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「さっき、ミモザさんになにを言われたの?」

 ミモザさんになにかを言われた後から、セディーのやる気が上がったように見えた。

「ああ、ミモザさんが……『セディック君。考えてみて? もし、ネイサン君が事件に巻き込まれたとして。ネイサン君がセディック君に助けを求めたときに、セディック君にその腕がなかったら困ると思わない?』って言うから。だから僕、ネイトの為に頑張ろうと思って」

 それで張り切り出したのか……

「母上……」

 呆れ顔で溜め息を吐くロイ。

「確かに、ハウウェル先輩が助けを求めるとしたら、それは相当な相手ですね……」
「や、真剣に考えなくていいから」

 そもそも、そんな状況なら尚更セディーには助けを求めないと思う。

「え? なにお前、そんな強いの?」
「や、わたしは別にそんな強くないよ?」
「だって、エリオットは俺に決闘を挑んで勝つつもりだったんだろ? そのエリオットがお前に一目置いてるってことは、お前にはそれなりの腕があるってワケだ」
「えっと、僕は一般の人には余程のことがないと負けないと思っていただけで、ロイ様に勝てるかは微妙ですよ? 僕、剣はあんまりですし」
「そうなのか?」
「はい。僕、剣よりも体術の方が得意なので」
「成る程。運動神経方面は、スピカとは似てないのか……」
「ふぇ? スピカ様がなにか?」
「いや、なんでもない」
「そうですか?」
「一応、一般的な令息が齧った程度の剣なら、エリオットの方が強い筈だよ」
「ま、だろうな。なんせ、あの監獄騎士学校卒だもんな?」
「監獄騎士学校って……そんな風に有名なの? あそこ」
「おう、近隣諸国では割と有名。なんつーの? やらかした輩とかの更生施設も兼ねてんだろ? そこ通った奴が、入る前と人格変わって出て来たとか言う都市伝説みたいな話とかあるし」
「そうなんだ……」

 まぁ、あそこに入って性格が変わったというのは・・・あり得る話ではある。更正と言えば更正、かなぁ? 基本、脳筋共が幅を利かせているところだし。多少イキっているという程度の輩なら、自信やらなにやらが実力で叩き潰され、性根も叩きめされることだろう。

「監獄って程は酷くないと思うんですけどね~。僕以外にも、あの騎士学校が快適だって言ってた人は結構いましたし」
「・・・マジで? そんな図太い神経した奴が、エリオットの他にもいたのかっ?」
「はい! キアン先輩を筆頭に、実家や養家などで居場所のない人達、お家騒動などで暗殺の危険がある人達は、学校の方が安全だって言って寛いでましたよ?」
「・・・え? なにそれ? 家の方がヤバいって、マジヤバくね?」
「ネイトのいた騎士学校って、あんまり知られてないみたいだけど。実はやんごとない身分の方達の避難所として使われることもあるそうだよ? ほぼ現役並みの、元軍属という教官がごろごろいて、警備体制がかなり厳重で……生徒を逃がさない代わりに、守ってもいるって聞いたことがある」
「そうですね~。継承権問題で微妙な立場の方とか、一学年に数名はいましたし」
「そう言えば……いたね。複数名は」

 キアン以外にも、数名の顔が浮かぶ。確かに、上の学年や下の学年にも、訳有りな生徒が数名いた。

「・・・これ以上は、なんかきな臭い話ンなりそうだからやめとこうぜ」

 困ったように首を振り、 

「というワケで、久々にやるか。ネイサン」

 ニヤリと笑うロイ。

「やるって、なにをするの? ロイ君」
「そりゃあ、やるっつたら手合わせに決まってるでしょう」
「え? やるの?」
「いやー、十年振りくらいか? 昔は俺のが強かったけど、今はどうなんだろうなー?」
「は? 勝負はトントンだったと思うけど?」
「いーや、俺のがお前より強かったし、勝ってンのも俺のが多い。なんせ、俺はお前の兄弟子だからな!」

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