646 / 673
553
しおりを挟むハウウェルの家の仕事をしながら、クロシェン家と行き来をして――――
偶に、レイラ嬢がクロシェン家に訪問しているときにかち合ったりもした。
ロイとレイラ嬢も順調に交流を重ねて、仲良くなっている様子。
ロイとレイラ嬢、わたしとスピカでダブルデートのようにして出掛けたり……まぁ、偶に約一名程オマケが付いて来るときもあるけど。稀に、ルリア嬢がいるときがあって、そういうときにはルリア嬢が嬉しそうにオマケにエスコートされている。
レイラ嬢に可愛がられながら、ルリア嬢にお姉さん振るスピカは可愛い。まぁ、レイラ嬢とスピカより、一番年下の筈のルリア嬢の方が確りしているんだけど。
そんな風にして過ごして、偶々レイラ嬢の訪問ともかち合ったある日のこと。
「ぁ……その、いらっしゃいませ。ねえ様……」
なんだか、とても沈んだ様子のスピカ。
「あら、スピカ様。どうされました? お元気がないようですけど」
「れ、レイラ様も、いらっしゃいませ……」
レイラ嬢とわたしの顔とで視線を彷徨わせ、ぐっと唇を噛み締めたスピカは、泣きそうな顔で俯いた。
「スピカ? どうしたの? どこか痛い?」
「お医者さんを呼んだ方がいいですかっ?」
「い、いえっ、だ、大丈夫ですから!」
慌てた顔のエリオットに、スピカはふるふると首を振って断る。
「・・・おい、ネイサン。お前に、聞きたいことがある」
ムスッとした顔でロイが言う。
「なに? ロイ」
「お前は……」
「兄様!」
なにか言い掛けた言葉が、高い声に制された。
「スピカ?」
「あのな、スピカ。これは、お前だけの問題じゃねーんだよ」
「で、でも、兄様……」
「聞きたくねーなら、お前は向こう行ってろ」
「ぅ~……わ、わたしが聞きます!」
なんだか、深刻な話のようだ。
「? えっと、スピカは、わたしになにか聞きたいことがあるの?」
コクンと頷き、キッ! とコバルトブルーが挑むようにわたしを見上げた。
「ね、ねえ様が……」
「わたしが? なぁに?」
「ねえ様が、レイラ様に押し倒されたって本当ですかっ!?」
「はあっ!?!?」
「え?」
「ええっ!? れ、レイラちゃんいつの間にハウウェル先輩にそんなことしたのっ!? お嫁入りする前の女の子がそんなことしちゃ駄目でしょっ!!」
「いや、待って。わたし、レイラ嬢にそんなことされた覚え無いからね?」
「ええ、わたくしも、ネイサン様にそのようなことをした覚えはありませんわ」
「ふぇ?」
「え?」
「は?」
スピカの言葉に驚き、否定すると、ぽかんとした顔で見られた。
「そのお話、どこから聞きまして?」
「えっと、学校のお友達が……親戚がねえ様達の通っていた学校に通っていたそうで。わたしがねえ様と婚約したって聞いて、『大丈夫なの?』って聞かれて……『ハウウェル様は、フィールズ様に押し倒されたことがあるそうですけど』って。他にも、『ハウウェル様とフィールズ様は、ダンスコンテストでベストカップル賞を取るくらいに息がピッタリで仲が良い』って。『そんな風に、国で他に仲良くしている女性のいる方と婚約して大丈夫なの?』って」
しょんぼりと、泣きそうな顔で言い募るスピカ。
「んで、もしかしたらレイラ嬢はネイサンのことが好きで、だから追い掛けるために俺と婚約したんじゃないか? だとよ」
続いたロイの言葉に、頭を抱えたくなる。
「そのお話のフィールズは、わたくしじゃありませんわよ」
「え?」
「あ、えっと、その、そのお話のフィールズは、多分僕のことですね!」
「は?」
「まぁ、多分って言うか、その話のフィールズはエリオットのことだから。わたしがレイラ嬢に押し倒されたって言う事実も……その、レイラ嬢とベストカップル賞を取ったって言う事実も一切無い。事実無根だから」
「はい! 学園で、ハウウェル先輩と一緒にベストカップル賞を取ったのは僕ですからね!」
ふふんと胸を張って宣言するエリオット。
「は?」
「え? あ、れ? ええ、と……? レイラ様じゃなくて、エリオット様、が……? ねえ様、と??」
「いや、待て。じゃなにか? お前、エリオットとダンスコンテスト出たのかっ!?」
「いや、出てないし」
「ええ。正確に言うと、ネイサン様が学園を卒業するときのダンスパーティーで、エリオットとカップルを組んで踊ったのが、ベストカップル賞として表彰されたのですわ」
「え? マジ?」
「はい! マジです! あ、ちなみに、僕がハウウェル先輩のパートナーを務めたんですよっ? ハウウェル先輩、とってもかっこよかったんですからねっ♪」
「ぷっはっ!? あははははははははっ!?!? なにしてんのお前らっ!!」
「ええっ!! な、なんでまた、男の方同士でっ!?」
「ふっ、それはですね、ハウウェル先輩が、スピカ様以外の女の子とはあんまりダンスを踊りたくなかったからです!」
「え?」
ぱちぱちと瞬くコバルトブルー。
「ええ。ですから、その前の交流会……わたくし達の通っていた学園内のダンスパーティーで、ハウウェル様は、フロアクイーン賞を取りましてよ!」
「レイラ嬢! 余計なこと言わないでくださいっ!!」
「ブハっ!? ハハハハハハハハハっ!! マジかっ!? なにお前っ、バカなのっ!?」
くっ……どこぞのアホみたいに、指を差されて爆笑されたっ!
