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 偶にフィールズ公爵邸に行って、ルリア嬢とリヒャルト君の授業に参加。

「ハウウェル先輩、先週は来ませんでしたね……」

 と、しょんぼりした顔のエリオットに出迎えられることも度々。

「わたしにも予定があるからね」
「それは、そうなんですけど……」
「別にいいじゃない、わたしがいなくても。ルリア嬢と過ごせば。ね? ルリア嬢」
「・・・エル兄様は、ネイト兄様がいないとルリに会いに来てはくれませんか?」

 しょんぼりとした顔でエリオットを見上げるルリア嬢。

「エル兄さま、ルリア姉さまをなかせちゃメっ! ですよ」
「えっ!? や、る、ルリアちゃん? そんなことはないよっ?」
「本当ですか?」
「う、うん。だから、そんな悲しそうな顔しないで? ね?」

 リヒャルト君にびしっと叱られ、わたわたと慌てた顔でエリオットがルリア嬢を宥める。

「それじゃあ、今度ルリとピクニックしてくれるなら許してあげます」
「いいよ。それじゃあ、レイラちゃんも誘って」
「レイラ姉様は予定が入っているので無理です」

 レイラ嬢を誘おうとしたエリオットの言葉がキッパリと遮られる。

「そうなの?」
「はい。レイラ姉様も、色々ご予定がありますからね」

 ・・・これ、普通に埋め合わせとしてデートのお誘いだよね? エリオットは気付いてないみたいだけど。

 まぁ、あれだ。外堀は着実に埋めているとは言え、ルリア嬢がエリオットを振り向かせるのは少し難しいのかも。八つの年の差があるし・・・なにより、エリオットは天然で鈍いからなぁ。

 ま、ルリア嬢の方にはエリオットを逃すつもりはさらさら無いだろうから、長期戦も覚悟の上なんだろうけど。ルリア嬢の健闘を祈っておこう。

「そっか、それじゃあ」
「あ、わたしも忙しいし」

 だから……じっとわたしの方を見て、

 「……ルリの ライバルは、 ネイトお兄様 だった のです……」

 ぼそっと変なことを呟くのをやめてほしいなぁ、なんて思う。

「……そうですか」
「うん。折角せっかくだから、二人で遠乗りでもして来れば?」

 わたしはルリア嬢のライバルじゃないし。

「う~ん……それじゃあ、叔父様に聞いてみます」
「それなら、ルリの方からお父様にお願いしておきますね♪」

 なんてことがあったり――――

「どうだネイト、偶にはわたしと」
「お祖父様はお忙しいでしょうから、ネイトの教育は僕にお任せください。お仕事に戻って頂いて結構ですうよ?」

 にこりと、わたしへ話し掛けるお祖父様を遮るセディー。

「いや、今日はそんなに忙しくない! というか、セディーばかりネイトと過ごすのはズルいではないか! わたしもネイトと過ごすぞ! というワケでネイト、今日はわたしと一緒に領内の視察に行くぞ」
「・・・視察、ですか」
「うむ。ちなみに、今日は騎乗して移動するつもりだからな。セディーは留守番して、のんびり過ごすといい」

 ふふんとセディーを見やるお祖父様に、

「き、騎乗っ……」

 悔しげに顔を歪めるセディー。

 乗馬があまり得意ではないセディーには、騎乗での移動は少々ハードルが高い。

「まあ、どうしても付いて来たいのであれば、セディーは馬車に揺られて後ろから、ゆっくりと付いて来てもいいぞ?」
「くっ……そ、それなら僕は、ネイトの後ろに乗せてもらうことにします!」
「え?」
「なんだとっ?」
「うちの馬は、いい馬ですからね。領内なら、そんなに長距離でもないですし。二人乗りでも大丈夫でしょう?」
「う~む……それはそうだが……ネイトの意見はどうなのだ? 男と二人乗りしても楽しくないだろう。なあ、ネイト」
「いえ、それは別に?」
「なにっ?」
「騎士学校では、相乗りなんて珍しくもなかったですからね」

 訓練で二人乗りをすることもあったし。具合の悪い生徒を後ろに乗っけて運ぶこともあった。まぁ、『男と二人乗りなんて冗談じゃない!』なんて主張する奴もいるにはいたけど、訓練だからとそんな言い分は戯言として問答無用で無視されていた。

「ただ……」
「ただ、なんだ?」
「セディーは大丈夫なの? って思って」
「? 僕が?」
「うん。後ろに乗るにも、それなりに体力要るから。無理しないで馬車がよくない?」
「だ、大丈夫」

 と、三人で領内の視察をすることになった。お祖父様は一人で。わたしはセディーを後ろに乗せて。

 張り切ったお祖父様があちこちと案内してくれて、わたし達を見掛けた人がお祖父様に頭を下げる姿が見えた。お祖父様は領民達に慕われているようだ。

 翌日にはセディーと二人して筋肉痛になってしまい、おばあ様に笑われていた。

 そんな風にして忙しく過ごして――――

✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰


 次の話から視点変更。

 影が薄いと評判のヒロインが漸く登場です。ꉂ(ˊᗜˋ*)

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