上 下
619 / 673

527

しおりを挟む


 なぜかセディーが喜び、女性陣とリヒャルト君、そして男組の馬車に分かれて移動。

 馬車の中では、昨日よりはピリピリしていない……というか、セディーがロイをあんまり威圧はしてなかったと思う。多分。チラチラと、『お前の兄貴どうにかしろ』というような視線が寄越されていたような気がしないでもないけど。まあ、そんなに悪くない空気だった。

 程なくして動物園に到着。

 わたし達の方が先に着いたので、馬車から降りてスピカ達が来るのを待つ。

 後ろからやって来た馬車から最初に降りたのはケイトさんで、セディーが手を貸す。次いで、ケイトさんが手を貸してぴょんとリヒャルト君が降りる。そして、

「おら、お前が行け」

 顎をしゃくってわたしを促すロイ。

「うん。おいで、スピカ」

 と、最後に降りるスピカに手を差し出す。

「は、はい、ありがとうございます……」

 恥ずかしそうに手を重ねたスピカは、亜麻色の髪を編み込み、わたしの贈ったリボンで髪をハーフアップにして……

「とっても可愛いよ♪」
「っ!?」
「がんばりましたわ!」

 晴れやかな笑顔でサムズアップするケイトさん。

「なんてったって、今日はお二人の初デートですものね!」
「ひゃわっ! ケイトお姉様!」
「ぁ、そっか……ネイトとスピカさんの、初デート……」
「え? なんでいきなりどんよりしてんです? セディックさん」
「僕達とネイト……分かれた方がいいのかな?」
「ああ、それじゃあ、ケイト様さえ宜しければ弟さんをお預かりしましょうか?」

 多分、気を利かせたつもりのロイの言葉は、

「いえ、お気遣いは結構ですわ。今日はわたくし、リヒャルトと回る為に来たのですから!」

 案の定キッパリと断られる。そして、

「ロイ君、ケイトさんとリヒャルト君の邪魔はしない方がいいですよ? 幾らリヒャルト君が可愛いからって、独り占めはどうかと思います」

 セディーに眉をひそめられた。

「あ、そうですか。すみません、余計なことを言いました……って言うか、なんでそこに行くんですかっ!?」
「え? リヒャルト君、可愛いでしょ? とっても」

 「なんだあれっ!  ブラコンで、 お互いの弟を 可愛がってる ってこういう ことなのかっ?」


「まぁ、セディーとケイトさんはいつもこんな感じだねぇ」
「マジかっ!?」
「それで、今日はどこを回りますか? リヒャルトの行きたいところから回りましょう!」
「はいっ、ぼくぞうさんを見たいです!」
「えっと……ネイトとスピカさんは、ふ、二人で回ってもいいんだよ?」
「ええ、わたくし達のことはお気になさらず」

 明らかに寂しそうなセディーと、にこにこと優しい笑顔のケイトさん。

「えっと、その、わたしも皆さんと一緒に回りたいです」
「え? いいんですか? スピカさん」
「はい、皆さんと一緒に回った方が楽しいですからね!」
「まぁ、リヒャルトはケイト様がしっかり見るだろうからあまり心配はしていませんが……コイツ、アホなんで、迷子になったりしないよう皆さんで気を付けてやってください」
「ちょっ、なに言ってんですか兄様っ!?」
「あ? 落ち着きのないアホ妹の心配?」
「迷子になんかなりません!」
「ふふっ、ロイが心配みたいだから手を繋いでおこうか?」
「おう、繋いどけ繋いどけ。放して迷子にすんなよー」

