664 / 673
571
しおりを挟むロイがレイラさんと向こうに行って、約一月が経ったある日。
「・・・疲れた」
と、なんだか少々窶れた顔をしたロイが帰って来た。
「あら、お帰りなさい。そんなに疲れた顔をしてどうしたの?」
「そんなに疲れる旅路だったのか?」
怪訝な顔のミモザさんとトルナードさん。
「いや、セディックさんの八つ当たりがちょっとな・・・お前の兄貴、愛が重い」
「え~っと?」
ちょっと、ロイがよくわからないことを言っている。
「セディーが八つ当たりなんて、そんな子供っぽいことするワケないでしょ? なに言ってるの? そもそも、なにに対する八つ当たりなの?」
「セディックさんの愛が重いことは否定しないんだなっ!?」
「まぁ、一応? セディーがかなりのブラコンなのは自覚してる」
「お前も大概だからなっ!?」
自分だって、割と無自覚なシスコンのクセに・・・まぁ、言うとウルサそうだから言わないけどね!
「セディック君になにをされたの?」
「なにをっつーか……ネイサンの代わり? に、仕事手伝えって、めっちゃ計算させられた」
「ロイ、ネイサンがこっちでお前の代わりをしていたんだから。あちらでお前がネイサンの代わりを求められるのは、なにも不思議なことじゃないだろう」
「そうね~」
やれやれという呆れ顔でロイを見やるトルナードさんとミモザさん。
「いや、『ネイトの代わりに鍛えてあげるね?』とか薄ら寒くなるような圧のある笑顔で計算表を山積みにされて、人が一生懸命計算してたら、チラッと覗き込んで、『遅くない?』とか『ここ間違ってるからやり直しね?』とか、『字が汚いから書き直してね?』ってチクチク言って来るんだぜ! しかも笑顔で! つか、チラッと見ただけですぐ答え判るなら自分でやった方が早いだろ!」
「計算は慣れだからね。って言うか、ロイを鍛えてあげるって話なんだから、セディーが自分で計算しちゃ駄目でしょ? それに、二重チェックは基本だし」
「そうだな。セディック君はなにも間違っていないし、悪くないと思うぞ? 字の書き損じや計算間違い、読み間違えられる程の汚い字は書類の不備だ。それに、ハッキリ言ってロイよりもネイサンの方が書類の処理が早いからな。セディック君がネイサンと同等の手伝いをロイに求めていたのだとしたら、むしろ期待外れだったのではないか?」
「そうね。むしろ、足を引っ張っていたであろうロイを、文字通りに鍛えてくれたんだから。文句を言わないで感謝しなきゃ」
「うぐっ!?」
「きっと、ミスばかりするロイに、セディック君もイラ付いていたでしょうし」
「まぁ、ロイは知らないと思うけど。セディーって、興味無い人や嫌いな人はそもそも近寄らせないタイプだし。若干イラ付いてても相手するなら、ロイは嫌われてないってことだよ?」
「あの当たりのキツさで、嫌われてないとか嘘だろ……」
「それじゃあ、さっさとお風呂入っちゃいなさい」
と、ロイが帰って来たので・・・
わたしもそろそろ向こうに帰らなきゃなぁ。
それから、出産に立ち会いたいというロイの要望でトルナードさんと相談して、レイラさんの出産予定の半月程前にはロイが向こうに行くことになった。
無論、その期間のロイの代わりはわたしが務める。
「はぁ・・・向こうでの滞在中は、またお前の兄貴のイヤミ攻撃を食らうのか」
自分で言い出したクセに、今から憂鬱そうな溜め息を吐くロイ。
「なら、フィールズ公爵家に滞在すればいいんじゃない?」
「あっちはあっちで、ルリアの当たりがキツい」
「ああ、ルリア嬢……」
結婚式のとき、レイラさんのことでロイにガツンとかましてたからなぁ。
レイラさんはよく、「ルリアってば、レイラ姉様のことが大好きなのね♪」って喜んでいるけど。あれ、実は結構本当のことっぽいんだよねぇ。本人的には、幼少期からエリオットを庇う為にレイラさんの気を引いていたというつもりなのかもしないけど。ルリア嬢もまた、無自覚なシスコンなのかも・・・?
それに、最近はめっきりセディーに似た笑顔をするようになっちゃって。セディーに若干の苦手意識? を持っているらしいロイからしたら、ルリア嬢のこともちょっと苦手になって来ているのかも。
「それじゃあ、行くのやめる?」
「いや、絶対に行く!」
「まぁ、どうせあと数ヶ月は先のことなんだから今から心配? してもね」
「お前、なんかこうめっちゃ図太くなったよな?」
「ふふっ、よく言われるねぇ」
「けど・・・俺の代わりをしてくれて、助かった。礼を言う」
「どう致しまして。ま、こういうのはお互い様だから気にしなくていいよ?」
「つまり、お前になにかあったときには手を貸せ、と? 別にいいけどな!」
そんなことを話して――――
うちに、帰ることにした。
離れ難い……とは思うけど、そもそもスピカは平日は学校だし。クロシェン家にはいない。
週末にまた会いに来るから、と伝言を残して。
✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰
10
お気に入りに追加
727
あなたにおすすめの小説
完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。
音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。
だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。
そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。
そこには匿われていた美少年が棲んでいて……
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。
曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」
「分かったわ」
「えっ……」
男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。
毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。
裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。
何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……?
★小説家になろう様で先行更新中
[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで
みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める
婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様
私を愛してくれる人の為にももう自由になります
王子妃だった記憶はもう消えました。
cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。
元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。
実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。
記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。
記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。
記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。
★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日)
●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので)
●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。
敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。
●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。
とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」
成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。
「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」
********************************************
ATTENTION
********************************************
*世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。
*いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。
*R-15は保険です。
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる