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しおりを挟む「それで、今日はなにを致します?」
にこにことレイラ嬢が言う。
「わたくしとしましては、クロシェン様とお話するのも、昨日のようにまたスピカ様にレッスンをして頂けるのも楽しみなのですが」
「ふふっ、そうですか。では、ロイ。任せましたよ?」
にっこりと、圧のある笑顔でミモザさんはロイに丸投げした。好意的に受け取るなら、縁談相手との交流の機会を設けてくれた……ってことになるのかな?
「では、レイラ様を部屋にお通しして」
「はい」
と、ロイはレイラ嬢とお話することにしたらしいが・・・
「あの、わたくし達が一緒にいていいんですか? レイラ様」
ちょっと困ったようなスピカの質問。
なぜか、ロイとレイラ嬢の二人切りではなく、みんなでテーブルを囲んでいる。
「あら、皆さんで話した方が楽しいじゃないですか。ねえ、エリオット」
「そうです! それに、このお菓子美味しいですよっ?」
「ええ。どうぞ、遠慮なく食べてくださいな」
にこにこと、自分達の手土産のお菓子を勧める二人。
「ありがとうございます。では、頂きますね」
「いただきます」
と、手を伸ばしたのはケイトさんとリヒャルト君。
「あ、美味しいです」
二人の後にスピカも手を付け、驚きの声を上げる。
お土産のお菓子はお高い焼き菓子の数々。
「王室御用達ですからねっ♪」
「お、王室御用達ですか! 初めて食べました!」
味は勿論、折り紙付き。他にも、ジャムやテリーヌ、漬物、お茶などの日持ちする食品があるそうです。どれも高級品ばかりで、ミモザさんが喜んでいた。さすがは公爵家だと。
「ふふっ、これとこれも美味しいのでお勧めですわ」
「レイラ姉さま、あんまりおかしをたべすぎると、おひるごはんがたべられなくなっちゃいますよ」
「あら、そうですわね。それなら、お昼のデザートとおやつの時間に食べましょうか」
「そうですね。では、そのように伝えます」
と、使用人に手配。
「ところで、質問宜しいでしょうか?」
「ええ、どうぞ」
「昨日、伯爵夫人が仰っていた、『クロシェンに嫁ぐならなにかしらを習得している必要がある』、とはどういう意味でしょうか?」
「ああ、それは・・・見ての通り、うちにはネイサンや大伯母のネヴィラ様みたいな『美人』が偶に出ると有名なんですよ。なので、もしうちの者と結婚して、子供が生まれた場合。その子供が『美人』であったなら、親に子を守る力が無ければ、その子供は理不尽な目に遭う可能性が高くなる。よって、クロシェンと結婚する者には、相応の力を求めるということになっているみたいですね」
「えっと、女性にも、なんですか?」
エリオットの質問。
「ええ、そうですね」
と、ロイが話してくれたのはざっとしたクロシェンの歴史。
クロシェンの家が身分が低かった頃に生まれた『美人』な子供の不幸な境遇。
「というワケで、そういう理不尽にも立ち向かえるように、うちの子は幼い頃から武術を習わせることが決まっています。更には、嫁入りする相手や、旦那になる相手にもそれを求めます。もし、頼れる人が誰もいない状況で、自分の弟妹や子供が不逞の輩に狙われたとしても、守りたい者を自分で守れるように。もし、守り切ることができずとも、時間稼ぎくらいはできるように。時間が稼げれば、万が一連れ去られるようなことになっても、その人を取り戻せる可能性が高くなるので。実際、誘拐というのは近くに男がいない、女子供しかいない状況で行われることが多いんですよ」
「確かに。殿方がいない状況で女性や子供を狙う卑劣な輩はいますものね」
実感の籠ったケイトさんの言葉。
「おばあ様が、女性にしては強い理由がわかりましたよ」
しみじみと呟くセディー。
そういう風に、理不尽に立ち向かえと育てられて来たのなら、おばあ様の武勇伝の数々にも納得だ。
「そうでしたの。よくわかりましたわ」
「とは言え、男は兎も角として。対外的には女性が鍛えていることは伏せるのが基本なんですが」
「あら、どうしてですの?」
「防犯上の観点から、ですね。鍛えているという話が、狙っている連中に伝わると徒党を組んでの襲撃や、綿密な計画を立てられてしまったりなどしますから」
「そうですね。徒党を組まれて襲われるとなると、少々厄介ですね。怪我で済むような事態であればいいのですが……」
うんうんと頷くケイトさん。徒党を組んだ輩に襲われたことがあるんですか・・・しかも、その口振りだと自分でどうにかしちゃったんでしょうね。ケイトさんの苦労が忍ばれます。
「えっと、でもネヴィラ様は、有名ですよ?」
「ああ、大伯母様は……あれですね。昔から血の気が多かったようで。どこぞの男をぶっ飛ばした、ぶん殴った、なんて話が数十人単位で聞かれますし」
「ふぇ~……さすがネヴィラ様ですね~」
数十人って……おばあ様、そんなに人をぶん殴ったんですか。まぁ、わたしもあんまり人には言えないけど。
そんな感じで話しをして――――
「ああ、そうですわ。お見合いは明日か明後日の、都合の良い日を教えてくださいませ。連絡をお待ちしておりますわ」
「レイラちゃんのこと、よろしくお願いします!」
と、レイラ嬢とエリオットの二人は帰って行った。
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