へ返事をする、ケイトさんの愛おしそうな視線。

「ぼくが赤ちゃんのころ、ですか?」
「ええ。その頃のわたしは学園寮に入っていたので、週末にしか会えませんでしたが……リヒャルトも、最初はあんな風にとっても小さかったのですよ」
「ふえ~」

 ケイトさんの言葉に、自分の手と小さな赤ちゃんとを見比べるリヒャルト君。

「ぼくもおっきくなってたんですね~」
「ふふっ、リヒャルトも日々成長していますからね」

 真っ赤な顔でぴすぴすと小さな寝息を立てて眠る男の子は、生まれたばかりのロイ君とレイラさんの息子だ。

 赤ちゃんを出産して数日が経ち、レイラさんの容体が落ち着いたとのことでお見舞いに来たら、赤ちゃんはお昼寝中だった……というか、新生児は大体の時間を寝て過ごすそうなので、起きている時間の方が少ないらしい。

 赤ちゃんはトータルでは寝ている時間が長い。とは言え、短いスパンで授乳時間が来るので、お母さんは大変なのだと聞いたけど。

 僕の記憶にある、ネイトが赤ちゃんの頃に比べると・・・生まれたばかりの赤ちゃんは、顔や皮膚が赤い。そして、全てのパーツがとても小さい。

 生後約三ヶ月くらいのネイトのことも、とっても小さくて繊細だと思ったものだけど、新生児はあの頃のネイトよりも、輪を掛けてちょこんとして小さい印象だ。

 なんとも小さくて、脆くて、か弱そうに思う。けれど、むにゃむにゃと小さな口や細くて柔らかそうな手足が、偶に動いている。その度に、リヒャルト君が目を輝かせて感嘆の声を上げる。

「では、そろそろ行きましょうか」
「ええ~、ぼく、もうちょっと赤ちゃん見てたいです」
「駄目ですよ。赤ちゃんのうちは、あまり身体が丈夫ではありませんからね。それに、レイラ様もお疲れでしょうから、負担を掛けてはいけません」
「ハッ、そうでした! レイラ姉さまも赤ちゃんも、おだいじに、です」
「ふふっ、ありがとうございますリヒャルト君。もう少し大きくなったら、この子と遊んでくれますか?」
「いいんですかっ!?」
「勿論ですわ。リヒャルト君が、この子のお兄様になってくれると嬉しく思います」
「ぼ、ぼくがお兄さま……はいっ! まかせてくださいっ、レイラ姉さま!」

 キリッとした顔で、とても嬉しそうに胸を張るリヒャルト君。

 嬉しい気持ちは僕にもわかる。お兄様になるというのは、とっても誇らしいことだもんね。

「では、帰りましょうか」
「ええ」

 と、帰ろうとしたら・・・

「あれ? 来てたんですか、セディックさん達」

 少し疲れた様子のロイ君が現れた。

「ロイ兄さま!」


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