虚弱な兄と比べて蔑ろにして来たクセに、親面してももう遅い

月白ヤトヒコ

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 ロイとレイラ嬢の結婚式に参列してから少しして――――

「そう言えば、ネイサン様」

 ケイトさんが言った。

「はい、なんでしょうか?」
「スピカ様のドレスなどはどうする予定でしょうか?」
「え?」
「ほら、ネイサン様達がどうするのかにしろ、ウェディングドレスを作るのは時間が掛かりますから。意匠などはある程度決めておいた方が宜しいかと。スピカ様は可愛らしい方ですから、その可愛らしさを存分に活かしたドレスが似合うと思うのですっ!」
「えっと、その辺りはスピカの好みもありますからね。ミモザさんの拘りなどもあるでしょうし」
「ああ、そうですわね。でも、そういうお話は早くしておいた方がいいですよ」

 にっこりと話すケイトさん。

「えっと……その辺りの話は、ちょっと……」

 う~ん・・・どうしよ? 言っていいのかな? これ・・・

「どうしました? なにか困ったことでもあるのですか? ・・・ま、まさか、今更トルナード様に結婚を反対されていたりなどしませんよね?」

 心配そうな視線が向けられた。

「反対、というか……まぁ、時間稼ぎのようなことは……」
「時間稼ぎ、ですか? トルナード様に、なにか課題でも出されましたか?」
「いえ、そんなことはないんですけど……」
「わたしには言い難いこと、なのでしょうか? セディック様には相談されましたか?」

 言い難いと言えば、言い難いことではある。

 わたしとスピカの結婚は急いでいないとは言え・・・

「そんなに深刻な事態なのでしょうか?」
「ああ、いえ。別に深刻な事態ではないので、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ」
「わたしにできることなら、なんでもします。なので、一人で悩まないでください」

 まぁ、ケイトさんにしかできないことではあるんだけどね?

「その、実は・・・」
「実は、なんでしょうか?」
「えっと、単に、セディーより先に結婚するのはどうかと思うぞ、と言われただけなので」

 スピカとどうするのかという話をしようとすると、「兄よりも先に弟の方が結婚式を挙げるのは体裁が悪いだろう」と言われて、先延ばしにされている。

 でも、一理ある。特殊な事情があるワケでもないのに、次期当主の兄より弟の方が先に結婚するのはねぇ。

「っ!? ゎ、忘れてましたわっ!? ・・・申し訳ありません、ネイサン様。取り急ぎ、セディック様とお話をしたいと思いますわ! 呼んで来て頂けますか?」
「え? あ、はい」

 顔色を変えたケイトさんに、セディーを呼び出した。

「どうしましたか? ケイトさん」
「セディック様、由々しき事態ですわ」
「なにか困ったことでも起こりましたか?」

 真剣な顔のケイトさんに、セディーも表情を引き締める。

「えっと、わたしは席を外しましょうか?」
「いえ、ネイサン様も同席してください」
「ネイトにも、関係あるお話ですか?」
「ええ。このままでは、ネイサン様とスピカ様が結婚することはできないのです」
「っ!? 一体、なにが起こったんですかっ?」
「いえ、起こったと言いますか、むしろ起こっていないからこその事態です」
「? なにかが起きていないから、ネイトとスピカちゃんの結婚することができない、と」
「ええ。実は、セディック様とわたしが・・・」
「? 僕とケイトさんが?」
「まだ婚約したままなので、兄弟の順番的にネイサン様とスピカ様の結婚はまださせられない、とトルナード様に言われたらしいのです」
「っ!? 忘れてたっ!?」
「え? セディーもなの?」
「え? 僕もって?」
「少々お恥ずかしいのですが、わたしも自分の結婚のことを失念しておりました。今の状況が心地よかったもので・・・」
「そうですねぇ・・・」

 しみじみと頷き合う二人。

 なんというか、本当に似た者同士ですね。

「というワケで、わたしとセディック様の結婚の話が進まない限り、ネイサン様とスピカ様が結婚式を挙げられませんわ」
「確かに、由々しき問題ですね」

 なんて話していると、

「あら、二人共漸く結婚してくれる気になったの? 嬉しいわ」

 にこにことおばあ様が会話に入って来た。

「おばあ様・・・判っていましたよね? このこと」

 おばあ様にじとっとした視線を向けるブラウン。

「ええ。でも、ほら? こういうことは周りが急かすものじゃないでしょう? ただでさえ、あなた達は家庭に対してあまりいい思い出がないから。余計な口出しをすると拗れちゃうんじゃないかと思って」

 にこにこと優しい眼差しに、ちょっとバツが悪そうにセディーの視線が逸らされる。

「でも、そうねぇ。いい機会だから、話を進めちゃいましょうか」

 と、何年も婚約で止まっていたセディーとケイトさんの結婚の話が進められることとなった。

 でも、その動機が、わたしとスピカの結婚式をなるべく早く見たいからってどうなんだろう?

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 自分達の結婚のことはすっかり忘れて、ネイサンとスピカの結婚式を楽しみにしていた、うっかりな似た者同士の二人。ꉂ(ˊᗜˋ*)

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