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番外。俺はシスコンじゃねぇ! 3
しおりを挟む『ねーしゃ』から『ねーしゃま』、そして『ねえさま』と発音がしっかりして来て、言葉を話すようになっても、スピカはネイサンが大好きらしく、
「ねえさま!」
と、満面の笑顔でネイサンに引っ付いている。
ネイサンもネイサンで、スピカにくっ付かれても離れろとか言わないでにこにこと抱っこしてあげるから、ますます引っ付かれている。
ちなみに、俺のことは一番最初が『にーに』そして『にーちゃ』、『にーしゃま』、『にいさま』呼びに変わって行った。
ちょっとずつ進化が見られる。
短い足をぽてぽてと動かして俺らの後ろを付いて歩くスピカ。
歩けるようになったばかりの頃、スピカを連れて外で遊ぶのは・・・めちゃくちゃ大変だった!
なんでも触って口に入れようとするスピカにぎょっとしたこと数知れず。
花びらを千切って口に入れようとしたり、土の付いた指をしゃぶろうとしたり……毛虫を触ろうとしたときなんかは本当に慌てた。毛虫は素手で触ると、触ったところに毛が刺さって痛くなったりかゆくなったり、はれたりしてとっても大変だからな。薬を塗ってもらっても、数日間は痛くて大変だったぜ……
ネイサンと二人でそんなスピカの面倒を見て、一緒に外で走って、転んで、偶に怪我をして、木に登ったり、母様に怒られたり、色々した。
「スピカって、女の子にしてはおてんばなんじゃない?」
「あー、そうかもな。でも、よそはよそ、うちはうちだから」
「そうなの?」
「おう」
女の子にしては、なぁ・・・
ま、うちはちょっとアレっつーか。
『クロシェンの美人』なネイサンに言うのもあれだけど、うちは『偶に美人が出る家』として有名だから、誘拐やらなにやらの対策として、男女関係無く動けるようになっとかなきゃいけねーからな。
スピカのこの、外で元気に走り回れるくらいの体力は絶対必要だと思う。
俺とネイサンはもう剣を習っているけど、スピカももう少し大きくなったら、なにか武術を習うことになるだろう。それは別に、習うのが剣だとは決まってはいない。
俺とネイサンの適性が剣だっただけで、スピカもそうだとは限らないし。
剣や槍、銃。女の子なら、鉄扇とか? 他にも、変わり種だと鞭や戦斧、武器を持つより素手の方が強かった、なんて先祖もいるくらいだし。本人が得意で、伸び代のある分野を伸ばして行く方針らしい。
だから、うちは父上も母様も、スピカが俺達の後ろに付いて外で遊びまくっても、「女の子なんだからお淑やかに」なんて言わない。
ある意味、特殊だと思う。
ネイサンの誕生日には、嫌な奴な両親からプレゼントだって服が届いたり……礼服ってどうなん? 無いよりあった方がいいかもだけど、うちだとそんなに着る機会ないんだけど? とか、微妙に思った。
そして、『美人』な大おば様とその旦那様のこーしゃく様が来たりして驚いたりした。ネイサンの両親は知らんけど、大おば様の夫妻と一緒にいる姿は親子みたいだなーって思った。
ま、大おば様達はちょっとだけ顔を出して、すぐに帰っちゃったけど。
でも、両親にはほったらかしにされてるって話だけど、おじい様とおばあ様にはちゃんと大事にされてるみたいで、ちょっと安心した。隣の国からうちに来るのは何日も掛かるから、領地持ちの貴族だとすっげー大変だろうからな。
乗馬を習うようになって、スピカを連れて父上とネイサンと四人でピクニックに行って、たくさん花を摘んで母様にお土産だって持って帰ったり。
二人で探検だと出掛けて・・・道に迷って一晩野宿して、最寄りの町で騎士に保護されたときには、父上と母様にめちゃくちゃ怒られたり。置いて行ったスピカに大泣きされて困ったり。
一緒に遊んで、勉強して、喧嘩して、たくさん笑って・・・
四年間、とっても楽しかった。
それが終わったのは、ネイサンが十歳になった頃。
『ネイサンは、うちの国の学園に通わせる』という手紙が来て、ネイサンは自分の家に帰ることになった。
今までずっとほったらかしにして、この四年間一度だって会いに来たことなんか無いクセに! そう思ったけど、
「うちの国とネイサンの国では習う勉強が違うから、帰るなら早い方がいい」
って、父上がネイサンを帰すことにした。
本当は、父上も母様もネイサンをうちに置いておきたいと思ってるクセに!
スピカは・・・ネイサンが大好きだから、なにも教えないことにした。スピカに見送らせたら、大泣きして大変だろうから。
迎えは、やっぱりネイサンの両親はいなくて。来たときと同じで・・・朝早くに来た馬車に、一人で乗って行った。
ネイサンがいなくなって寂しい……なんて思ったのも束の間。
この日は、親戚のじいさんが亡くなって葬式があってバタバタしていた。
そして、なにより大変だったのは・・・
「ねえさまは? ねえさまどこ? ねえさまは?」
と、ネイサンの部屋と屋敷中をうろうろしてネイサンを探すスピカ。
でも、ネイサンの姿が無いと気付いてから、
「ねえざばぁ~っ!!」
と、ドン引くくらい泣いて泣いて泣いて、めちゃくちゃ大変だった。
なにをしてもずっと泣き続けて、全く泣き止まない。ごはんも泣きながら食べて、泣きながら眠って・・・
父上はおろおろ。母様も心配そうにして。
俺は、ずっと泣きっぱなしのスピカげっそりした。
✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰
ギャン泣きしながらでも、ちゃんとごはんを食べるスピカ。。゚ヽ(゚`Д´゚)ノ゚。
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