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 三年生の授業が終わり、卒業試験までの間は自由登校に切り替わる。

「な、な、自由登校ってなにすんの? 俺、まだ決めてなくってさ」
「ふむ……自由登校、か」
「……俺は、卒業までに家探しだな」
「ぁ~、そう言や、リールは学園寮に入る前に住んでたとこ引き払ったんだっけ」
「ああ。一応、法律事務所で雇ってもらうことは決まったからな。ばあ様にその報告と、これからどうするのかを確認する。そして、とりあえずは事務所に近い場所で安く借りられる物件を探している。単身者向けか、ファミリー向けかは……ばあ様の意向を聞いてから決めるが」
「いつの間にっ!?」
「わぁ! おめでとうございます、グレイ先輩!」
「よかったね、リール」

 おばあ様の意見を聞いてから、一緒に住むのかを決めるということか。

「ああ、ありがとう……というか、これはライアン先輩からの紹介だからな。おそらくはセディック様の息が掛かっていると思うんだが……」

 知らないのか? と、言外に問い掛ける視線。

「え? そうなの?」

 全然知らなかったんだけど。これってもしかして、青田買いってやつ?

 リールは元貴族の家に生まれて、家を傾けた父親が借金を残して蒸発。母親はその後に生まれたリールを要らないと、父方のおばあ様に押し付けて裕福な家の後妻に入ったのだとか。そして、おばあ様は爵位や家を売って借金を返して、貴族子女の家庭教師カヴァネスとして働きながらリールを育たのだという、かなりの苦学生。

 そして、そうやって自分を育ててくれたおばあ様を楽させる為にと無償で通える特待生枠を三年間維持している、成績優秀者。しかも、目指すのは法律家だ。

 セディー、リールを囲い込む気満々だったのか……いつから目を付けていたんだろ?

「ふぇ~、それは凄いですね~。セディック様が支援するのは、本当に優秀な方だけだって話ですからね~」
「そうなのか? 俺はてっきり、ハウウェルのコネかと思ったんだが……」

 まぁ、わたしとセディーも両親ではなく、おばあ様とお祖父様に育てられたと言っても過言じゃない。でも、そういう風な同情だけでセディーがリールに目を掛けるとは思えないし。

「ん~……その辺りは、ちゃんとリールの実力だと思うよ? だって君、学年一位でしょ」

 幼少期からみっちりと教育を受けている高位貴族を差し置いて学年一位を取れたのは、リールにその実力があるからだ。

 幾らセディーに勉強を教わろうとも、学年一位を取れない奴はここにいる。一応、成績は上がってるんだけどね……多分、元から頭のできが違うんだと思うなぁ。あ、なんか自分で思ってて、ちょっと悲しくなって来たかも……

「うむ。それは自分自身の実力だと誇ってもいいと思うぞ」
「そーそー。大体さ、ハウウェルのおにーさんが甘いのはハウウェルにだけだって。なんせ、おにーさん、めっちゃブラコンだしな!」
「・・・それは確かに。説得力がある」
「え? なにそれ?」
「ふふっ、セディック様はハウウェル先輩とすっごく仲良しさんですからねっ!」
「リール就職おめでとう! な感じで、ついでに俺のことも是非聞かせてやろう!」
「え? 別にいいよ」
「もっと俺に興味持てよな!」
「……なにかあるのか? テッドは実家を手伝うんじゃないのか?」
「ふっ……店でお客様を相手する前に礼儀作法をしっかり身に付けろって、親戚の家で執事見習いをさせられることになってな!」
「ふぇ~……メルン先輩が執事ですか……がんばってください!」

 う~ん……執事なテッド、全然想像できない。失礼なことを言ってお客さんを怒らせそうな……大丈夫かな?

「おう、がんばるわ。んで、お前らは卒業したらどうするん?」
「うむ。俺は、そのまま軍に入ることになる」
「そっかー。ハウウェルは?」
「わたしは……セディーに領地経営のあれこれを教わる、かな?」

 子爵領の仕事をする、から子爵領の経営ができるようになる、に目標を定められた。

「おー、さっすが侯爵令息さまー」
「・・・ふむ、そうか」
「どしたよ? レザン」
「いや・・・」
「なに?」

 じっと、もの言いたげな三白眼を見上げる。

「ハウウェルは、軍に入る気は」
「無い」

 レザンの言葉を遮るように断る。

「そうか・・・ハウウェルならば、いい副官になれると思うのだがな。本当に残念だ。だが、領主となるのならば、自ら剣を持って戦うこともあるだろう。鍛錬は欠かさぬようにな」

 多分、これが最後の勧誘。

「まぁ、鈍らない程度には剣は続けるつもりだよ」
「そうか」

 なんて話してから少し後。

 物件を探し始めたリールだけど、住む場所は割とすぐ見付かったそうだ。ちなみに、おばあ様と一緒に住むことになったのだとか。『男の子の一人暮らしは心配だから』と、おばあ様が家事を引き受けてくれるそうだ。

 テッドとレザンは、学園に残ってコネ作りに勤しんでいるようだ。

 わたしも、なるべく乗馬クラブに顔を出すようにして――――

✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰


 ちなみに、没落貴族で現在平民のリールが学年一位を取っても高位貴族にいちゃもんを付けられないのは、ネイサン、レザン、エリオットといつも一緒にいるからだったりします。

 ある意味、色々とやらかしてる『女帝』なネイサンと『軍曹』なレザンを相手に物怖じしない人は、それだけで一目置かれるという……(笑)

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