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 実は、わたしは・・・

 ほんのちょっとだけ、ねえ様の気持ちを信じられないでいた。

 ねえ様の愛情は、微塵も疑っていない。

 ねえ様は、わたしのことをとても大事にしてくれていることは判る。

 それが判らない程、わたしは馬鹿じゃない。

 わたしはねえ様のことが大好きで、ねえ様も多分わたしのことを好きでいてくれている。

 けど、でも・・・

 愛情には、幾つもの種類がある。

 ねえ様のその愛情は、兄が妹を想うような愛情ではないか? と。

 ねえ様がわたしを好きな気持ちは、家族を想うような愛情で・・・

 小さい頃のわたしが、ねえ様と婚約したいと言って我儘を言ったから。だからねえ様は、わたしと婚約してくれたんじゃないかな? って。

 小さい頃のわたしが、ねえ様と離れたくないって我儘を言ったせいでねえ様は、五才も年下の子供と婚約する羽目になってしまったんじゃないのかな? って。

 本当は迷惑に思っていて・・・でも、ねえ様は優しいから。妹のように想っているわたしを傷付けまいとして、婚約を続けてくれているんじゃないのかな? って。

 小さい頃に自分を預かってくれた家に対する義理で・・・ねえ様が断ったら、十年も婚約していたわたしが、他の人と婚約するのは難しいと思ってくれたから?

 そう、どこかで不安に思っていた。

 だって、わたしはねえ様よりも五つも年下で・・・

 わたしはねえ様や大おば様、ケイトお姉様みたいに、誰もが綺麗だと思うような美人さんじゃない。

 わたしはレイラお姉様やルリア様みたいに可憐で可愛らしくもない。

 なにか特別な才能があるワケでもない。

 そそっかしくて、泣き虫で、母様や兄様にはアホの子って言われるし、父様にもすっとぼけた子だと思われている。

 乗馬ができて、スリングショットがちょっと得意で、他の貴族令嬢よりは荒事に対応できる。これくらいしか取り柄が無い。

 まぁ、この取り柄というのも、貴族令嬢としてはどちらかというとマイナス評価だと思うし、全然お淑やかじゃない。人によっては、お転婆だと嫌うこともある。

 こんなわたしが・・・

 美人で優しくて、かっこよくて、逞しくて、とってもとっても素敵なねえ様の婚約者でいていいのかな?

 子供のわたしより、同年代の素敵な女性が婚約者の方が良かったんじゃないかな?

 ねえ様のことをずっと誤解して勘違いしていたわたしが、ねえ様の邪魔してるんじゃないかな?

 そんな風に、不安に思うこともあった。

 なのに・・・ねえ様がわたしの婚約者なのが嬉しくて、「スピカが嫌じゃなかったら、わたしと婚約を続けてくれない?」って言ってくれたねえ様の優しい言葉に甘えて、婚約を続けていた。

 わたしは、ねえ様がわたしの婚約者でいてくれて嬉しかったから。

 でも、でも・・・

 さっきの、「ありがとう」って、「愛してる」って。そう言ってくれたときのお顔が、すっごく優しくて、愛おしそうな笑顔でわたしを見詰めてくれたから・・・

 だから、わたしは・・・

 ちょっとくらい、自惚れてもいいんじゃないかな? って、そう思ってしまった。

 ねえ様も、わたしのことを好きでいてくれてるんだ、って。

 ああもうっ!? ねえ様のあの笑顔、破壊力抜群なんですけどっ!?!?

 なんて考えているうちに、眠れないと思っていたのに・・・

 段々うとうとして・・・

 ・・・・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・

 ぱちりと目を開けると――――

 いつの間にか朝だったっ!?

 なんかわたし、ぐっすり寝てたみたい。眠れないと思ってたんだけどなぁ?

 えっと、今日は……レイラお姉様に付いて行った兄様の旅券や荷物を届けに行くために……

「ハッ!? ねえ様とデートっ!?」

 ぼんやりしている暇は無い!

 ちょっとでもねえ様に可愛いって思ってもらえるように準備しなきゃっ!?

。.:*・゜✽.。.:*・゜ ✽.。.:*・゜ ✽.。.:*・✽

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