「あら、とっても合理的だと思いますわ。だって、自分よりも上手く女性パートを踊ってしまう方に、ダンスを申し込む度胸のある女性はなかなかいませんもの。現に、エリオットにダンスを申し込む女子生徒も現れませんでしたし」
「はいっ♪女の子のパートを踊ってるのを見せるだけで、女の子は寄って来なくなるからとっても楽でしたよ♪」
にこにこと笑うエリオットに、またしても響くロイの爆笑。
「そういうワケで、わたくしがネイサン様のことを恋愛的な意味で好きだという誤解は解けたでしょうか?」
にこりと聞いたレイラに、ぽかんとした顔でコクコクと頷くスピカ。
「伝聞とは言え、エリオットが誤解させるようなことをしてごめんなさいね? でも、ふふっ……ロイ様のように、お友達に爆笑されてでも、ネイサン様は他の女子生徒とはダンスを踊りたくなかったようでしたから。スピカ様は、ネイサン様に愛されていますわ。自信を持ってくださいな」
「ね、ねえ様に、愛されっ……」
ぼん、っと音がしそうな程、スピカの顔が一瞬で真っ赤になった。
「まぁ、あんまりって言うか、できれば知られたくなかったけど・・・でも、わたしが好きなのはスピカだけだから、安心して? ね? スピカ」
熱いほっぺたに手を添え、コバルトブルーを覗き込むと、
「っ!?」
スピカはコクコクと頷いてくれた。
はぁ・・・
アホな誤解が解けてよかった・・・
知られたくなかったことを暴露されたけどっ!?
__________
黒歴史が暴露された!ꉂꉂ(ノ∀≦。)σ爆笑ʬʬ
10
お気に入りに追加
736
あなたにおすすめの小説
【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。
【短編】復讐すればいいのに〜婚約破棄のその後のお話〜
真辺わ人
恋愛
平民の女性との間に真実の愛を見つけた王太子は、公爵令嬢に婚約破棄を告げる。
しかし、公爵家と国王の不興を買い、彼は廃太子とされてしまった。
これはその後の彼(元王太子)と彼女(平民少女)のお話です。
数年後に彼女が語る真実とは……?
前中後編の三部構成です。
❇︎ざまぁはありません。
❇︎設定は緩いですので、頭のネジを緩めながらお読みください。
追放された令嬢は愛し子になりました。
豆狸
恋愛
「婚約破棄した上に冤罪で追放して悪かった! だが私は魅了から解放された。そなたを王妃に迎えよう。だから国へ戻ってきて助けてくれ!」
「……国王陛下が頭を下げてはいけませんわ。どうかお顔を上げてください」
「おお!」
顔を上げた元婚約者の頬に、私は全体重をかけた右の拳を叩き込んだ。
なろう様でも公開中です。
悪役令嬢は高らかに笑う。
アズやっこ
恋愛
エドワード第一王子の婚約者に選ばれたのは公爵令嬢の私、シャーロット。
エドワード王子を慕う公爵令嬢からは靴を隠されたり色々地味な嫌がらせをされ、エドワード王子からは男爵令嬢に、なぜ嫌がらせをした!と言われる。
たまたま決まっただけで望んで婚約者になったわけでもないのに。
男爵令嬢に教えてもらった。
この世界は乙女ゲームの世界みたい。
なら、私が乙女ゲームの世界を作ってあげるわ。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ ゆるい設定です。(話し方など)
瓦礫の上の聖女
基本二度寝
恋愛
聖女イリエーゼは王太子に不貞を咎められ、婚約破棄を宣言された。
もちろんそれは冤罪だが、王太子は偽証まで用意していた。
「イリエーゼ!これで終わりだ」
「…ええ、これで終わりですね」
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?
ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。
だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。
これからは好き勝手やらせてもらいますわ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる