虚弱な兄と比べて蔑ろにして来たクセに、親面してももう遅い

月白ヤトヒコ

文字の大きさ
上 下
594 / 673

番外。俺はシスコンじゃねぇ! 3

しおりを挟む



心地よかったといいながら、頬を赤らめる男の子が目の前にいる。

嬉しそうにしているのはいいんだけど、ほっとくとそのうち口元を手のひらで押さえて何かを堪えているように体を震わせているんだ。

(これって、一体どういう状態だって思ったらいいの?)

魔力はあると言われた。

彼のスキルで、それがわかったんだということも。

「……そんなにわかりやすい揺らぎだったの? カルナークがわかるほどって」

素直にそう聞けば、「いや」とだけ返すものの、あたしを何度かチラチラ見る割にその先を言ってくれない。

「教えて!」

願うように手を祈りの形にして、カルナークを見つめる。

「怒らない?」

こっちを見ず、うつむいたり頭をかいたり、手をあっちこっちにさまよわせてみたり。

「言わなきゃ、怒るかも!」

怒らない条件を示せば「卑怯だろ」とため息まじりに呟いてから。

「先に謝る。……申し訳ない」

と、頭を下げてきた。

彼の行動と発言に首をかしげていると「マーキング」と聞いたことがあるワードが聞こえた。

「マーキング?」

あまりいい意味合いに取れないんだけどと思いつつ、言葉の続きを待つ。

「さっき、俺をベッドに連れていこうとした時、お前の魔力に触れた」

赤くなったり青くなった彼の体調を心配して、ベッドに寝かせようとした時の話だな。

「俺の手を握ったお前の手から、魔力の揺らぎが感じられて。本当に俺のことを心配してくれているのがわかって。それで」

「……うん」

「それで……」

「うん」

「あの…………俺の魔力を、ほんのちょっとだけ…本当にちょっとだけ……混ぜて、馴染ませた」

「?????」

魔力を、相手の魔力に混ぜて、馴染ませた。

「……ら? どうなるの?」

この世界のそのへんの定義なんかわからないのに、中途半端で話をやめないでほしい。

「その、魔力が混ざると」

「混ざると」

「……悪意はなかった。本当だ。悪意はなかったんだ。とっさにやってしまったんだ」

「それはいいから、教えて!」

「相手の状態や位置が、大まかにだけど……わかる」

状態や、位置。

「って、GPS機能! え? ちょっと待って、それって」

防犯カメラはなかったけど、あたしがもうすぐ起きそうだとかがわかってた?

「それと、その、声なんかも、聞こえたり」

どんどん声が小さくなっていくカルナーク。

「声、聞いて……たの?」

あたし、起きてからなにか話していたっけ。

「お腹空いたって、聞こえて……それで」

「あ! あぁ!!」

それだ。

食べたいもの、食べたい順に並べてた! 脳内じゃなく、声に出して。

「わからない食べ物ばかりだったから、最後に言っていたのだけなら何とかと思って、生活魔法を使ってすぐ食材に火を通して作って……持ってきた」

それで、か。

野菜いっぱいのスープがあのタイミングでなんて、都合がよすぎる展開だって思ったもの。

「そ、っか」

悪意はなかったって言った。聞き間違えていないはず。

「とっさに、って?」

そうしたかった理由が、何かあった?

