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しおりを挟む朝から準備をして、緊張の面持ちでレイラ嬢とのお見合いに出掛けて行ったロイ、トルナードさん、ミモザさんの三人。そして――――
「兄様は……大丈夫でしょうかっ!?」
今日は一人お留守番なスピカは、そわそわと落ち着かない様子で、さっきからずっとうろうろしている。
「大丈夫なんじゃない?」
「ぅ~……でもでも、やっぱり心配です」
「ふふっ、やはりスピカ様とロイ様も仲が宜しいのですね」
「え? わたしと兄様が、ですか?」
きょとんと首を傾げるスピカを、
「そうだねぇ。仲が良くないと、ここまで心配はしないと思いますよ?」
にこにこと眺めるケイトさんとセディー。
「スピカ姉さまは、どうしてそんなにロイ兄さまがしんぱいなんですか?」
「えっと、その……わたしが、昔、ちょっと家族に心配を掛けたことがあって……それで、その、兄様がわたしに付いててくれるようになったんですけど」
リヒャルト君の質問に、スピカは少し答え難そうにして話す。
「兄様がわたしにばっかり構うようになったので、えっと……兄様がわたしに過保護だって噂が立って。だから、それで兄様に縁談が来なくなっちゃって……兄様が女の子にモテなくなっちゃったのはわたしのせいなんです!」
前に言っていた、ロイがシスコンだっていう噂のことか。
「ロイ君がスピカさんに過保護だと、縁談が来なくなったの? どうして?」
不思議そうに首を傾げるセディー。
「その……妹のことが大好きという男の人と婚約をした主人公が婚約者に冷たくされて、それに耐え切れなくて婚約破棄をする、っていう話の本が流行ってて……」
「ああ、それで……」
シスコンは嫌だと、敬遠されていたというワケか。こっちで流行っているという本だからか、ロイはその影響を諸に受けてしまった、と。
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「おんなのこにイジワルするのは、メっ! なんですよ?」
「そうですね。兄様は、女の子にイジワルをするような人じゃないんですけどね」
「はい、ロイ兄さまはやさしいです!」
「ふふっ、わたしにはちょっぴりイジワルなんですけどね? でも、兄様にはいいお相手ができてほしいんですよね・・・」
まぁ、レイラ嬢がロイにとってのいい相手なのかは兎も角として。どうやらスピカは、ロイが令嬢達から敬遠されることに責任を感じているらしい。
「ロイ兄さまがしんぱいですか?」
「そうですね……」
「それなら、ぼくがスピカ姉さまをぎゅ~ってしてあげますねっ♪」
「はわっ!? り、リヒャルト君っ!?」
ぎゅ~っと正面から抱き付いたリヒャルト君に、わたわたと視線を彷徨わせるスピカ。
「しんぱいなときに、姉さまや母さまにぎゅ~ってしてもらうとあんしんするんですよ? だから、ぎゅ~ですっ」
「ん~……それじゃあ、わたしも」
と、リヒャルト君に先を越されたという、ちょっとだけ複雑な気持ちを隠して、スピカを背中から抱き締める。
「ねっ、ねえ様っ!?」
「姉さまも、スピカ姉さまをいっしょにぎゅ~しましょう!」
「り、リヒャルトの可愛くてとっても魅力的なお誘いっ!? で、でも、その……宜しいのでしょうか? ネイサン様」
「け、ケイトお姉様っ!?」
「ふふっ、ケイトさんがよければどうぞ?」
「で、では失礼して……」
そっと、リヒャルト君の上の方からスピカの頭を抱えるケイトさん。
「・・・いいな、ケイトさん」
わたし達へ視線を向けての小さな呟きに、
「セディー兄さまもぎゅ~しましょう?」
セディーを誘うリヒャルト君。
「え? で、でも……いいの? ネイト」
「いいよ。セディーもおいで?」
「そ、それじゃあ僕も♪」
「ええっ!?」
と、横合いからそっと腕を回すセディー。
「ぁ・・・なんかこれ、すっごく幸せかも」
「ええ、そうですね・・・可愛い弟と妹を抱き締められるって、すごく幸せですね♪」
ふにゃっとした顔で笑い合うセディーとケイトさん。
「すこしはあんしんしましたか? スピカ姉さま」
「え? あ、えっと、はい」
「それはよかったです」
にこりと慈愛に満ちた顔で柔らかく微笑まれ、さっと顔を赤くするスピカ。
「け、ケイトお姉様っ……」
そうやって、みんなでくっ付いていたら・・・
「なにやってんですか?」
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