633 / 673
541
しおりを挟む「いいんだよ。ネイトはなんにも悪くないんだから」
にっこりと優しい笑み。
「それから、自分で実家に連れて来たクセに母はまたネイトを育児放棄して・・・四年後。六歳の頃、ピクニックに行った先に置き去りにしちゃったんだよねぇ」
はぁ、と深い溜め息。
「え?」
「しかも、あの二人はネイトを置き去りにしたことすらわからなくて。僕が執事に頼んでネイトを探させなかったら、どうなっていたことか・・・深夜にネイトが帰って来るまで、本当に生きた心地がしなかったんだよねぇ。挙げ句、父はネイトの乳母を馘にして。ネイトが体調を崩しても医者を呼ばないどころか、母はネイトの様子を見に行くことすらしなかった。お祖父様とおばあ様が来るまでネイトの看病は、侍女達が休憩の合間に交代でしてくれてた。だから・・・僕がお願いしたんだ。お祖父様とおばあ様に。ネイトを実家に置いていたら、どうなるかわからない。ネイトをうちから出して、両親と離してくださいって。それからのことは、ロイ君の方がわかるでしょ?」
「えっと・・・はい」
そっか、セディーなんだ。セディーが、わたしをあの家から出してくれたんだ。自分は、あの家に一人残って・・・
「そして、ネイトが実家に戻って来たのが十歳の頃。その頃には、僕は学園に通っていて・・・十五で僕が高等部に進学して、ネイトが中等部に入って来るのを、一緒に通うのを楽しみにしてたのに。それを、あの両親共はっ、無断でネイトを寮制の騎士学校に入れて・・・というワケで、僕とネイトは正真正銘の実の兄弟なのに。一緒に暮らして、一緒に過ごしている時間が少ないんだよねぇ。子供の頃は、二歳の頃から六歳の頃までの四年。十歳から十二歳までの二年で計六年。僕とネイトが、同じ家で一緒にのんびり過ごせるようになったのは、ここ数年のことだし」
「お前、向こう帰っても波乱万丈だったんだな」
「えっと、多分?」
「大丈夫です! キアン先輩に比べると、そんなに激動の人生って感じではないですから!」
「確かに。アイツと比べると、この程度のお家騒動は可愛いものだろうね」
「まぁ、キアン君に比べると・・・うちは大分マシな方だとは思えるねぇ」
遠い目をして頷くセディー。
「え? なに? お前よりハード人生な奴が知り合いにいるのか?」
「騎士学校時代のハウウェル先輩の同期で、某国王族の方です!」
「・・・マジで?」
「マジだねぇ」
「そういうワケで、ネイトと過ごす時間の少なかった僕に対する自慢やマウントは、楽しかったかな? ロイ君」
にっこりと、けれど冷たくて圧のある笑顔がロイに向けられる。
「えっと、本当にそういうつもりじゃなかったんですが・・・すみませんでした! でも、セディックさんはご両親に可愛がられていたって聞いたんですが?」
「ああ、確かに。ずっと実家で両親と暮らしていた僕は、あの二人に可愛がられているように見えるよね? 他人からは」
「違ったんですか?」
「うん。だって、あの二人が好きなのは僕じゃなくて、夫婦であるお互いだけ。僕のことは・・・あの二人がお祖父様とおばあ様を責める為の道具扱いだったし。母の看病なんて、四六時中同じ部屋で、張り付いていただけ。そこにただいるだけで、僕個人としては、母になにかをしてもらった覚えは殆ど無い。本当、鬱陶しい置物だったよ。僕の世話は、基本的に侍女が全部やってくれていたから。父は、都合良く泣き喚く母を庇うという名目で、お祖父様とおばあ様を罵るのが大好きだったみたいだよ? 普段は全く寄り付かない僕の部屋で、そういうときだけ親面する両親って、最悪だと思わない?」
「そりゃあ……セディックさんがイイ性格にもなりますね」
「ろ、ロイ様っ!?」
「ふふっ、そうだねぇ? イイ性格になったという自覚はあるよ」
そんな話をして――――
「兄様! そろそろ終わりにしましょう!」
やり切ったという笑顔でスピカが言った。
「わぁ! レイラちゃん、どうだった?」
「五回も的に当ててやったわ!」
「ぼくも、二かいまとにあてました!」
ふふんと胸を張るレイラ嬢とリヒャルト君。
「お二人共、筋がいいので練習するともっとできるようになりますよ!」
「本当ですか?」
「はい!」
「またおしえてくれますかっ? スピカ姉さま!」
「もちろんです! って、あれ? なんか兄様、お疲れ?」
「いや、気にするな。んじゃあ、今日はもう解散」
と、射撃訓練とスピカのスリングショット講座は終了。
「楽しかったですわ。ありがとうございました」
「ありがとうございました!」
にこにこと上機嫌で帰って行くレイラ嬢とエリオット。
そして、夕食には野鳥のローストが出た。
それを見たトルナードさんが、ちょっとだけ慌てた様子でミモザさんを伺っていた。
野鳥のローストは美味しく頂きました。ちなみに、明日の夕食には猪が出るそうです。
✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰
エリオット「ところで、僕が聞いていい話でしたっけ? これ」(੭ ᐕ))?
セディー「ふふっ、エリオット君は口が堅いから、誰にも言わないよねぇ?」(◜◡◝)
ロイ「ぇ、エリオットを脅してやがる……」(ill゚д゚)
エリオット「もうっ、ロイ様ってば、なに言ってるんですかっ? 優しいセディック様が僕を脅すワケないじゃないですかっ。ね、セディック様」(*>∀<*)
セディー「ふふっ、勿論だよ。僕はエリオット君を信じているからね」(◜◡◝)
エリオット「ありがとうございます、セディック様!」(*´∀`*)ポッ
ロイ「・・・天然って強ぇなっ!?」( ̄□ ̄;)!!
5
お気に入りに追加
746
あなたにおすすめの小説

