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 こ、これはっ・・・『なんでほぼ初対面の男をそんな風に呼ばないといけないんですか?』という、疑問の顔だったりするのかっ!?

 スピカからしてみれば、わたしはほぼ初対面の男、という状況だけど、できればこのまま婚約は続けてもらいたい。

 スピカがどうしてもわたしが嫌だって言うなら諦める……かもしれないけど、そうでないなら、わたしのことを嫌っていないというなら、また一から、これから仲良くなって行けばいい。

 そう思っていると、スピカが眉間にしわを寄せて唸り出した。

 それからわたしをじっと見上げて、

「・・・ねえ、様?」

 小さく、そう呟いた。

「ありがとう、スピカ」
「・・・え? あの、本当に本当の、わたしの・・・ねえ様、なんですか?」
「思い出してくれたのっ!! スピカっ!! そうだよ、わたしがスピカのネイ様だ♪」
「っ!?」

 嬉しくなって、思わずスピカを抱き締めてしまうと、

「・・・って言うか、待ってっ!! ねえ様って、わたしのお姉様じゃなかったのっ!?」

 真っ赤になったスピカが叫んだ。

「え?」
「は?」

 ・・・一瞬の間が空き、『だから言っただろハウウェル! 絶対ねーちゃんだって思われてるってっ!?』と、指差して笑うどこぞのアホの顔が思い浮かんだ。

「え?」
「・・・え? なにお前、コイツのこと、ずっと女だと思ってたのか?」

 ぽかんとした顔でロイが言った。

「だ、だって、ずっとねえ様だって思ってて。ねえ様は綺麗なお顔だし、髪の毛も長くて」

 顔はおばあ様似だから、仕方ない。髪の毛は、スピカにわたしがネイサンだと見分けてもらう為に……忘れられたと思ったのが嫌で、短くしないことにしている。

「いつも可愛いリボンで結んでて、わたしの髪も、お願いしたらねえ様が結んでくれたし」

 適当なリボンで結んだり、スピカが選んでくれたやつで結んだり、お揃いじゃないと嫌だとか、「ねえさまがむしゅんでくれないとヤ!」と、小さなスピカに駄々を捏ねられたりしたからね。

「それに、その・・・兄様がっ、ねえ様は遠くへ行ったって言ったし、その後にお葬式があったからっ、だからわたしはてっきり・・・」

 と、スピカが唇を噛み締める。

「は? あ、あ~・・・まぁ、ネイサンは昔っから女顔ではあったけどな」

 チッ……どこぞのアホに爆笑されている気分だ。そこはもう放っとけ!

「つか、ネイサンが帰るっつったら、絶対泣き喚いて大変だろうからって、お前が寝てる間に向こうに向かったんだけどな」

 わたしもスピカの泣く顔を見ると帰るのがつらくなるから、トルナードさんとミモザさんにそうしてもらった。

「けど、普通死んだと思う・・・ん~? あ、わかった。アレか! あのな、スピカ。ネイサンが向こうの家に帰った後のアレな、親戚の爺さんの葬式」

 まぁ、わたしが帰った後の葬式は、さすがに知らないなぁ。

「へ?」
「なにお前、ネイサンが死んだと思って毎日べそべそ泣いてたのかよっ!? プフっ!? ハハハハハハハハハハハハっ!?」

 ぎゃははとおかしそうに笑い出すロイを、

「・・・なんて兄様だ。酷い」

 じっとりと睨み付けるスピカ。

「こら、ロイ。笑ったらスピカに悪いでしょ」

 ああ、こんなこと思っちゃいけないのかもしれない。でも・・・

「でも、そっか。スピカはわたしが死んだと思って毎日泣いてくれたんだ? 可愛い♪」

 と、スピカの額にキスを落とす。

 両親あの人達に嫌われて、お祖父様とおばあ様、セディーからも要らない子と思われていると思い込んで、不貞腐れながらクロシェン家に来たわたしに、初対面でにこーっと笑い掛けて、抱っこしろと強要して――――

 その後も、ひよこみたいに後ろを付いて歩いて来て、『大好きだから自分を構え!』と言わんばかりにわたしへ好意を押し付けて来たスピカに――――

 わたしは、とっても救われたんだ。

 実家に帰ってからも、そんなわたしの為に、わたしがいないと泣いてくれる、泣きながら、ずっとわたしを求めてくれた。そんなスピカを、至極愛しいと思った。

「ありがとう、大好きだよ。スピカ。これからは、昔みたいに毎日傍にいられるから安心して? もう、スピカを置いてはどこにも行かないよ」

 そう微笑むと、

「大好きですねえ様!! またお会いできて、とってもとっても嬉しいですっ!!」

 と、満面の笑顔で昔みたいにぎゅ~っと抱き付いて来た。

「っ!? ああもうっ、本当にスピカは可愛いな」

 サッと一気に熱くなった顔を、目の覚めるようなコバルトブルーに覗き込まれた。昔と同じ、『大好き』を全面に押し出すきらきらした眼差し。

「……ごめん。もう放してあげられないから、覚悟してね? 愛してるよ、スピカ」

 抱き締めながら囁き、唇にキスをしようとして……今日はパーティーだったと寸前で思い出して、ギリギリほっぺた。ほぼ唇の端っこに口付ける。

「……っ」

 うん。真っ赤な顔も可愛い♪

「おーい、お前ら。ここ玄関先な? んで、俺がいること忘れんなよな、バカップル共め」

 と、ロイの呆れ声。

「ん~・・・折角せっかく十年振りなんだから、もうちょっと抱き締めてたいな。ダメ?」
「っ!? ね、ねえ様っ!?」
「ああもう、やってらんねーぜ。おら、さっさと中入れアホ共。父上と母上もお前に会えんの楽しみにしてんだってば」
「そ、そうです! 行きましょうねえ様!」

 と、わたしの胸をぐいぐい押し返すスピカ。

「しょうがない。トルナードさんとミモザさんには、しっかり挨拶しなきゃね」
「そうです! 父様と母様が待ってます!」
「スピカをわたしにください、ってね?」
「ねえ様っ!?」

♩*。♫.°♪*。♬꙳♩*。♫


 いちゃいちゃを出せているといいのですが、ネイサンが微妙にヤンデレ感を覗かせてますね。さすが、セディーの弟。(*`艸´)

 『愛しいねえ様がいなくなったと思ったら、勝手に婚約者が決められてたんですけどっ!?』の、ネイサン視点の話。スピカに忘れられたと思って、実は内心ダメージ食らってるネイサンでした。ꉂ(ˊᗜˋ*)

 ここまでめっちゃ長かったですが、もうちょっと続きます。一応、目処としては二人の結婚式の話までは考えています。(*>∀<*)

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