虚弱な兄と比べて蔑ろにして来たクセに、親面してももう遅い

月白ヤトヒコ

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「遠慮は無用でしてよ!」

 ホールドした彼女の身体はスラリとして細身なのに、ケイトさんとはまた違った感じに鍛えていることが判る。ピンと伸びた背筋は男のエリオットとも違って、しなやかでありながらもしっかりとしていて体幹が全くブレない。

 けれど、さすがにエリオットのときのように手加減無く、というワケには……

「言いましたでしょう? 遠慮は無用です!」

 と、彼女の方が鋭く踏み込んで来た。

 これは……むしろ、わたしの方が彼女にリードされている感じかな?

「さあ、笑顔で踊るのですわ!」
「いえ、あまり不特定多数の人間へ笑顔を向けるなと言われているので」
「ダンスは笑顔で踊るものですわよ?」
「防犯対策です」

 幼少期から、不特定多数へ無駄に愛想を振り撒くなと言い聞かされている。

「……そうですか。仕方ありませんわね」

「では、もっと美しさを意識して!」

「ハウウェル様なら、もっとイケる筈です!」

 なんて、熱血なことを言われながら指導? のようなダンスが終わった。

 そして――――彼女は『フロアクイーン』に輝いた。

 まぁ、それはいいんだけど・・・

「ハウウェル先輩っ、ハウウェル先輩っ、僕達が『ベストカップル』賞ですってっ!」

 どうしてこうなったっ!? と、思わず頭を抱えたくなった。

「・・・『ベストカップル』賞って、そのフロアで最も輝いていたカップルに贈られる賞じゃないのか? わたしと君がそれを取るのはおかしくない? 男同士なんだけど?」
「ふっ、それは当然、ハウウェル様とフィールズ様のカップルがフロア内で一番輝いていたからに決まっていますわ!」
「え~……」

 と、なぜか『ベストカップル』賞のトロフィーを、『フロアクイーン』の彼女と並んで表彰されて卒業パーティーが終わった。

「ハウウェル先輩とお揃いのトロフィーです♪」

 と、トロフィーを抱き締めて上機嫌なエリオット。

 おばあ様には笑われ、お祖父様には微妙な顔をされ、セディーとケイトさん、リヒャルト君には手放しで喜ばれて祝われ、テッドには爆笑され、リールには呆れ顔で見られた。

 レザンには、

「二人共見事なダンスだったぞ」

 そう言って祝われた。そして・・・

「まあ! あなた達が噂のハウウェル君とフィールズ君なのね! うちのレザンが六年間、本当にお世話になりました」
「愚弟が世話になりました。レザンが無事に卒業を迎えられたこと、ハウウェル侯爵家には大変感謝しております」
「いえ、こちらこそ、レザンにはお世話になりました」
「お世話になりました!」

 と、レザンのお母上と兄君に挨拶をされた。

「とっても綺麗なダンスでした」

 という、誉め言葉まで・・・もう、かわいた笑いしか出て来なかった。

 そうこうしている間に、卒業パーティーもお開き。もうそろそろ、帰る時間となった。

「では、鍛錬を怠らず、達者で過ごすといい」
「君の方こそ、あんまり鍛え過ぎて逆に身体壊したりしないでよね。身体が資本なんだから」
「うむ」
「んじゃあ、みんな元気でやれよ!」
「……困ったことがあって、俺にできることなら力になろう」
「ぅうっ、みなさん、ぼくのこと……わすれないでくださいねっ!!」
「大丈夫だ、フィールズ。お前は、最高に(顔の)可愛い俺の後輩だからな! お前のその(顔の)可愛さは絶対忘れないぜ! お前みたいに(男なのに顔の)めっちゃ可愛い後輩はもう二度と現れることもないだろうからな! な、レザン」
「うむ」
「め、メルンせんぱいっ、レザンせんぱいっ……ありがとうございますっ!!」

 そう言って、アホ共と別れた。

 これで、明日からアホ共の顔を見ることもないと思うと・・・

 少しだけ、寂しい気もする。ほんの少しだけ、ね。

✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧


 テッドがエリオットに言っている()の中のセリフは言葉に出してません。ꉂꉂ(๑˃▽˂๑)
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