虚弱な兄と比べて蔑ろにして来たクセに、親面してももう遅い

月白ヤトヒコ

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 久し振りにクロシェン家のみんなとわいわい過ごして――――

「旦那様、ネヴィラ様とセディック様、そのご婚約者と弟君が参られました」

 と、どうやらセディー達が到着した模様。

「では、挨拶に向かうぞ」
「って、ちょっと待てネイサン」
「ん? なに? ロイ」
「お前の兄貴と婚約者はわからなくもないけど、なんだってその弟まで来てんだ?」
「そう言えばそうだな」

 と、不思議そうにわたしを見やるロイとトルナードさん。

「も、もしかして、お前の婚約者の弟って、シスコンだったりするのか?」

 なぜか、とても嫌そうに聞かれる。

「まぁ、リヒャルト君はシスコンと言えばシスコンだけど、それよりもケイトさんの方がブラコンだからね。弟のリヒャルト君とラブラブなんだよ。ああ、ちなみにだけど、ケイトさんとは十三か十四くらい離れてるから、今年で七歳くらいかな? とっても素直で可愛い男の子だよ」
「あら、素敵。年の離れた弟さんをとっても可愛がっているのね」
「はい」
「・・・それ、お前の兄貴的にはどうなんだ?」
「どうって言うか……まぁ、セディーもリヒャルト君を可愛がっているからね。三人で一緒に過ごしているときには、少し親子みたいだよ?」
「まだ結婚もしてねぇのにっ!?」
「あの二人は特殊だから」
「ねえ様のお兄様と婚約者様が、特殊なんですか?」
「ああ、うん。あの二人、すっごくブラコンなんだよ」
「え? ブラコン?」
「は? なんだそりゃ、どういう意味だ?」
「言葉通りの意味。あの二人、元々学園の先輩後輩なんだけど、ブラコンで意気投合して仲良くなって。で、セディーが学園を卒業してから婚約したんだけど。その婚約理由というか……決定した理由が、『自分の弟を蔑ろにする相手は願い下げ』ってことで。二人共、わたしとリヒャルト君をめっちゃ可愛がってくれてる」
「え? なにそれ? そんなの初めて聞いたぞっ?」
「わたしも、あの二人以外には知らないかな?」
「ふふっ、ネイサン君はお兄様と仲良しなのね? よかったわ」
「ありがとうございます」
「ああ……そっか。確かに。うん。それはよかったな、ネイサン」
「うん」
「そうかそうか」

 安心したように微笑むミモザさん。小さく笑うロイ。うんうん頷くトルナードさん。どうやら、わたしは結構心配されていたようです。

「? みんなどうしたの?」

 わたしの事情を教えてないスピカが不思議そうにみんなを見やる。

「兄弟仲が良いのはいいことだからな。では、行くぞ」

 と、玄関までおばあ様とセディー達をお出迎え。

「お久し振りです。お帰りなさいませ、伯母様」
「ええ、ただいま。トルナード、ミモザさんも、こちらは初めましてになるわね。ネイサンの兄のセディック。そして、その婚約者のケイト・セルビアさんと弟のリヒャルト君よ」
「初めまして。セディック・ハウウェルと申します。クロシェン家の皆様には、弟が大変お世話になりました。弟を預かってもらっていたこと、本当に感謝しています。これからもネイト……ネイサンを宜しくお願いします」
「こちらこそ、初めまして。わたしはトルナード・クロシェン。妻のミモザ、息子のロイ。そして、ネイサンの婚約者となる娘のスピカです」

 と、お互いに紹介し合う。

「ね、ねえ様とそっくりなお顔っ!? ね、ねえ様のお母様ですかっ?」
「あら、昔会ったことがあるのだけど、スピカちゃんはまだ小さかったから覚えていないかしら? ふふっ、わたしはネイトの祖母よ。スピカちゃんの大伯母に当たるわね。それにしても、大きくなったわねぇ。可愛らしいわ」

 クスクスと上機嫌なおばあ様。

 まぁ、ある意味では間違っていない。小さい頃のわたしはおばあ様に育てられたようなものだし、そして養子縁組した今、戸籍上ではお祖父様とおばあ様がセディーとわたしの義父母でもある。

「あ、ありがとうございます……ね、ねえ様とおんなじお顔で誉められちゃった……」

 と、照れた顔を見せるスピカ。

「ええ、本当に可愛らしい方ですね。スピカ様とお呼びしても宜しいでしょうか?」
「は、はい! わ、わたくしも……お、お姉様とお呼びしてもよろしいでしょうか?」

「っ!? お、お姉様……な、なんて破壊力なのかしらっ……ええ、勿論です! 是非とも!」

「え? あ、あの、ねえ様……、ケイト様はどうしちゃったの?」
「多分、嬉しいんだと思いますよ」
「ぼくも、スピカ姉さまっておよびしていいですか?」
「は、はい! ……姉様呼びって、嬉しいものなんですね!」

 と、和やかに挨拶を交わす女性陣とリヒャルト君。

「どうも、初めまして。ネイトの兄のセディックです」
「初めまして。スピカの兄のロイです」
「あなたがロイ君ですか。ロイ君のことはネイトから聞いています。ネイトと、まるで兄弟のように過ごしたのだとか。僕の可愛い弟の、ネイトと。感謝していますよ。ええ、とっても羨ましいですが」

 と、なぜか笑顔でロイを威圧しているセディー。

「……なぁ、お前の兄貴、なんか俺にだけやたら圧強くね?」

 両家の顔合わせをして、わいわい話しているうちに他の招待客がやって来て、トルナードさんとミモザさん、ロイはそちらへの対応へ回る。

 その間わたし達は、別室で待機。

 パーティーが始まって、わたしとスピカの婚約発表。

 そして、挨拶回り・・・

「ハウウェル先輩! ご婚約おめでとうございます!」

 ここにはいない筈の奴の声がした。

「・・・おかしいな。幻聴か?」

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