608 / 673
516
しおりを挟むこ、これはっ・・・『なんでほぼ初対面の男をそんな風に呼ばないといけないんですか?』という、疑問の顔だったりするのかっ!?
スピカからしてみれば、わたしはほぼ初対面の男、という状況だけど、できればこのまま婚約は続けてもらいたい。
スピカがどうしてもわたしが嫌だって言うなら諦める……かもしれないけど、そうでないなら、わたしのことを嫌っていないというなら、また一から、これから仲良くなって行けばいい。
そう思っていると、スピカが眉間にしわを寄せて唸り出した。
それからわたしをじっと見上げて、
「・・・ねえ、様?」
小さく、そう呟いた。
「ありがとう、スピカ」
「・・・え? あの、本当に本当の、わたしの・・・ねえ様、なんですか?」
「思い出してくれたのっ!! スピカっ!! そうだよ、わたしがスピカのネイ様だ♪」
「っ!?」
嬉しくなって、思わずスピカを抱き締めてしまうと、
「・・・って言うか、待ってっ!! ねえ様って、わたしのお姉様じゃなかったのっ!?」
真っ赤になったスピカが叫んだ。
「え?」
「は?」
・・・一瞬の間が空き、『だから言っただろハウウェル! 絶対ねーちゃんだって思われてるってっ!?』と、指差して笑うどこぞのアホの顔が思い浮かんだ。
「え?」
「・・・え? なにお前、コイツのこと、ずっと女だと思ってたのか?」
ぽかんとした顔でロイが言った。
「だ、だって、ずっとねえ様だって思ってて。ねえ様は綺麗なお顔だし、髪の毛も長くて」
顔はおばあ様似だから、仕方ない。髪の毛は、スピカにわたしがネイサンだと見分けてもらう為に……忘れられたと思ったのが嫌で、短くしないことにしている。
「いつも可愛いリボンで結んでて、わたしの髪も、お願いしたらねえ様が結んでくれたし」
適当なリボンで結んだり、スピカが選んでくれたやつで結んだり、お揃いじゃないと嫌だとか、「ねえさまがむしゅんでくれないとヤ!」と、小さなスピカに駄々を捏ねられたりしたからね。
「それに、その・・・兄様がっ、ねえ様は遠くへ行ったって言ったし、その後にお葬式があったからっ、だからわたしはてっきり・・・」
と、スピカが唇を噛み締める。
「は? あ、あ~・・・まぁ、ネイサンは昔っから女顔ではあったけどな」
チッ……どこぞのアホに爆笑されている気分だ。そこはもう放っとけ!
「つか、ネイサンが帰るっつったら、絶対泣き喚いて大変だろうからって、お前が寝てる間に向こうに向かったんだけどな」
わたしもスピカの泣く顔を見ると帰るのがつらくなるから、トルナードさんとミモザさんにそうしてもらった。
「けど、普通死んだと思う・・・ん~? あ、わかった。アレか! あのな、スピカ。ネイサンが向こうの家に帰った後のアレな、親戚の爺さんの葬式」
まぁ、わたしが帰った後の葬式は、さすがに知らないなぁ。
「へ?」
「なにお前、ネイサンが死んだと思って毎日べそべそ泣いてたのかよっ!? プフっ!? ハハハハハハハハハハハハっ!?」
ぎゃははとおかしそうに笑い出すロイを、
「・・・なんて兄様だ。酷い」
じっとりと睨み付けるスピカ。
「こら、ロイ。笑ったらスピカに悪いでしょ」
ああ、こんなこと思っちゃいけないのかもしれない。でも・・・
「でも、そっか。スピカはわたしが死んだと思って毎日泣いてくれたんだ? 可愛い♪」
と、スピカの額にキスを落とす。
両親に嫌われて、お祖父様とおばあ様、セディーからも要らない子と思われていると思い込んで、不貞腐れながらクロシェン家に来たわたしに、初対面でにこーっと笑い掛けて、抱っこしろと強要して――――
その後も、ひよこみたいに後ろを付いて歩いて来て、『大好きだから自分を構え!』と言わんばかりにわたしへ好意を押し付けて来たスピカに――――
わたしは、とっても救われたんだ。
実家に帰ってからも、そんなわたしの為に、わたしがいないと泣いてくれる、泣きながら、ずっとわたしを求めてくれた。そんなスピカを、至極愛しいと思った。
「ありがとう、大好きだよ。スピカ。これからは、昔みたいに毎日傍にいられるから安心して? もう、スピカを置いてはどこにも行かないよ」
そう微笑むと、
「大好きですねえ様!! またお会いできて、とってもとっても嬉しいですっ!!」
と、満面の笑顔で昔みたいにぎゅ~っと抱き付いて来た。
「っ!? ああもうっ、本当にスピカは可愛いな」
サッと一気に熱くなった顔を、目の覚めるようなコバルトブルーに覗き込まれた。昔と同じ、『大好き』を全面に押し出すきらきらした眼差し。
「……ごめん。もう放してあげられないから、覚悟してね? 愛してるよ、スピカ」
抱き締めながら囁き、唇にキスをしようとして……今日はパーティーだったと寸前で思い出して、ギリギリほっぺた。ほぼ唇の端っこに口付ける。
「……っ」
うん。真っ赤な顔も可愛い♪
「おーい、お前ら。ここ玄関先な? んで、俺がいること忘れんなよな、バカップル共め」
と、ロイの呆れ声。
「ん~・・・折角十年振りなんだから、もうちょっと抱き締めてたいな。ダメ?」
「っ!? ね、ねえ様っ!?」
「ああもう、やってらんねーぜ。おら、さっさと中入れアホ共。父上と母上もお前に会えんの楽しみにしてんだってば」
「そ、そうです! 行きましょうねえ様!」
と、わたしの胸をぐいぐい押し返すスピカ。
