虚弱な兄と比べて蔑ろにして来たクセに、親面してももう遅い

月白ヤトヒコ

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 ロイに叩き起こされ、ベッドから引っ張り出されて打ち合いをすることになった。

 朝のひんやりした空気の庭で。

「ふゎ……眠……」

 木剣を構えながら欠伸を洩らすと、

「お前なー、もっと真剣にやれよ」

 呆れたような視線が向けられた。

「……それ、人が寝てるとこ叩き起こした奴が言うセリフじゃないよね?」
「あ? そこはむしろ、俺に感謝するとこだろ」
「なにに?」
「それは、あれだ。過保護なお前の兄貴が見てないことに?」
「え~? わたしは別に、君と打ち合いがしたいワケじゃないんだけど?」
「るせぇ! いいからやるぞ! ちゃんと構えろ!」
「はいはい」

 と、構えるとガン! と振り下ろされる木剣。受け止めた感じは、やっぱり予想通りというか、レザン程は重くない。そして、キアン程には鋭くも速くもない。

 そこそこの腕と言ったところか。いや、大抵の人はあの二人よりは弱いだろうから、比べる相手が悪いのかも。

「お、止めたか」
「まぁ、そんなに重くないし」
「あ? 今のは小手調べだ。次は本気で行くぞ!」

 どうやら、わたしの感想はロイの負けず嫌いに火を点けてしまったようだ。ガツン! と、今度は先程よりも鋭い打ち込み。

「って、今のを余裕で止めんのかよっ!? お前、自分は強くねぇっつってたクセに!」

 驚きの声を上げつつ、攻撃はやめないロイ。

「余裕って言うか……ぶっちゃけ、君より強い相手知ってるだけ」

 木剣をなしながら、付かず離れず、返事を返す。

「マジ?」
「うん。わたし、騎士学校ではそんなに強くなかったんだよ?」
「軍事系の騎士学校っつっても、お前が通ってたのって中等部じゃなかったか?」
「中等部生徒でも、教官相手に勝てるような奴とかいたし」

 レザンとか。あと、キアンは教官に・・・「本気を出せというのは、俺に相手を殺せと言うことか?」とか聞くような奴だし。そして、基本手を抜いても学年では上位に入る腕前。食べ物を賭けると、まず負けない。本気を出しそうになると、自制してわざと負けていたみたいだけど。

「大人相手に?」
「うん。で、なぜかわたしはそういう奴に絡まれることが多くてね。実技学年一位の奴に鍛錬だなんだと、脳筋共に追い掛け回されてた」
「脳筋に……お前、大丈夫だったのか? それ」
「すっごくめんどくさかった」
「そうか・・・ま、面倒で済んでよかったとは思うが。つか、なんでまた脳筋? に絡まれる事態に? 顔か?」
「さあ? わたしの方が知りたいよ。でも、脳筋共に顔はあんまり関係無かったかな」

 然程強くない筈のわたしの実力? が、脳筋共に認められていたらしい。やたら手合わせをしろと、強引に誘われて大変だった。

「そりゃまた、いいのか悪いのか……」
「確かに」

 でも、連中に絡まれて鍛えられたのも事実ではある。

「よ、っと!」

 話しながらロイが上段に大きく振り上げた木剣を、振り下ろされる前に下から勢い良く柄を突き上げる。

「うおっ、痛ぇっ!?」

 ガン! と、衝撃があって、木剣がロイの手からスコンと抜けて飛んで行った。

「はい、わたしの勝ち」

 ロイの喉元に木剣を突き付けて言う。

「・・・お前、騙したな?」

 じっとりとした目が、わたしを上から睨み付ける。

「なにが?」
「あ? なーにが、自分は強くない、だ! この嘘吐きめ! 十分強いじゃねぇか! 言っとくが、これでも俺は騎士科では割と強い方だったんだぞ!」
「ん~……わたし、あんまり強くないとは言ったけど、弱いとは一言も言ってないよ?」
「詭弁か、この野郎っ」
「いや? 事実。だってわたし、騎士学校の実技では真ん中くらいをうろうろしてたし」
「ぅっわ、これで真ん中とか……軍事系の騎士学校と一般学校の騎士科の違いってことか~」
「ああ、それはそうかも。あそこ、ガチ軍事系だったからねぇ。ちなみに、わたしにやたら絡んで来た実技の学年一位な脳筋はバリバリ軍人の家系」
「お前にこうも簡単に一本取られるとか、なんかショックだわ……」

 口ではそう言いながらも、顔はそうでもなさそうだ。まぁ、食前の軽い運動だし。おそらくは、ロイも然程さほど本気ではなかったということだろう。

 でも・・・あれだ。ロイは確実にレザンやキアンよりは強くない。ただ、エリオットよりは強いかな?

「で、どうする?」
「ぁ~、そうだなー……」

 続けるかどうするか、聞いたときだった。

「兄様っ!? ねえ様になにしてるんですかっ!?」

 スピカの声が響いた。

「あ? つか、お前この状況見て言ってんのかよ? むしろ、されてんのは俺の方だろ」

 と、喉元に木剣を突き付けられたまま、ロイはスピカの方へ呆れ顔を向ける。

「どうせ、兄様がねえ様に勝負吹っ掛けたんでしょ! もうっ、すみませんねえ様。大丈夫ですか? お怪我はしてませんか?」
「ふふっ、わたしは大丈夫だよ。ロイは、手首大丈夫?」

 木剣を下ろし、心配そうな顔のスピカへ向き直る。

「おう、平気平気。気にすんな」
「気にするのは兄様の方でしょ!」
「うるせーな。これくらい、昔はよくやってたんだよ。お前も見てただろうが? つか、お前、さすがにパジャマで庭出て来んのはどうかと思うぜ? せめて着替えてから来いよ。なあ、ネイサン?」
「んなっ!? あ、朝っぱらから兄様がねえ様を攻撃してるからでしょっ!? もうっ、兄様のバカ~っ!?」

 と、真っ赤になったスピカは脱兎の如く家に走り去って行った。

「あ、行っちゃった……」
「そろそろ朝飯の時間だし、戻るか。お前の兄貴も起こさないとなー」

 スピカの乱入? で打ち合いは終了。

 さて、セディーを起こしに行きますか。

 多分、昨日の射撃訓練の筋肉痛で大変だろうけど・・・一応、マッサージはしたから起きられない程じゃないといいんだけど。なにげに射撃って、銃の反動を身体で受け流さないといけないから全身運動だし。

 腕や肩が上がるといいんだけど・・・


__________


 スピカ「くっ……昨日はもっと可愛いパジャマを着て寝るんだった!」”(*>ω<)o"クーーッ

 ロイ「気にすんのそこかよっ!?」Σ(-∀-;)

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