生命(きみ)を手放す
基本二度寝
恋愛
多くの貴族の前で婚約破棄を宣言した。
平凡な容姿の伯爵令嬢。
妃教育もままならない程に不健康で病弱な令嬢。
なぜこれが王太子の婚約者なのか。
伯爵令嬢は、王太子の宣言に呆然としていた。
※現代の血清とお話の中の血清とは別物でござる。
にんにん。

公爵令嬢を虐げた自称ヒロインの末路
八代奏多
恋愛
公爵令嬢のレシアはヒロインを自称する伯爵令嬢のセラフィから毎日のように嫌がらせを受けていた。
王子殿下の婚約者はレシアではなく私が相応しいとセラフィは言うが……
……そんなこと、絶対にさせませんわよ?

冤罪から逃れるために全てを捨てた。
四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)

なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?
ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。
だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。
これからは好き勝手やらせてもらいますわ。

【短編】復讐すればいいのに〜婚約破棄のその後のお話〜
真辺わ人
恋愛
平民の女性との間に真実の愛を見つけた王太子は、公爵令嬢に婚約破棄を告げる。
しかし、公爵家と国王の不興を買い、彼は廃太子とされてしまった。
これはその後の彼(元王太子)と彼女(平民少女)のお話です。
数年後に彼女が語る真実とは……?
前中後編の三部構成です。
❇︎ざまぁはありません。
❇︎設定は緩いですので、頭のネジを緩めながらお読みください。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。


【完結】誠意を見せることのなかった彼
野村にれ
恋愛
婚約者を愛していた侯爵令嬢。しかし、結婚できないと婚約を白紙にされてしまう。
無気力になってしまった彼女は消えた。
婚約者だった伯爵令息は、新たな愛を見付けたとされるが、それは新たな愛なのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる