虚弱な兄と比べて蔑ろにして来たクセに、親面してももう遅い

月白ヤトヒコ

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 クロシェン家に帰ると、

「あら、お帰りなさい。動物園は楽しかったかしら?」

 先に帰っていたらしいおばあ様に出迎えられた。

「はいっ、たのしかったです!」

 元気よく返事を返すリヒャルト君。

「そう、それはよかったわねぇ」
「はい、リヒャルトがとても楽しそうにはしゃいでいる姿が……とっても可愛かったです!」
「スピカ姉さまが、えいって白いボールをなげて、ゲホゲホっておとこの人たちをやっつけてかっこよかったです!」
「あら、スピカちゃんが? それは凄いわねぇ。スピカちゃんは、なにを武器に使うのかしら? わたしは主に鉄扇とレイピアなんだけど」
「お、大おば様は剣も扱えるんですか!」

 あ、それはわたしも初耳かも。鉄扇を振り回したり、偶にそれでセディーを小突いたりするのは見たことがありますけど。おばあ様、レイピアも扱えたんですね。

「ふふっ、わたしなんて大したことないわよ。ケイトさんなんか、剣とムチに加えて銃まで扱えるんですからね」
「わぁっ! すごいです! 尊敬しますケイトお姉様!」
「そ、そんな……」
「そうです! 姉さまはとってもすごくてかっこいいんです!」

 と、スピカとリヒャルト君にきらきらした尊敬の目で見られて、珍しく照れた様子で恥ずかしそうな顔を見せるケイトさん。

 そして、おばあ様とスピカとケイトさんで武器談義に花を咲かせている。

「成る程。シスコン、なぁ……それにしても、ケイト様マジで凄いな」

 ぼそりと落ちた呟きに、

「まぁ、僕はそっち方面はからっきしなんだけどね」

 苦笑するセディー。

「それはまずくないですか? セディックさん、絶対なんかやっといた方がいいですよ?」
「え? そうなの? 一応、僕も銃なら扱えるけど……」
「なら、それをもっと伸ばしましょう。うちの家系はいざというときの為に、みんな鍛えているんで。射撃場で練習しましょう」

 ロイが熱心に訓練を勧めていると、 

「お帰りなさい。それで、なにがあったのかしら? ロイ」

 にっこりと圧のある笑顔で問い掛けるミモザさん。

「ああ、俺とセディックさんは丁度飲み物の買い出しで席を外してたから。その場にいたネイサンに聞いてくれ」
「そう……それで、なにがあったの? ネイサン君」
「母上、俺のときと態度違くね?」
「ふふっ、ロイよりもネイサン君の方がしっかりしているんですもの」

 動物園でナンパ男共に絡まれ、スピカがパウダーボムで撃退したことを話す。

「まあ、そうだったの……皆さんに何事も無くてよかったわ。スピカのお手柄ね」
「わたしとしては、あんまり危ないことはしてほしくないんですが・・・」
「ふふっ、いやだわ。ネイサン君ったら。クロシェンの家系だと、そうも言ってられないのよ。うちの『美人』はなにかとトラブルに巻き込まれがちだもの。身に覚えがあるんじゃないかしら?」

 笑い飛ばされた! でも……

「……否定はできません」

 まぁ、この顔でなにかと絡まれることは多いので、なにも言い返せない。

「ああ、そうだ母上。明日、フィールズ公爵令嬢とフィールズ伯爵令息が遊びに来るそうだ」
「その様子だと、公爵令嬢と仲良くなれたみたいね」
「やー、俺がっつーかさ、フィールズ伯爵令息がコイツのファン? みたいで。遊びに来たいって言ったのは令息の方」
「まあ、ネイサン君にもファンがいるのね!」
「ファンというか・・・単なる後輩ですよ?」
「いやいや、単なる後輩じゃなくて、お前がめっちゃ可愛がってる後輩、だろ?」

 ロイがニヤニヤ笑う。

「それは・・・」
「ふふっ、向こうでもネイサン君に仲の良い子がいてよかったわ」

 クスクスと、優しい顔で笑うミモザさん。

「ふふっ、エリオット君はネイトにとっても懐いていますからね」
「え~? エリオットと最初に会って、助けたのはセディーの方でしょ? それでわたし、初対面からエリオットにやたら懐かれたらしいんだけど」
「ああ、そうなの?」
「ああ、なんだ。それじゃあ、二人に懐いてるんじゃないですか」
「ん~……僕とは、エリオット君が小さい頃に何度か会ったくらいだけど、ネイトは中等生の頃からがっつりとエリオット君と過ごしていますからね。やっぱり、ネイトの方がエリオット君と仲が良いですよ」
「中等生の頃から?」
「ああ、それがな、母上。聞いて驚け。なんとびっくりなことに、フィールズ伯爵令息はネイサンの通ってた、例の監獄騎士学校の中等部卒の後輩なんだと」
「まあ! ・・・フィールズ伯爵家は、一体どういう家なのかしら?」

 驚きの顔が一転、ミモザさんが真剣な顔でフィールズ伯爵家を案じ出す。

「ああ、大丈夫ですよ。フィールズ伯爵家は、その・・・うちみたいな感じではなくて、家族仲は良好です。ただ、当時のエリオットは女性が苦手で。女性のいない寮制の学校を探して、自分で選んで入ったという話ですから」
「え? あんな学校に、自分から?」
「ぁ~、なんか、上に姉ちゃんが何名もいるっぽい。それでオモチャにされて、女が苦手になったってとこじゃね?」
「細かいところはノーコメントにするけど、概ねそんな感じかな」
「あらあら・・・フィールズ伯爵令息も大変なのね。女性が苦手だなんて、苦労するわよ」
「その辺りは大丈夫だと思いますよ? エリオット君はレイラさんの妹さんと婚約していますからね」

 大丈夫というか……あれは、思いっ切り囲い込まれていると思うんだけど。まぁ、ルリア嬢はエリオットのことが好きみたいだから、無理強いとかエリオットの嫌がることはしないだろうけど。

「ちなみに、その妹さんはセディックさんの教え子らしいぞ?」
「それはまた……将来が楽しみな子ですね」

 将来が楽しみというか、ルリア嬢はいろんな意味で末恐ろしい子だと思う。

「ま、そういうワケで、母上。明日はお二人を迎える準備を頼みます」
「ええ、わかりました」

 と、ミモザさんはエリオットとレイラ嬢を迎える為の準備に取り掛かった。

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