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しおりを挟むそれから、トルナードさんとミモザさんに挨拶を・・・
「こら、ネイサン! わたしの前でスピカとイチャイチャするとはいい度胸だな! いきなり婦女子にキスをするとは、一体どんな教育を受けて来たんだっ!! スピカから離れなさいっ!!」
挨拶に行く前に、トルナードさんが玄関に出て来て怒鳴られた。どうやら、さっきのを見られていたらしい。やっぱり、父親って娘が大事なものなんだなぁ、と思わされてしまった。
「きっ、きす……もうっ、父様のばか~っ!?」
「なっ、す、スピカっ!? と、父様はスピカのことを思ってだな」
真っ赤になって怒るスピカにおろおろするトルナードさん。
「ふふっ、若いっていいわね。お久し振りです、ネイサン君」
クスクスと笑いながら挨拶をするミモザさん。
「はい、ご無沙汰しています。皆さんお元気なようでなによりですね。そして、またお会いすることができて……この家に戻って来ることができて、嬉しいです」
「ふふっ、玄関先じゃなんだから、中に入りましょうか」
「はい。行こうか、スピカ」
と、手を繋いで歩き出そうとしたら、
「こらネイサンっ、その手を放しなさい!」
目を吊り上げるトルナードさん。
「もう、いいじゃないの。あなた、ネイサン君はスピカと十年振りに会うんだから、そんな意地悪しちゃ駄目よ?」
「な、べ、別に意地悪をしているワケでは……と、年頃の男女が妄りな接触をするのは如何なものかと言ってるんだ。適切な距離をだな」
「あら、ネイサン君はスピカの婚約者よ。婚約者なら、エスコートくらい普通でしょ」
「ぅっ……」
「それに、スピカの方がネイサン君と離れたくなさそうよ。ね? スピカ」
「っ!」
真っ赤になって俯きながらコクコクと頷き、繋いだ手がぎゅっと握られる。
「そんなっ……」
ずーんと落ち込んだ顔のトルナードさんに、
「えっと、あの……父様。ねえ様を呼んでくれてありがとう! それと、ずっと誤解してつんけんした態度取ってごめんなさい! 行こう、ねえ様!」
パッと顔を上げてそう言うと、恥ずかしいのか、スピカは早歩きで屋敷の中へ向かう。
「ふふっ、行こうか」
「おーおー、バカップル共がいちゃ付いてやがるぜ」
呆れたような声がゆっくりと追い掛けて来る。
「・・・スピカ」
「可愛らしいわねぇ……ところで、誤解ってなにかしら?」
「それがさ、笑える誤解だぜ? スピカの奴、ネイサンのことずっと女、っつーか、自分の姉ちゃんだと思ってたんだってよ」
「まあ! なんだってそんな誤解を? だって、ネイサン君と婚約したいって言ったのはスピカなのに?」
「ああ、ほら? ネイサンが向こう帰った後、親戚の爺さんの葬式があっただろ? それをコイツ、ネイサンの葬式だって誤解して、ネイサンが死んだと思って毎日べそべそ泣いてたんだってよ」
「兄様っ!!」
「あらあら、それであんなに毎日泣いてたの」
「? それなら、なんでスピカはネイサンと婚約したいって言ったんだ?」
「ああ、それは確かに。おい、スピカ、ネイサンが死んだと思ってたのに、なんだってネイサンと婚約したんだ?」
「そ、それは……」
「それは? なぁに? わたしも知りたいな。教えて? スピカ」
俯くコバルトブルーを覗き込むと、
「ぅう~……父様が……」
ぐぬぬと唸ったスピカが口を開く。
「わたしが……?」
「トルナードさんが?」
「ねえ様とずっと一緒にいたいか? って聞いたから。だからわたし、ねえ様とずっと一緒にいるって言ったの! なのに、父様は全然ねえ様を連れて来てくれないから、嘘吐きって思って。なのに、いきなりわたしを、お隣の国の知らない男の子と婚約させるって言うから、それで父様に怒ってたの」
「ああ、つまり、姉ちゃんだと思ってたネイサンとずっと一緒にいたいっつったのに、ネイサンをうちに連れて来ない父上にムカついて、挙げ句、知らない男と婚約させられると思い込んでずっと塩対応してたってことか? お前、ホンっトアホだなー」
「もう、スピカは小さい頃からそそっかしくてうっかりさんのままなのね」
「そ、そうか……わたしがなにか悪いことをしてスピカに嫌われていたワケじゃなかったのか」
「よかったわね、あなた」
ケラケラ笑うロイ、クスクス笑うミモザさん、ほっとしたような顔で涙ぐむトルナードさん。
「ごめんなさいね、ネイサン君。スピカが、ちょっとおバカな子で」
「なっ、母様!」
「そうだなー。お前のこと女だと思ってたり、死んだと思ってたり、知らない奴と婚約させたっつって長年怒ってるとか、こーんなアホと婚約していいのか? 考え直すなら今だぜ? ネイサン」
「ちょっ、なんでそんなこと言うの兄様っ!! えっと、あの、違いますからね?」
「やー、全然違わねーだろ」
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