虚弱な兄と比べて蔑ろにして来たクセに、親面してももう遅い

月白ヤトヒコ

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 この話からネイサン視点に戻ります。

__________


 セディーとライアンさん、偶にお祖父様に教えられながら、どうにかこうにか分領地の経営を一人で回せるようになって――――

 ある日、セディーが言った。

「・・・もう、僕が教えなくても大丈夫みたいだね」
「え?」
「子爵領の経営は、合……格っ……」

 寂しそうな言葉の途中で、ブラウンの瞳からだばっと涙が零れ落ちる。

「せっ、セディーっ!? いきなりどうしたのっ!? どっか痛いのっ?」

 慌てるわたしに、ふるふると首を振るセディー。

「ぅうっ……ネイトがっ、大きくなったなぁって……」
「はい?」

 いきなりどうした? と思っていたら、ライアンさんがさっとセディーにハンカチを差し出した。

「ありがとう、ライアン……」
「いえ……」

 と、なぜだかライアンさんも寂しそうな顔。

「だから、ねいとぉ~っ!?」

 またしても、だばっと流れ落ちる涙。そして、ぎゅ~っと強くハグされた。

「セディー? 本当にどうしちゃったの?」
「……さみしい、けどっ……ネイトは、行きたいんでしょ?」
「え?」
「スピカちゃんの、とこ……」
「・・・」
「いいんだよ? ネイトが行きたいなら、スピカちゃんのところに行っても……」

 ぎゅっと、わたしの背中に回る腕に力が入る。

「僕なら、大丈夫だから。ネイトがいないのはすっごく寂しいけど……ケイトさんもいるし、お祖父様とおばあ様もいる。だから、ネイトの好きにしていいんだよ? お祖父様もおばあ様も、ネイトがしたいようにしていいって言うと思うから。ね?」

 と、泣き笑いのブラウンがじっとわたしを見詰める。

「・・・ありがとう、セディー。大好き」
「ぅうっ、僕も大好きだよ、ネイト~っ!?」

 なんてやり取りがあって、その後にお祖父様とおばあ様にも確認したら、あっさりとわたしの好きにしていいと言ってくれた。

 そして――――

「では、本当にいいんだな?」

 お祖父様が顰めっ面で聞く。

「はい」
「本当に本当に、それでいいんだな?」
「ヒューイ、ちょっとしつこいわよ? それに、わたしの実家なんだから大丈夫に決まってるでしょ。全くもう」
「・・・そうか。わかった。では、クロシェン家に手紙を出そう」

 と、『ネイサンの婿入りの準備が整った』という手紙をクロシェン家に出した。

 それからしばらくして、『ネイサンの婿入りの準備が整ったというなら、近々スピカの誕生日があるので、二人の婚約のお披露目をしたいと思います』という返事と、誕生日パーティーの招待状が届いた。

「あら、それじゃあ、スピカちゃんにドレスを贈らなきゃね」

 と、おばあ様が張り切って、わたしにあれこれとドレスのデザイン画を見せて来た。

「ネイトはスピカちゃんにどれを着てもらいたい? 色は、そうね……ネイトのペリドットに近いのはライムグリーンかしら」

 そんなことを言うものだから、真剣に選んでしまった。

「スピカちゃんはまだ十四……今度の誕生日で十五だから、あまり大人っぽいものよりは可愛らしいものがいいかもしれないわね。大人っぽいものは大人になってから存分に着れるんだから、若くて可愛らしい今のうちにしか着られない可愛いドレスを着なくっちゃ♪」
「そうですね。可愛らしいデザインが似合わないならかく、可愛らしい女の子なら、可愛らしいデザインの方が絶対いいと思います!」

 と、途中からケイトさんも加わって、ライムグリーンのサテン布地の可愛らしいデザインのドレスを数種類に絞り込んだ。

「さて、それじゃあ、向こうのお店に頼まなきゃ」

 ウキウキ顔のおばあ様が、普段スピカのドレスを作っているという店に連絡を付けてドレスを注文してくれるという。絞り込んだ数種類のうち、ドレスを作る店側が、スピカに一番似合うと思うドレスを作ってもらうことになった。

 なぜデザインを一つに絞らなかったかというと……なんでも、男が相手に着てもらいたいドレスと、実際に作ってみて本人に似合うかは別問題だとか。経験豊富なおばあ様が言うなら、間違いはないと思います。はい。

「これで、スピカちゃんの誕生日までに絶対届くわ」
「ありがとうございます、おばあ様、ケイトさん」
「ふふっ、可愛い孫の、可愛い婚約者にドレスを選んであげられるなんて、おばあ様冥利に尽きるってものよ♪」
「ええ、可愛い義弟であるネイサン様の、可愛らしい婚約者様ですもの! 姉冥利に尽きますわ!」

 わたしのお礼にテンション高く返すおばあ様とケイトさん。

「さあ、次はドレスに合うアクセサリーです!」
「そうね! ドレスアップにアクセサリーは欠かせないものね!」

 ドレス選びに続けて、アクセサリーも選ぶことになった。

 アクセサリー選びが終わると、

「さあ、次はスピカちゃんのドレスと合わせるネイトのスーツを選ぶわよ!」

 と、なった。

 まぁ、あれだ……買い物に掛ける女性の熱量って、すごいなぁと思いました。

 そうやって、スピカの誕生日パーティーに向けて準備して行った。

✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰

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