「しょうがない。トルナードさんとミモザさんには、確り挨拶しなきゃね」
「そうです! 父様と母様が待ってます!」
「スピカをわたしにください、ってね?」
「ねえ様っ!?」
♩*。♫.°♪*。♬꙳♩*。♫
いちゃいちゃを出せているといいのですが、ネイサンが微妙にヤンデレ感を覗かせてますね。さすが、セディーの弟。(*`艸´)
『愛しいねえ様がいなくなったと思ったら、勝手に婚約者が決められてたんですけどっ!?』の、ネイサン視点の話。スピカに忘れられたと思って、実は内心ダメージ食らってるネイサンでした。ꉂ(ˊᗜˋ*)
ここまでめっちゃ長かったですが、もうちょっと続きます。一応、目処としては二人の結婚式の話までは考えています。(*>∀<*)
0
お気に入りに追加
727
あなたにおすすめの小説
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
(完結)本当に私でいいのですか?ーすっかり自信をなくした王女は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私はバイミラー王国の王女グラディス。お母様の正妃は5年前、私が10歳の頃に亡くなった。数日前まではとても元気だったのに。民のことを思う賢正妃と敬愛され政務の多くの部分を担っていたお母様だった。
それに代わり正妃の座に就いたのは私と同じ歳の王子を産んだマミ側妃で、1歳年下のホイットニーも産んでいる。お父様である国王はお母様と婚約中から、マミ側妃と付き合っていたらしい。マミ側妃はヤナ男爵家出身で、正妃の立場になるとすぐに私のお母様の実家キッシンジャー公爵家に難癖つけて僻地に追いやった。お父様もそれを止めずにむしろ喜んでキッシンジャー公爵家を伯爵に降格したのだ。だから私には後ろ盾がすっかりいなくなった。お母様の生前にいた使用人も全て解雇される。
私の周りから一気に味方が消えていく。私はどうなってしまうの? 国は乱れ、隣国ムーアクラフトと戦争が起き、我が国は苦境に立たされ急遽停戦を申し出た。
「儂が最も大事にしている姫を差し出そう」とお父様は提案したらしい。そうしてホイットニーが行くことになったのだが、人質になりたくない彼女は私が行けばいい、とごねた。
だから、私はホイットニーの身代わりに嫁ぐことになった。お父様もマミ正妃も大賛成したからだ。
「もしホイットニーの身代わりだとバレたらきっと殺されるだろうから、あちらの国王とはあまり話すなよ」
お父様は無表情でそうおっしゃった。私はどうなってしまうの?
これは虐げられた王女様が幸せになっていくお話しです。
※異世界のお話しでお金の単位は1ダラ=1円です。現代日本にあるような商品、機器、料理など出てくる場合あり。西洋風貴族社会ですが作者独自の世界です。R15ざまぁ。
※誤字あったらすみません。教えていただけると助かります。
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
まさか、こんな事になるとは思ってもいなかった
あとさん♪
恋愛
学園の卒業記念パーティでその断罪は行われた。
王孫殿下自ら婚約者を断罪し、婚約者である公爵令嬢は地下牢へ移されて——
だがその断罪は国王陛下にとって寝耳に水の出来事だった。彼は怒り、孫である王孫を改めて断罪する。関係者を集めた中で。
誰もが思った。『まさか、こんな事になるなんて』と。
この事件をきっかけに歴史は動いた。
無血革命が起こり、国名が変わった。
平和な時代になり、ひとりの女性が70年前の真実に近づく。
※R15は保険。
※設定はゆるんゆるん。
※異世界のなんちゃってだとお心にお留め置き下さいませm(_ _)m
※本編はオマケ込みで全24話
※番外編『フォーサイス公爵の走馬灯』(全5話)
※『ジョン、という人』(全1話)
※『乙女ゲーム“この恋をアナタと”の真実』(全2話)
※↑蛇足回2021,6,23加筆修正
※外伝『真か偽か』(全1話)
※小説家になろうにも投稿しております。
(完)なにも死ぬことないでしょう?
青空一夏
恋愛
ジュリエットはイリスィオス・ケビン公爵に一目惚れされて子爵家から嫁いできた美しい娘。イリスィオスは初めこそ優しかったものの、二人の愛人を離れに住まわせるようになった。
悩むジュリエットは悲しみのあまり湖に身を投げて死のうとしたが死にきれず昏睡状態になる。前世を昏睡状態で思い出したジュリエットは自分が日本という国で生きていたことを思い出す。還暦手前まで生きた記憶が不意に蘇ったのだ。
若い頃はいろいろな趣味を持ち、男性からもモテた彼女の名は真理。結婚もし子供も産み、いろいろな経験もしてきた真理は知っている。
『亭主、元気で留守がいい』ということを。
だったらこの状況って超ラッキーだわ♪ イケてるおばさん真理(外見は20代前半のジュリエット)がくりひろげるはちゃめちゃコメディー。
ゆるふわ設定ご都合主義。気分転換にどうぞ。初めはシリアス?ですが、途中からコメディーになります。中世ヨーロッパ風ですが和のテイストも混じり合う異世界。
昭和の懐かしい世界が広がります。懐かしい言葉あり。解説付き。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる