虚弱な兄と比べて蔑ろにして来たクセに、親面してももう遅い

月白ヤトヒコ

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 レイラお姉様と、ねえ様に馬車に蹴り込まれた兄様が隣国のフィールズ公爵家へ向かったと、夕食のときに父様に報告して――――

「あら、ロイを見ないと思ったらそんなことになっていたのね」
「・・・ネイサン、ロイがいないと少々困るのだが?」
「ああ、はい。ロイがいない間の仕事は、ちゃんとお手伝いしますよ?」
「そうか」
「それにしても、レイラさんは大丈夫かしら?」

 母様が心配そうな顔で言いました。

「そうですよね。今のレイラお姉様は、心配ですよね」
「ええ……折角、実家に戻って羽を伸ばせると思っていたでしょうに。あの小うるさいロイが一緒にいては、ストレスが溜まると思うのよねぇ……」
「ええっ!? 母様っ? 心配するのそこですかっ!? なんか違くないっ!?」
「あら、スピカ。なにを言ってるの? 妊婦にストレスは大敵なのよ?」
「そ、それはそうかもしれませんけどっ、なんかもっと他に気にすべきとこがあると思うんですけどっ!?」
「まぁ、幸いなことにレイラさんは、あまり悪阻が酷いタイプじゃないみたいだし。ちょこちょこ動いてロイに捕獲されちゃうくらい元気だから、きっと大丈夫よ」
「ロイに捕獲……?」
「ええ。レイラさん、運動が好きみたいで。乗馬しようとしたり、ダンスを踊ろうとしたりして、ロイに何度も捕獲されてるのよ」

 クスクスと笑う母様の話にねえ様のお顔がぎょっとした表情に変わる。

 まぁ、わたしもレイラお姉様にクイックステップに誘われたときには驚きましたけど。あれは、本当に困りました。

「他にも、踵の高い靴からをぺたんこ靴に履き替えてほしいと口論になったりとか」
「ああ、あれは、兄様と可愛い靴を買いに行くってことで話が付いたんですよね~」

 レイラお姉様、可愛くない靴は履きたくないって言ってたけど、実は……「だってわたくし、背が低いんだもの。ぺたんこな靴でロイ様と並ぶと、わたくしちんちくりんに見えてしまうわ」って、背が低いことを気にしていたりして。なんかこう、レイラお姉様が可愛かったです!

「ぺたんこ靴を買ったら、張り切って家の中を散歩し出して、階段の上り下りをするときにロイに捕獲されたりしてたわね」
「この数ヶ月、兄様がレイラお姉様をお姫様抱っこしてお部屋に連れて行くのを何度も見ましたね~」
「仕舞いには、レイラさんに階段の上り下りを禁止して、部屋を一階に移しちゃったりして。本当、ロイは心配性よねぇ」
「・・・ロイを馬車に放り込んで正解だったのでは?」

 ねえ様が渋い顔で言うと、

「ああ、そのようだな」

 父様も同じく渋い顔で頷きました。

「まぁ、そういうワケなので、ロイの旅支度と旅券の手配をお願いしたいのですが」
「わかった」
「手配ができ次第、届けに行こうと思います。レイラさんの身体も配慮して、馬車はゆっくり進むでしょうが、領境に着くまでには届けたいですね」
「ああ、急がせよう。まあ、ロイも苦労するだろうが、レイラさんはミモザよりはマシだからな」
「え?」
「あら、ヒドい言い種だこと」
「いや、ストレスが溜まったからと狩りに行きたがる妊婦は他にいないだろ」
「まあ、失礼しちゃうわ。妊婦だって、猟銃をぶっ放したくなるくらいのストレスが溜まることくらいあるわ。あと、どうしても新鮮なお肉が食べたくなったりとか」
「ええっ!? 母様、妊娠中にそんなことしてたんですかっ!?」


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