 ニヤニヤと笑うロイに、

「なっ、なんで兄様が勝手に決めるんですかっ!?」

 顔を赤くして怒るスピカ。

「えっと、わたしとは……嫌だった? ごめん、ケイトさんと手を繋ぐ?」
「っ!? ぜ、全然嫌じゃないです!」

 ふるふると首を振って否定。よかった。スピカに嫌がられてなくて……

「つ、繋いで、ください」
「うん」

 差し出された小さな手をぎゅっと握る。

「ふふっ……リヒャルトは、姉様と手を繋ぎましょうね?」
「それじゃあ、反対の手は僕とね?」
「はい!」

 と、仲良く親子のように手を繋ぐセディー、リヒャルト君、ケイトさん。

「あ、ロイ君も繋ぐ? 迷子防止で」

 空いた方の手を差し出すセディーに、

「・・・は? い、いえ、俺はいいですから。どうぞ三人で繋いでください」

 ロイは引き攣った顔で断る。

「そう? それじゃあ迷子になったら、迷子センターに向かってくださいね? 迎えに行きますから」
「・・・はい」

 渋々というか、非常に嫌そうに頷くロイ。

「に、兄様をあんな簡単にやり込めるなんてセディックお兄様すごい!」
「ん~、セディー的にはロイをやり込めたつもりは全くないと思うよ?」
「そうなんですか?」
「うん。多分、普通に子供扱いなんじゃない?」

 まぁ、セディーはよくわたしと手を繋ぎたがるし、その延長なのかも。

「す、すごいっ! いっつもわたしを子供扱いする兄様を子供扱いっ……」
「まぁ、セディーはわたし達より三つ年上だからね」
「あ、そっか。セディックお兄様は、兄様よりも年上……」
「うん。このメンバーでは一番年上だし、今日は引率だね」

「それじゃあ、象さんを見に行きましょう!」

 と、マップを見て移動。

「……いいの? みんなでって、セディーに気を遣ってない?」
「えっと、ねえ様がお兄様のこと大好きなの、わたしもわかってますから」
「ふふっ、ありがとう、スピカ」

 「っ……ね、 ねえ様の笑顔が 眩し過ぎる!」

「? なにか言った?」
「い、いえっ、なんでもないです。行きましょう!」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヒロインが迫ってくるのですが俺は悪役令嬢が好きなので迷惑です!

さらさ
恋愛
俺は妹が大好きだった小説の世界に転生したようだ。しかも、主人公の相手の王子とか・・・俺はそんな位置いらねー! 何故なら、俺は婚約破棄される悪役令嬢の子が本命だから! あ、でも、俺が婚約破棄するんじゃん! 俺は絶対にしないよ! だから、小説の中での主人公ちゃん、ごめんなさい。俺はあなたを好きになれません。 っていう王子様が主人公の甘々勘違い恋愛モノです。

私が産まれる前に消えた父親が、隣国の皇帝陛下だなんて聞いてない

丙 あかり
ファンタジー
 ハミルトン侯爵家のアリスはレノワール王国でも有数の優秀な魔法士で、王立学園卒業後には婚約者である王太子との結婚が決まっていた。  しかし、王立学園の卒業記念パーティーの日、アリスは王太子から婚約破棄を言い渡される。  王太子が寵愛する伯爵令嬢にアリスが嫌がらせをし、さらに魔法士としては禁忌である『魔法を使用した通貨偽造』という理由で。    身に覚えがないと言うアリスの言葉に王太子は耳を貸さず、国外追放を言い渡す。    翌日、アリスは実父を頼って隣国・グランディエ帝国へ出発。  パーティーでアリスを助けてくれた帝国の貴族・エリックも何故か同行することに。  祖父のハミルトン侯爵は爵位を返上して王都から姿を消した。  アリスを追い出せたと喜ぶ王太子だが、激怒した国王に吹っ飛ばされた。  「この馬鹿息子が!お前は帝国を敵にまわすつもりか!!」    一方、帝国で仰々しく迎えられて困惑するアリスは告げられるのだった。   「さあ、貴女のお父君ーー皇帝陛下のもとへお連れ致しますよ、お姫様」と。 ****** 週3日更新です。  

真実は仮面の下に~精霊姫の加護を捨てた愚かな人々~

ともどーも
恋愛
 その昔、精霊女王の加護を賜った少女がプルメリア王国を建国した。 彼女は精霊達と対話し、その力を借りて魔物の来ない《聖域》を作り出した。  人々は『精霊姫』と彼女を尊敬し、崇めたーーーーーーーーーーープルメリア建国物語。  今では誰も信じていないおとぎ話だ。  近代では『精霊』を『見れる人』は居なくなってしまった。  そんなある日、精霊女王から神託が下った。 《エルメリーズ侯爵家の長女を精霊姫とする》  その日エルメリーズ侯爵家に双子が産まれた。  姉アンリーナは精霊姫として厳しく育てられ、妹ローズは溺愛されて育った。  貴族学園の卒業パーティーで、突然アンリーナは婚約者の王太子フレデリックに婚約破棄を言い渡された。  神託の《エルメリーズ侯爵家の長女を精霊姫とする》は《長女》ではなく《少女》だったのでないか。  現にローズに神聖力がある。  本物の精霊姫はローズだったのだとフレデリックは宣言した。  偽物扱いされたアンリーナを自ら国外に出ていこうとした、その時ーーー。  精霊姫を愚かにも追い出した王国の物語です。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初心者のフワフワ設定です。 温かく見守っていただけると嬉しいです。

うちの王族が詰んでると思うので、婚約を解消するか、白い結婚。そうじゃなければ、愛人を認めてくれるかしら?

