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 視点変更。

__________



「スピカ様は、こんなお話を知っていらっしゃいますか? 噂なのですが」
「噂、ですか?」
「ええ。なんでも、少し前から話題になっているみたいなのですが……」

 と、学校でお友達が話してくれた噂は・・・

 なんでも、少し前から国境付近にとんでもなく美人な女性騎士が現れるという話でした。

 曰く、街道で馬車が立ち往生して困っているときに近隣の街から応援を呼んでくれた。

 曰く、悪質な宿にぼったくられそうになったときに別の宿を紹介してもらった。

 曰く、野盗に襲われているところを助けてもらった。

 どうやら、美人な騎士様はその麗しい? という外見に反して、かなりお強いようです。

 助けられたという人が一目惚れをしてプロポーズをしたところ、『男に興味は無いので』とバッサリ断られてしまったのだとか。

 それで、麗しい孤高の騎士様に対して崇拝? に近い畏敬の念を持つ方もいるそうです。

 見掛けると幸せになるだとか、そんな噂まであるそうで・・・

「は~……すっごい女性の騎士様がいらっしゃるんですねぇ」
「スピカ様は、ご存知なかったのですか?」

 なぜか、驚きの表情を浮かべるお友達。

「え? ええ。どうかしましたか?」
「いえ、くだんの『麗しい孤高の騎士様』は、スピカ様のところのクロシェン領の方へ向かっていたというお話なので、スピカ様がなにかご存知ではないかと思ったものですから」
「お役に立てなくてすみません」
「いえ、いいのです。ふふっ……おバカな婚約者が、『麗しい孤高の騎士様』にお会いしてみたいなどとのたまっていたので、少し気になっただけですので。スピカ様がご存知ないということは、実在しないかもしれませんもの」

 と、お友達が上機嫌で話してから――――

 美人で、優しくて、その外見に反して腕っ節が強い。美人なのに男性には興味が無くて、国境の方からうちの領に向かって移動する方なんて・・・

「ハっ!? も、もしかして」

 もしかすると、『麗しい孤高の騎士様』って、ねえ様のことだったりしますかっ!?

 あれ? でも、ねえ様は男の方ですし。女性ではないですよね?

 ってことは、ねえ様みたいに美人で強くてかっこいい女性の騎士様がいるってことですね!

 という話をうちでしたら――――

「お前、相変わらずボケたこと言ってんな? うちに向かって移動する美人って、それ十中八九ネイサンのことじゃね? 女と間違われてんのは、アイツも不本意だと思うけどさ?」
「まぁ、ネイサン君みたいに美人な騎士様がそうそういるとは思えないわね」

 呆れ顔の兄様、そして母様にはクスクス笑われた。

 くっ……そんなに笑わなくてもいいのに!

「あら、そうでもありませんわ」

 にこにことレイラお姉様が会話に入って来ました。

「ん? なにがそうでもないんだよ? レイラ」
「ネイサン様がこちらとあちらを行き来して、もう二年程が経っていますもの。噂になるには、遅過ぎると思いますわ」
「そうか? 前に聞いたら、アイツ。整備されてない道を突っ切ることもあるとかで、あんまり人と遭遇しなかっただけなんじゃね?」
「ですから、ネイサン様ではないと思いますわ。ネイサン様があまり大きな街道を使っていないのでしたら、ここまで大きな噂になることはありませんもの。それに、女性騎士は少ないですがちゃんといますわ」
「?」
「実はわたくし、少々里帰りをしようと思いまして」
「あ、ああ、そうなのか?」

 レイラ姉様の言葉に、兄様が少し狼狽える。実は兄様って、レイラお姉様のこと大好きですよね?

「ああ、そう言うことですか」

 ピンと来たという風な母様が一人頷く。

「え? どういうことですか?」
「それにしても、いきなり里帰りだなんて、どうしたんだ? レイラ」
「そうですね~。実はわたくし、赤ちゃんができまして。出産は向こうでしようと思いますの。それで、実家と連絡を取っていたのですわ。女性騎士の噂というのは、彼女達がしている、わたくしの移動ルートの確認のせいでしょうね」

 にこにこと、まだ目立たないお腹を撫でながら言い募るレイラお姉様。

「まぁ、とんでもない美人な騎士様というのはおそらくネイサン様のことでしょうけど。彼女達は、ネイサン様程の美人ではありませんもの。最近になってフィールズ公爵家うちの実家が派遣した女性騎士が行き来することで、色々と噂が入り混じってしまったのだと思いますわ」
「・・・へ?」

 ぽかんと間抜けな顔をする兄様。

「お、おめでとうございますレイラお姉様っ!?」
「ふふっ、ありがとうございます。スピカ様」

 わたしのお祝いに、穏やかな笑顔を返してくれるレイラお姉様。

「は? あ、いや、待て! なんで向こうに出産しに行くんだっ!?」
「馬鹿ね、そりゃあ出産するなら実家の方がいいに決まってるじゃない。妊娠中や出産前後の女性は、本当に大変な思いをしますからね。実家や家族に甘えられるなら、色々と慣れている実家を頼った方がいいわ」
「そうだな。レイラさん、身体を大切にしてください」
「はい。ありがとうございます。お義父様、お義母様」
「いや、俺は納得してねぇんだがっ!?」
「レイラさん、このバカのことは全然気にしなくていいですからね」
「ああ。レイラさんが安心できる環境を作る為に尽力しよう」
「ロイとレイラさんの子供が生まれたら、わたし達もおじいちゃんとおばあちゃんになるのね」
「そうだな」

 感慨深いという表情で頷く父様と母様。

「そうですね。わたくしも、お祖父様とおばあ様にこの子を見せてあげたいと思いまして。お祖父様とおばあ様のお年では、こちらとあちらを頻繁に行き来するのは難しいでしょう?」
「・・・わかった。だが、レイラの身体になにかあったときには、向こうには行かせない」

 ご高齢だというレイラお姉様のおじい様とおばあ様の話を出され、兄様は渋々納得したようです。

「ありがとうございます、ロイ様」

 と、レイラお姉様は出産のためにフィールズ公爵家に里帰りをすることになりました。

 無事に元気な赤ちゃんが生まれて来るといいのですが――――

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