虚弱な兄と比べて蔑ろにして来たクセに、親面してももう遅い

月白ヤトヒコ

文字の大きさ
上 下
573 / 673

492

しおりを挟む
 兄達に守られるように腰を下ろす龍花ロンファは次々と現れる点心おやつに驚く。

「金魚さん! それにフカフカ……」
「これは饅頭まんとうと言ってね? 昔、言い伝えがあって、父上のお友だちの諸葛孔明しょかつこうめい様がある川を渡ろうとしたんだよ。でもね? そこは魔物のいる川として有名で、捧げ物をしないと氾濫すると言われた川だったんだ。で、その捧げ物の代わりに作らせたといわれているんだよ。今では色々変化していて、中にお野菜とか詰めてたり、お肉とか、癖を消すためにニラとか生姜とか、白菜とかとを混ぜて包んでいるのとか……あ、こっちは甘いあんこを包んだ桃まん」
「捧げ物……?」
「えっと……」

 とうは躊躇う。
 まだ小さい妹には……。
と、思っていたのに、あっさりと真正面の髭! が。

「人の首だ。人を殺して、川に……」
「う、うわぁぁん!」

 桃まんを次兄のこうに取って貰っていた龍花は顔を歪める。

「お兄様! これ、これ……」
「アホ親父! 小さい龍花に何を言う!」

 広は怒鳴り付け、統は慌てて、

「あのね、これは、変じゃないんだよ? それにね? 孔明様は『そんな悲惨なことは続いてはいけない。大切な命を奪うことはしてはならない。代わりに、こちらを』って蒸してね……だから大丈夫。それに、お魚さんは綺麗でしょ? 金魚は本当に金運を呼ぶとか言われているんだけど……大丈夫。本物の金魚さんを探しに行こうね?」
「金魚さん……」
「あ、私の趣味……」

 関平かんぺい……紫蘭しらんが恐る恐る手をあげる。

「じ、実は、趣味で……日本から、沢山の金魚を送って貰って……金魚鉢で……育てているんだけど、見る?」
「あ、そうだ! 紫蘭、一杯動物育ててるんだよ! ほら、あそこの庭に……」
「あ、赤兎せきと

 にゅっと首を突っ込むのは、兎とは本当に名ばかりの、栗色よりも赤みのある毛並みの馬。

「う……」
「あ、赤兎は、大きな馬だけど、大丈夫! ほら、赤兎、この前生まれた……」
「紫蘭は、何でもかんでも拾うから、何だ? 雛か? うさぎか? ネズミに猫、犬に鹿、狼に虎、ライオンにパンダ、熊に象。どれだ?」
「パンダ? パンダさんって……?」

 首をかしげる少女に、統は説明する。

「熊なんだけど、お目目の回りは黒くて……」
「あー、兄貴! 説明面倒! 紫蘭! 行くぞ! パンダ! ……おっちゃん。また泣かせたら、親父に言いつけるからな!」

 広は紫蘭を掴んで引っ張っていく。

「パンダ……?」

 首をかしげる少女に、ため息をついた関聖帝君は、

「現在、中国では大熊猫ターシェンマオと呼ばれている。熊と猫に似ていると言われているが、熊は知っているか?」
「えと……喉に白い毛がある大きいの?」
「あれはツキノワグマと言い、まだ小さい方だ。日本には大きいヒグマと言う熊がいる。世界にも色々熊はいるが、変わった姿をしている。紫蘭は、何故か変わったものに好かれる。パンダはピヤピヤ鳴いていた裸の赤ん坊を拾ってきて、育てた。他にも象やライオンに虎も怪我をしていたり弱っていたのを手当てをしたらついてきたといっていた」

と、ざわざわとしはじめ、姿を見せたのはコロコロと可愛いぬいぐるみのような白と黒の生きもの。

「白黒ちゃん?」
「この子がジャイアントパンダの子供。で、アジアライオンの子供に、ホワイトタイガーの兄弟。ユキヒョウもいるよ。こら? はく。爪出さない!」

 爪を立てて喧嘩を売ろうとしたのか、飛び出そうとするホワイトタイガーをつまむ。

ちゅうしゅくも、喧嘩しない!」
「お名前わかるの?」
「ん? あぁ、一番目が伯。初対面には攻撃的なんだ。兄弟を守ろうとするのを止められなくて……普段は大人しいけど。二番目が仲、鼻の上の引っ掻き傷は、伯に怒られて引っ掻かれたんだ。で、これが、叔。三番目。一番やんちゃ。で、季は末っ子で一匹だけ女の子。一回り小さいでしょ? おんなじ兄弟だけど、季だけ未熟児で生まれたんだ……わぁぁ! 季!」

