虚弱な兄と比べて蔑ろにして来たクセに、親面してももう遅い

月白ヤトヒコ

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番外。俺はシスコンじゃねぇ! 1

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 クロシェン伯爵家であるうちは、『偶に美人が出る』と有名な家系だそうだ。

 そう小さい頃から聞かされていたけど、全く実感は無かった。

 でも、ちっこい頃にじい様とおばあ様が事故で亡くなったとき、となりの国にお嫁に行ったというじい様のお姉さんだっていう大おば様を見て、『偶に美人が出る』って言うのはこういうことなのか……と、そうぼんやりと思った。

 そして、『偶に美人が出る』というのは、美女じゃないところがミソなんだと。

 なんでも、美人は男女関係無く出て来るものだそうだ。

 そして、このうちの家系から出たという昔の『美人』達は、不幸になった人が多い。

 うちがまだ男爵家だった頃には、生まれたばかりの頃から美女になると評判だった娘がどこぞのお茶会に出席した折りに、その家の成人近い長男に見染められ、花嫁修業だとして取り上げられてしまった。

 そのとき、その娘は五歳。格上の貴族家の、十以上も年上の子息と無理矢理婚約を結ばされた挙げ句、両親と引き離されてクロシェンの家に帰ることなく、監禁されて生涯を終えた。

 この反省を活かし、次にクロシェンに生まれた美人はあまり外に出さないように育て、無事婚約者と結婚して安心した途端、王城のパーティーに出席したら、王族の一人に見染められて無理矢理離縁させられて、王族に嫁がされることになった。このとき、王族が横車を押したせいで、嫁ぎ先の貴族家が潰れた。無論、王族の評判はめっちゃ下がった。

 そして、男の美人が生まれたときには、男だから娘達のように不幸にならないのでは? と、油断したらしく……まぁ、アレだ。どこぞの高位貴族の令嬢に懸想され、婚約も思うままに進められず、家に圧力を掛けられて相当大変な思いをしたそうだ。

 それで、大変な思いをした美人な当主は、理不尽を撥ね退けるために頑張って爵位を上げ、うちは伯爵家にまでなったそうだ。

 そして、美人が自分で自分の身を守れるようになるべきだと、この人の代からは男女関係無く、クロシェンの家の子供はある程度の武術を収めるようになった。

 まぁ、『美人』じゃなくても、クロシェンの家に生まれた子は武術を収めることになったのは……『偶に美人が生まれる』と評判になったせいで、うちの子を誘拐しようという不逞の輩が湧いて出るようになったからなんだが。

 そして、自分が美人じゃなくても、自分の子供や弟妹、親戚に美人に生まれるかもしれない。そのとき、なにも力が無いと自分の身内の『美人』が理不尽な目に遭ってしまう。

 だから、嫡男である以上は真剣に武術を学ぶように。と、そう言い付けられている。

 俺が五歳のとき、妹が生まれる前に父様がそう話してくれた。

 生まれた妹は・・・まぁ、ちっこくてふにゃふにゃで、あったかくて・・・びーびー泣きわめいて、めっちゃウルサかった!

 でも、きらきらのコバルトブルーの瞳で、いっしょうけんめい俺を追い掛けて来るところなんかは、かわいいと思う。

「スピカは可愛いから、将来はきっと美人になるぞ!」

 スピカを抱っこしてそんなこと言う父様には、

「は? うちの『美人』の話聞いたら、美人じゃない方がしあわせになれんじゃねーの? ふつーくらいがちょうどいいんじゃね?」

 そうツッコミ入れたけど。

「そ、それはそうだが、娘は可愛いんだ!」

 どうやら、うちの父様は親ばからしい。

 そしてそのあと、うちで親戚の子を預かることになったと聞かされた。

 なんでも、俺と同い年のその子はうちに『偶に出る美人』な子なのだという。

✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰

 うちで親戚の子を預かることになってから、『甘やかすと付け上がるような我儘な子供なので、厳しく躾けてほしい』という手紙が、その子の両親から届いたらしい。

 父様と母様が話してるのをこっそり聞いた。

 『美人』で、甘やかすと付け上がるようなワガママな子供。

 嫌な奴じゃないといいな、と思って、けど来るのは男だと聞いて楽しみにしていた。

 別にスピカがいやなワケじゃないけど、アイツまだ小さいし、妹で女の子だし。外で一緒に遊だりするのは難しい。

 そうしてやって来たのは――――

 ちっこい頃に見た、『美人』な大おば様とそっくりな『美人』な子供。

 ふてくされたような、楽しくなさそうな顔。

 嫌な奴かと思ったら・・・その子の、ネイサンの親が嫌な奴だった。

 なんだよ、ネイサンは悪くないじゃんかよ!

 俺がそう怒ると、ネイサンは不思議そうな顔で俺を見つめる。

 病弱な兄ちゃんばかり可愛がって、要らない子扱いとか、そりゃ家の中が嫌にもなるだろ。

 俺だって、母様がスピカにばっかり構うときにはちょっぴり、ほんのちょっぴり寂しかったのに。

 ちっこい頃からずっとほったらかしにされたら、ずっと寂しいじゃねーかっ!?

 じちょー気味に、あんまり良くない感じに笑うネイサンとどう仲良くしたものかと思ったら、母様にスピカを紹介されたネイサンがだっこをねだられて慌てた顔をしている。

 よだれの付いた手で顔をぺちぺちされてちょっと嫌そうな顔をしているけど、だっこしたスピカを嫌う素振りはない。

 あれは俺もちょっと嫌なんだけど、ネイサンは結構いい奴みたいだな!

 下手クソなだっこを見ていられず、ネイサンからスピカを取り上げて、俺の方が上手くだっこできると教えてやったら、前はだっこするのが下手クソだったことをバラされたっ!?

 スピカまで、俺のだっこが下手だったって言うし・・・

 と、こうして、ネイサンはクロシェン家にやって来た。

✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰


 ということで、クロシェン家の事情とネイサンがやって来た、のロイ視点の話です。

 影の薄いヒロイン、ネイサンの顔をよだれ塗れの手でぺちぺちしてます。(๑╹﹃╹)ノペチペチ

 次の話から、もうちょっとスピカの出番があるはず……(´ε`;)ゞ
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