あの短い時間で、それをすればどうなるかを知っている本人がそれをした。

「どうして?」

繰り返し聞けば、「……かった、んだ」と途切れ途切れの言葉だけが耳に入ってくる。

「カル……」

名前を呼びかけた瞬間、髪色にも近いほどに真っ赤になったカルナークが立ち上がり。

「魔力がっ! 心地よかったんだ! 触れたいって思ったんだよ! お前に!」

怒鳴るような勢いでそこまで言ってから、最後に。

「好きだって思ったんだよ! お前の魔力に一目惚れしたんだよ! 悪いか!」

爆弾を投下するだけして、トレイを持ってあっという間に部屋から出て行ってしまった。

「…………聞き間違い?」

今のは何だったんだろう。

思い出す。つい今しがた落とされた爆弾発言を。

「好き。魔力が。一目惚れ。……触れたい…あたし、に」

思い出した順に、確かめるように口からこぼれていく。

魔力にって言われても、あたしにはどんな魔力があるのかわからない。

ネット小説とかだと、誰かに好かれる魔法は魅了の魔法だよね。

「え、知らないうちに魅了の魔法でもかけていた……とか?」

形がないものを知ることが出来ないもどかしさ。

「でも、そんなものでもなければ、あたしが誰かに好かれるなんて」

これまでの自分を振り返ってみても、どこにも誰かに好かれる要素が思い出せない。

告白自体。

「今のって、もしかして……生まれて初めての…告白……」

言葉にしてしまえば、それがどんなことかを思い知る。

「告白……うそ、だぁ」

ゆっくりと立ち上がり、鏡の前に向かう。

姿かたちを好きになったわけじゃないとわかっているのに、自分を見つめずにはいられない。

鏡に手をあてて、鏡の中の自分と手を合わせる。

「あたしが? 誰かに?」

考えなきゃいけないことばかりなのに、もうひとつ悩みが増えてしまった。

「もしも魅了の魔法だったら、どうしたらいいんだろう。……カルナークに、悪いこと、しちゃったんじゃないのかな」

体を反転させて、鏡に背を預ける。

天井を仰ぎ見て、胸の奥の重さを吐き出す。

「……はあ。どれから片付けたらいいの?」

眠った方がいいはずなのに、あたしはそのまま床に座ったままで朝を迎える。

太陽が部屋を白く照らしはじめたことに気づいていても、立ち上がらずに。

静かな時間だけが過ぎていく中で、頭に浮かんだのは。

「スープ、美味しかったんだよね。すっごく」

キッカケが何であれ、カルナークがあたしを想って作ってくれたかもしれないスープのことで。

「カルナーク……聞こえてる? ね……、聞こえていたら、あたしの顔を見なくてもいいから…食べさせてくれない…かな」

癒してくれたあの味を、確かめたいなと思ったことだった。

きっと部屋を出てからの呟きも聞かれていたんだろう。

あたしと会うのは、恥ずかしくて嫌かもしれない。

魅了の魔法がかかっていたら、その心情はどんなものなのか。

(わかんない。わかんないよ、カルナーク)

だから。

……だから。

「カルナークがくれた想い、もう一回確かめたいんだ」

願うように、祈るように、聞こえますようにと呟いた。


しおりを挟む
感想 175

あなたにおすすめの小説

【短編】復讐すればいいのに〜婚約破棄のその後のお話〜

真辺わ人
恋愛
平民の女性との間に真実の愛を見つけた王太子は、公爵令嬢に婚約破棄を告げる。 しかし、公爵家と国王の不興を買い、彼は廃太子とされてしまった。 これはその後の彼(元王太子)と彼女(平民少女)のお話です。 数年後に彼女が語る真実とは……? 前中後編の三部構成です。 ❇︎ざまぁはありません。 ❇︎設定は緩いですので、頭のネジを緩めながらお読みください。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

〖完結〗愛人が離婚しろと乗り込んで来たのですが、私達はもう離婚していますよ?

藍川みいな
恋愛
「ライナス様と離婚して、とっととこの邸から出て行ってよっ!」 愛人が乗り込んで来たのは、これで何人目でしょう? 私はもう離婚していますし、この邸はお父様のものですから、決してライナス様のものにはなりません。 離婚の理由は、ライナス様が私を一度も抱くことがなかったからなのですが、不能だと思っていたライナス様は愛人を何人も作っていました。 そして親友だと思っていたマリーまで、ライナス様の愛人でした。 愛人を何人も作っていたくせに、やり直したいとか……頭がおかしいのですか? 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全8話で完結になります。

完結 若い愛人がいる?それは良かったです。

音爽(ネソウ)
恋愛
妻が余命宣告を受けた、愛人を抱える夫は小躍りするのだが……

三度目の嘘つき

豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」 「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」 なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

最後に報われるのは誰でしょう?

ごろごろみかん。
恋愛
散々婚約者に罵倒され侮辱されてきたリリアは、いい加減我慢の限界を迎える。 「もう限界だ、きみとは婚約破棄をさせてもらう!」と婚約者に突きつけられたリリアはそれを聞いてラッキーだと思った。 限界なのはリリアの方だったからだ。 なので彼女は、ある提案をする。 「婚約者を取り替えっこしませんか?」と。 リリアの婚約者、ホシュアは婚約者のいる令嬢に手を出していたのだ。その令嬢とリリア、ホシュアと令嬢の婚約者を取り替えようとリリアは提案する。 「別にどちらでも私は構わないのです。どちらにせよ、私は痛くも痒くもないですから」 リリアには考えがある。どっちに転ぼうが、リリアにはどうだっていいのだ。 だけど、提案したリリアにこれからどう物事が進むか理解していないホシュアは一も二もなく頷く。 そうして婚約者を取り替えてからしばらくして、辺境の街で聖女が現れたと報告が入った。

これは一周目です。二周目はありません。

基本二度寝
恋愛
壇上から王太子と側近子息達、伯爵令嬢がこちらを見下した。 もう必要ないのにイベントは達成したいようだった。 そこまでストーリーに沿わなくてももう結果は出ているのに。

処理中です...