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しおりを挟む「・・・おかしいな。幻聴か?」
「ええっ!? そこは久し振りだねとか、お祝いに駆け付けてくれてうれしいよ、って言ってくれるところじゃないんですかっ?」
どうやら、幻聴でも幻覚でもないらしい。
「いや、むしろ、招待客じゃない不審人物が紛れていると報告するべきか迷っているところ、かな?」
「そ、そんなっ!? 僕とハウウェル先輩の仲じゃないですかっ!?」
「ね、ねえ様がちょっぴりイジワルしてる!」
「ふふっ、ご心配無く。ネイサン様。わたくしとエリオットは、クロシェン伯爵家の方にちゃんと招待されておりますわ」
「そうでしたか」
「ええ、おばあ様のコネと言いますか……ネイサン様のご婚約をお祝いするのだと仰って、参加させて頂いていますの」
「ターシャおば様……」
もしや、ターシャおば様もここに? と、辺りを見回すと、
「ああ、ご安心ください。今回、おばあ様はこちらには来ておりませんわ。お年を理由に、ルリアが足留めをしてくれましたので。至極無念そうにお留守番しております。なので、本日はわたくしとエリオットの二人だけですわ」
レイラ嬢が苦笑しながら教えてくれた。
「そちらがお噂の婚約者様ですね? 初めまして。クロシェン伯爵令嬢。わたくし、レイラ・フィールズと申します」
「わー、その方がハウウェル先輩の婚約者のスピカ様ですか? 可愛らしい方ですね」
「え? えっと、初めまして。スピカ・クロシェンです。ねえ様のお知り合いの方ですか?」
「ハウウェル先輩の後輩のエリオット・フィールズです!」
「クロシェン伯爵令嬢。お誕生日と、そしてネイサン様とのご婚約、おめでとうございます」
「あ、ありがとうございます。フィールズ様方」
「フィールズだとエリオットと紛らわしいので、わたくしのことはレイラで構いませんわ」
「わかりました、レイラ様。わたくしのことも、スピカとお呼びください」
「ああ、ちなみに、こちらのレイラ・フィールズ公爵令嬢とエリオット・フィールズ伯爵令息はイトコ同士で、向こうの学園ではわたしの一つ下の後輩だったんだよ」
「そうですか。ねえ……ネイサン様がお世話になりました」
「いえいえ、こちらこそ。ハウウェル先輩にはいつもお世話になっています」
「そうだねぇ。君にはよくお世話させられたよ」
「ええ。エリオットとルリア共々、お世話になっております」
「ルリア様?」
「ルリアは今日は来ておりませんが、わたくしの妹のことです。今は、セディック様とネイサン様に家庭教師をして頂いておりますの」
「そうですか」
「ところで、ハウウェル先輩」
「なに? エリオット」
「つかぬことをお聞きしますが、スピカ様のお兄様って、どんな方なんですか?」
「? ロイのこと?」
「なんだ? 呼んだか、ネイサン」
名前が聴こえたのか、偶々近くにいたのか、ロイが現れた。
「ん~、わたしが呼んだって言うより、わたしの後輩が君に用があるみたい」
「お前の後輩?」
「うん。こちら、わたしの後輩のエリオット・フィールズ伯爵令息。そして、そのイトコのレイラ・フィールズ公爵令嬢」
「初めまして。俺はロイ・クロシェン、スピカの兄です。ネイサンとはハトコに当たります。それで、俺に用事とは?」
「は、初めまして。エリオット・フィールズです! え、えっと、クロシェン様はハウウェル先輩とは仲が良いんでしょうか?」
「ん? まぁ、昔は兄弟みたいに過ごしていましたが……それがなにか?」
「は、ハウウェル先輩と兄弟みたいに……」
エリオットのよくわからない質問に、
ひそひそとわたしへ問い掛けるロイ。
ひそひそと返すと、
「ぁ~……お前のおばあ様の……成る程なぁ」
なぜか遠い目をして納得? したようだ。
「ところで、クロシェン様」
「はい、なんでしょうか? フィールズ公爵令嬢」
ロイの視線が、どこか冷ややかなものに変わる。
「クロシェン様はシスコンだとお伺いしいていたのですが、見たところそうでもなさそうですわね」
「・・・どういう意味、でしょうか? フィールズ公爵令嬢」
にこり、と作った笑顔で、けれどさっきよりも声が低い。どうやら、なにかがロイの気に障ったようだ。
「回りくどいことはやめにしますわ。わたくし、今度ロイ・クロシェン様とお見合いをすることになっておりますの。それで、本日はその下見と言ったところですわ」
「は、い?」
「え? レイラ嬢のお見合い相手が、ロイなんですか?」
「ええ、ほら、わたくしちょっと国の方ではお相手を探すのは難しいらしくって。それで、おばあ様が張り切って、クロシェン様とのお見合いの話を進めたみたいなんですの」
「ターシャおば様……そこまでおばあ様が好きですか」
「おばあ様はネヴィラ様の大ファンですからね~」
「まあ、クロシェン様もシスコンで有名らしくって、なかなか縁談がないという話で、渡りに船だったとか」
「え・・・ロイって、シスコンで有名なの?」
「誰がシスコンかっ! うちはな、偶にお前や大伯母様みたいな『美人』が出る家系で有名だから、子供が狙われたりするんだよ。で、防犯上、お前がいない間このアホを見張ったりエスコートしたり、虫除けしてたら、シスコンっつー不名誉な噂を立てられただけだ。俺は断じてシスコンじゃねぇっ!!」
不機嫌そうに捲し立てるロイ。
「まあ、そうなんですか? 妹を大事にする方って、素敵だと思うのですけど」
「へ?」
「う~ん……レイラちゃん的には、どう?」
「そうね、悪くはなさそうだと思うわ」
「そっか。それじゃあ、ハウウェル先輩のハトコさんだし、大丈夫かな?」
「? なにが大丈夫なの?」
「えっと……その……」
「この縁談は、おばあ様が是非にと押し進めたものですからね」
「もし、『レイラ姉様がお相手を気に入らないなら、縁談をぶち壊して来てください。おばあ様はルリが足留めしますから』ってルリアちゃんに頼まれてて。どうしようかな? って迷ってたんですよ~」
「ふふっ、もうルリアったら、心配性で可愛いんだから」
クスクスと嬉しげに笑うレイラ嬢に、
「・・・なぁ、おい、ネイサン」
ロイがギギギとわたしの方を向いた。
「今の話、どこに可愛いって要素があったよ?」
「まぁ、レイラ嬢はルリア嬢のことを可愛がっているからね」
「可愛い妹って言う概念が、俺と全く違うんだがっ!?」
__________
アナスタシア「うふふっ、レイラちゃんとクロシェン家との縁談、頑張って手配致しましたの~」(*´艸`*)
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