虚弱な兄と比べて蔑ろにして来たクセに、親面してももう遅い

月白ヤトヒコ

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番外。俺はシスコンじゃねぇ! 8

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 経営科に通いながら交友関係を広げ・・・ようと思ったけど、俺をシスコン呼ばわりしやがった連中の顔は忘れてない。意趣返しはする。まぁ、なにをするか、具体的には決まってねぇけど。

 それ以外とは、普通に打ち解けて来た。つか、経営科の中には、俺が誘拐を防いだ子の兄や姉がいて、そういう人には俺は感謝されて好意的に見られている。

 これぞ、情けは人の為ならずってやつだな。

 他にも、理不尽を言われている下位貴族子女や平民なんかがいると、ついつい口出しをしてしまう。「偽善者め!」や「人気取りかよ」だとか、「クロシェン様は正義感が強いですのね」なんて言われたりするけど、特に正義を気取っているつもりは無い。

 多分、うちは昔、理不尽な目に遭うことが多かったから、他人が理不尽な目に遭っているのが見過ごせないだけだと思う。あと、あれだ。未だにうちに負い目のある家もあったりするから、そういう家がなにも言わなかったり、罪滅ぼしなのかうちを擁護してくれたりするから、そういう状況にも甘えているという自覚はあるし。自覚があって、それも利用している。

 偽善も人気取りも、上等じゃね? 顔も売れるし。人徳、人脈も増える。不快になるのは理不尽を強いた連中だけだし。

 ただ、婚約者はまだ決まっていない。

 と、一年が過ぎ、二年になって――――

 今年はスピカが中等部に入学して来る。

 総合科と経営科で迷って、総合科を選んだようだ。

 そして、登校日初日。

 案の定・・・めっちゃひそひそされてるっ!?

「さすがシスコン、妹さんと同じ馬車で登校」「ほら、馬車を降りるときに手を貸して……」「微笑ましいですわ」「シスコンだな」「仲良く登校」「え? 美人の出る家なのに並みじゃね?」「妹、そんな美人じゃないな」

 や、おんなじとこ行くんだから、同じ馬車乗るの普通だろ! 行く時間も変わらねぇのにわざわざ違う馬車乗るとか、どんだけ兄弟仲悪ぃんだよ! つか、ひそひそしてる奴ん中にも、絶対弟妹と一緒に登校してる奴いるよな? それに、自分よりちっこい奴に手ぇ貸すのも当たり前だし! なのに、俺だけシスコン呼ばわりされんのっておかしくねっ!?

「? 兄様? なんかわたし達、注目されてません?」

 ひそひそする連中の視線を感じたのか、スピカがきょろきょろと辺りを見回す。

「ぁ~……あれだ。うちは『偶に美人の出る家』だからな」
「ああ、アレですか……」

 やれやれと遠い目をするスピカ。

「そ、アレだ。俺んときも、勝手に期待されて勝手にがっかりされたぞ。お前もきっと、勝手にがっかりされてんぞ」

 シスコン言われてることは告げず、並みと言われていることを教えてやる。

「俺は男だからあんまがっかりされなかったけど、お前女だからな。ちょっと面倒かもな」
「え~……なんかヤだなぁ」
「ま、がんばれ。うちの親族は大体が経験することだ」

 『美人』は偶に出るというのに、毎度『美人』を期待されても困る。まぁ、『美人』でないことの方が割と楽だとは思うけど。

「……は~い」

 嫌そうな返事。

「ミリアリア嬢も一緒なら大丈夫だろ」
「クラス、一緒だといいんだけどなー」
「んじゃ、困ったことがあったら頼れよ。高等部の校舎来るのはちょっと勇気要るかもだけど、どっかで女子生徒捕まえて俺の名前出せばいいと思うし」

 ぽんぽんと頭を撫でると、

「わたしはもう小さくないから大丈夫。兄様にはなるべく頼りません!」

 ふふんと、胸を張っての宣言。

「そうかよ。あんま無理すんなよな」

 と、スピカと別れて高等部の教室へ向かった。

 スピカも寮に入って・・・家に帰ると、父上が満面の笑みで迎え、戻るときには寂しそうな顔をする。まぁ、スピカは相変わらず父上に塩対応なんだが。

 偶に、スタンがミリアリア嬢とお昼を一緒したいと言って、ついでにスピカも付いて来て、四人でランチすることもあって・・・

「・・・兄様」
「ん? なんだ? そんな深刻そうな顔して、なんかあったか?」
「なんか、って言うか・・・」

 戸惑ったように俺を見上げるコバルトブルー。

「? なんだよ?」
「兄様がシスコンって本当ですか?」
「あ゛?」
「ひっ……」
「はいはい、ストップストップ。ロイ、顔怖いから。スピカさん、誰から聞いたのかな? それ」

 短く上がった悲鳴に、スタンが割って入る。

「誰から、と言いますか、皆さん噂していますからね。むしろ、ようやくスピカ様の耳に届いた、と言うべきだと思いますわ、お兄様」

 答えたのはミリアリア嬢。

「成る程。だ、そうだ。ロイ」
「ええっ!? 兄様がシスコンって有名だったのっ!? そ、それじゃあ兄様は……わたしのこと大好きだったんですかっ!?」
「はあ? んなワケねーだろ、大好きとかじゃねーし。普通だ普通」
「え? 普通……? なら、なんでシスコンで有名なんですか?」
「……なぁ、誰のせいだと思ってやがんだ?」
「ぇ……? あの、兄様? お顔が怖い、です、よ?」
「ほら、落ち着けって。な? ロイ」
「ったく、その昔、どこぞのアホ妹が、不審者に付いてこうとしたせいなんだがなぁ? で、それ以来不本意にもシスコン呼ばわりされ続けている俺に、原因のアホ妹は、なにか言うことがあるんじゃねーのか? なぁ? アホ妹よ」

 ギロリと睨み付け、

「ぅう・・・ほめんなふぁぃ」

 むぎゅ~とスピカのほっぺたを掴んでタコの口にしてやる。

「ちなみに、そのアホ妹が勝手にお茶会を抜け出したのを教えてくれたのはミリアリア嬢だ。ミリアリア嬢が教えてくれなかったら、どうなっていたかわからん。だから、改めてお礼するように」
「ふぁい」

 コクコク頷いたので、タコにしていた顔を放してやる。

「ミリア様、ありがとうございました」
「ふふっ、相変わらず、スピカ様とロイ様は仲が宜しいですね」
「むぅ~……ほっぺた痛い……」
「はっはっはっ、スタンとミリアリア嬢程じゃないと思いますよ」
「もちろんさ、なぁ? ミリィ」

 と、臆面も無く肯定するスタン。

 やっぱり、俺じゃなくてコイツのがシスコン呼ばわりされて然るべきだと思う。

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