月白ヤトヒコ
恋愛
「婚約を解消するか、白い結婚。そうじゃなければ、愛人を認めてくれるかしら?」 わたしは、婚約者にそう切り出した。 「どうして、と聞いても?」 「……うちの王族って、詰んでると思うのよねぇ」 わたしは、重い口を開いた。 愛だけでは、どうにもならない問題があるの。お願いだから、わかってちょうだい。 設定はふわっと。

后狩り

音羽夏生
BL
ただ一人と望む后は、自らの手で狩る――。 皇帝の策に嵌り、後宮に入れられた元侍従の運命は……。 母の故国での留学を半ばで切り上げ、シェルは帝都の大公邸に戻っていた。 若き皇帝エーヴェルトが、数代ぶりに皇后を自らの手で得る『后狩り』を行うと宣言し、その標的となる娘の家――大公家の門に目印の白羽の矢を立てたからだ。 古の掠奪婚に起源を持つ『后狩り』は、建前上、娘を奪われる家では不名誉なこととされるため、一族の若者が形式的に娘を護衛し、一応は抵抗する慣わしとなっている。 一族の面子を保つために、シェルは妹クリスティーナの護衛として父に呼び戻されたのだ。 嵐の夜、雷光を背に単身大公邸を襲い、クリスティーナの居室の扉を易々と破ったエーヴェルトは、皇后に望む者を悠々と連れ去った。 恐ろしさに震えるクリスティーナには目もくれず、当身を食らい呆気なく意識を失ったシェルを――。 ◇◇◇ ■他サイトにも投稿しています。

無知少女とラブラブえちえちする短編集

星野銀貨
恋愛
リンク先のDLsiteに置いてある小説の中で、ロリっ子が可愛いえちえち小説をまとめました。

婚約者が庇護欲をそそる可愛らしい悪女に誑かされて・・・ませんでしたわっ!?

月白ヤトヒコ
ファンタジー
わたくしの婚約者が……とある女子生徒に侍っている、と噂になっていました。 それは、小柄で庇護欲を誘う、けれど豊かでたわわなお胸を持つ、後輩の女子生徒。 しかも、その子は『病気の母のため』と言って、学園に通う貴族子息達から金品を巻き上げている悪女なのだそうです。 お友達、が親切そうな顔をして教えてくれました。まぁ、面白がられているのが、透けて見える態度でしたけど。 なので、婚約者と、彼が侍っている彼女のことを調査することにしたのですが・・・ ガチだったっ!? いろんな意味で、ガチだったっ!? 「マジやべぇじゃんっ!?!?」 と、様々な衝撃におののいているところです。 「お嬢様、口が悪いですよ」 「あら、言葉が乱れましたわ。失礼」 という感じの、庇護欲そそる可愛らしい外見をした悪女の調査報告&観察日記っぽいもの。

「脇役」令嬢は、「悪役令嬢」として、ヒロインざまぁからのハッピーエンドを目指します。

三歩ミチ
恋愛
「君との婚約は、破棄させてもらうよ」  突然の婚約破棄宣言に、憔悴の令嬢 小松原藤乃 は、気付けば学園の図書室にいた。そこで、「悪役令嬢モノ」小説に出会う。  自分が悪役令嬢なら、ヒロインは、特待生で容姿端麗な早苗。婚約者の心を奪った彼女に「ざまぁ」と言ってやりたいなんて、後ろ暗い欲望を、物語を読むことで紛らわしていた。  ところが、実はこの世界は、本当にゲームの世界らしくて……?  ゲームの「脇役」でしかない藤乃が、「悪役令嬢」になって、「ヒロインざまぁ」からのハッピーエンドを目指します。 *「小説家になろう」様にも投稿しています。

処理中です...