虚弱な兄と比べて蔑ろにして来たクセに、親面してももう遅い

月白ヤトヒコ

文字の大きさ
上 下
588 / 673

507

しおりを挟む


「遠慮は無用でしてよ!」

 ホールドした彼女の身体はスラリとして細身なのに、ケイトさんとはまた違った感じに鍛えていることが判る。ピンと伸びた背筋は男のエリオットとも違って、しなやかでありながらもしっかりとしていて体幹が全くブレない。

 けれど、さすがにエリオットのときのように手加減無く、というワケには……

「言いましたでしょう? 遠慮は無用です!」

 と、彼女の方が鋭く踏み込んで来た。

 これは……むしろ、わたしの方が彼女にリードされている感じかな?

「さあ、笑顔で踊るのですわ!」
「いえ、あまり不特定多数の人間へ笑顔を向けるなと言われているので」
「ダンスは笑顔で踊るものですわよ?」
「防犯対策です」

 幼少期から、不特定多数へ無駄に愛想を振り撒くなと言い聞かされている。

「……そうですか。仕方ありませんわね」

「では、もっと美しさを意識して!」

「ハウウェル様なら、もっとイケる筈です!」

 なんて、熱血なことを言われながら指導? のようなダンスが終わった。

 そして――――彼女は『フロアクイーン』に輝いた。

 まぁ、それはいいんだけど・・・

「ハウウェル先輩っ、ハウウェル先輩っ、僕達が『ベストカップル』賞ですってっ!」

 どうしてこうなったっ!? と、思わず頭を抱えたくなった。

「・・・『ベストカップル』賞って、そのフロアで最も輝いていたカップルに贈られる賞じゃないのか? わたしと君がそれを取るのはおかしくない? 男同士なんだけど?」
「ふっ、それは当然、ハウウェル様とフィールズ様のカップルがフロア内で一番輝いていたからに決まっていますわ!」
「え~……」

 と、なぜか『ベストカップル』賞のトロフィーを、『フロアクイーン』の彼女と並んで表彰されて卒業パーティーが終わった。

「ハウウェル先輩とお揃いのトロフィーです♪」

 と、トロフィーを抱き締めて上機嫌なエリオット。

 おばあ様には笑われ、お祖父様には微妙な顔をされ、セディーとケイトさん、リヒャルト君には手放しで喜ばれて祝われ、テッドには爆笑され、リールには呆れ顔で見られた。

 レザンには、

「二人共見事なダンスだったぞ」

 そう言って祝われた。そして・・・

「まあ! あなた達が噂のハウウェル君とフィールズ君なのね! うちのレザンが六年間、本当にお世話になりました」
「愚弟が世話になりました。レザンが無事に卒業を迎えられたこと、ハウウェル侯爵家には大変感謝しております」
「いえ、こちらこそ、レザンにはお世話になりました」
「お世話になりました!」

 と、レザンのお母上と兄君に挨拶をされた。

「とっても綺麗なダンスでした」

 という、誉め言葉まで・・・もう、かわいた笑いしか出て来なかった。

 そうこうしている間に、卒業パーティーもお開き。もうそろそろ、帰る時間となった。

「では、鍛錬を怠らず、達者で過ごすといい」
「君の方こそ、あんまり鍛え過ぎて逆に身体壊したりしないでよね。身体が資本なんだから」
「うむ」
「んじゃあ、みんな元気でやれよ!」
「……困ったことがあって、俺にできることなら力になろう」
「ぅうっ、みなさん、ぼくのこと……わすれないでくださいねっ!!」
「大丈夫だ、フィールズ。お前は、最高に(顔の)可愛い俺の後輩だからな! お前のその(顔の)可愛さは絶対忘れないぜ! お前みたいに(男なのに顔の)めっちゃ可愛い後輩はもう二度と現れることもないだろうからな! な、レザン」
「うむ」
「め、メルンせんぱいっ、レザンせんぱいっ……ありがとうございますっ!!」

 そう言って、アホ共と別れた。

 これで、明日からアホ共の顔を見ることもないと思うと・・・

 少しだけ、寂しい気もする。ほんの少しだけ、ね。

✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧


 テッドがエリオットに言っている()の中のセリフは言葉に出してません。ꉂꉂ(๑˃▽˂๑)
しおりを挟む
感想 175

あなたにおすすめの小説

わたしを捨てた騎士様の末路

夜桜
恋愛
 令嬢エレナは、騎士フレンと婚約を交わしていた。  ある日、フレンはエレナに婚約破棄を言い渡す。その意外な理由にエレナは冷静に対処した。フレンの行動は全て筒抜けだったのだ。 ※連載

殿下、私は困ります!!

IchikoMiyagi
恋愛
 公爵令嬢ルルーシア=ジュラルタは、魔法学校で第四皇子の断罪劇の声を聞き、恋愛小説好きが高じてその場へと近づいた。  すると何故だか知り合いでもない皇子から、ずっと想っていたと求婚されて? 「ふふふ、見つけたよルル」「ひゃぁっ!!」  ルルは次期当主な上に影(諜報員)見習いで想いに応えられないのに、彼に惹かれていって。  皇子は彼女への愛をだだ漏らし続ける中で、求婚するわけにはいかない秘密を知らされる。  そんな二人の攻防は、やがて皇国に忍び寄る策略までも雪だるま式に巻き込んでいき――?  だだ漏れた愛が、何かで報われ、何をか救うかもしれないストーリー。  なろうにも投稿しています。

婚約破棄? 五年かかりますけど。

冬吹せいら
恋愛
娼婦に惚れたから、婚約破棄? 我が国の規則を……ご存じないのですか?

眠りから目覚めた王太子は

基本二度寝
恋愛
「う…うぅ」 ぐっと身体を伸ばして、身を起こしたのはこの国の第一王子。 「あぁ…頭が痛い。寝すぎたのか」 王子の目覚めに、侍女が慌てて部屋を飛び出した。 しばらくしてやってきたのは、国王陛下と王妃である両親と医師。 「…?揃いも揃ってどうしたのですか」 王子を抱きしめて母は泣き、父はホッとしていた。 永く眠りについていたのだと、聞かされ今度は王子が驚いたのだった。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

愛しいねえ様がいなくなったと思ったら、勝手に婚約者が決められてたんですけどっ!?

月白ヤトヒコ
恋愛
わたしには小さい頃、大好きな大好きなねえ様がいた。そんなねえ様と過ごす愛しい日々が、ずっと続くと思っていた。けれどねえ様は、ある日突然いなくなってしまった。 ねえ様がいなくなって、めそめそ泣いていた幼いわたしに、お父様が婚約者を決めた。 その婚約者様は隣国に住んでおり、一度も会ったことが無い。そして、わたしの十五歳の誕生日。婚約者様と初めて顔合わせをする。 設定はふわっと。 ※百合ではありません。 表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

私は既にフラれましたので。

椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…? ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

処理中です...