 ホワイトタイガーの子供が、とっとこと近づくと、猫のように手をあげる。
 構って、構って?
と言いたげな様子に、目を輝かせ、だっこする。

「にゃんこさん!」
「いや、龍花っ! それ、猫じゃないよ? 虎だよ? 虎!」

 冷静な統も顔色を変える。

「それは子供で、おっきくなったら、その赤兎位の馬も、獲物にするんだよ? 猛獣! 猫じゃない!」
「えぇぇ? にゃんこさん、がぶーするの?」

 喉をくすぐられゴロゴロと甘える様は猫科だが、脚が、大きさが違いすぎる。

「紫蘭! これ、引き取って! パンダかうさぎ! 危険物外を!」
「パンダも猛獣だけど……」
「のんきに言うな! 龍花が飼いたいっていったら……」
「お兄様飼って良いの?」

 目をキラキラさせて言う姿に、

「えっとね? 龍花……犬とかならと……」
「でも、兄貴」

 アジアライオンの子供と遊びながら、広が余計なことを言った。

「犬。家じゃいつかないじゃん。白竜駒が嫌がるし」
「広! 余計なことを!」
「お兄様……駄目?」

 子供の虎を抱き締め、上目使いに見る愛らしい妹のおねだりに……統は屈した。

「……し、紫蘭に、飼い方を教えてもらうんだよ? それに、ちゃんとしつけはしなくちゃね?」
「基本的に自由なんだけど……猫科だから、無理に抑え込むと攻撃するよ?」
「そこで余計な口挟むな! 紫蘭! それぐらい解ってる! けど、ある程度は必要だといってるんだ!」
「わーい!」

 喜んでいると、何やら3頭の兄弟が顔を見て、とことこと龍花に近づく。
 くいくいと手を動かしたり、スリスリと足に頭をすり寄せたり……。

「え? 皆来るの?」
「紫蘭!」
「えっと……基本的に猫科だから……」
「逃げるな! どうするんだ! 虎だぞ虎! まだ金魚なら良かった!」

 統は嘆くが、妹のおねだりに屈した。



 渋い顔で、点心を食べた後、

「じゃぁ、一応、帰りに迎えに来るから……」

と口にして、内心は『来ずに帰ってやる』と思っていた統に、紫蘭は、

周倉しゅうそうの叔父さんに頼んでおくから、大丈夫だよ。あぁ、私も、孔明様の所に伺おうと思ってるんだ。一緒に行くね」

とにっこり笑う。
 統は裏があるが、紫蘭は全く裏表がなく、素直である。
 悪気はないが、逆に……。

「……解った。龍花。一緒に行こうね」

 怒りをこらえつつ妹を連れていこうとしたのだが、

「お兄様! 龍花、紫蘭お兄様とお話しする!」
「……じゃぁ、そうしようね」

 心の中で、

『明日は紫蘭をボッコボコにしてやる!』

と宣言する兄貴の姿に、首をすくめ……。

「……兄貴、負のオーラ全開だぞ。笑顔が怖い! 龍花泣くぞ」

とだけ声をかけたのだった。
しおりを挟む
感想 175

あなたにおすすめの小説

伯爵令嬢が婚約破棄され、兄の騎士団長が激怒した。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

生命(きみ)を手放す

基本二度寝
恋愛
多くの貴族の前で婚約破棄を宣言した。 平凡な容姿の伯爵令嬢。 妃教育もままならない程に不健康で病弱な令嬢。 なぜこれが王太子の婚約者なのか。 伯爵令嬢は、王太子の宣言に呆然としていた。 ※現代の血清とお話の中の血清とは別物でござる。 にんにん。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

婚約破棄? 五年かかりますけど。

冬吹せいら
恋愛
娼婦に惚れたから、婚約破棄? 我が国の規則を……ご存じないのですか?

嫁ぎ先(予定)で虐げられている前世持ちの小国王女はやり返すことにした

基本二度寝
恋愛
小国王女のベスフェエラには前世の記憶があった。 その記憶が役立つ事はなかったけれど、考え方は王族としてはかなり柔軟であった。 身分の低い者を見下すこともしない。 母国では国民に人気のあった王女だった。 しかし、嫁ぎ先のこの国に嫁入りの準備期間としてやって来てから散々嫌がらせを受けた。 小国からやってきた王女を見下していた。 極めつけが、周辺諸国の要人を招待した夜会の日。 ベスフィエラに用意されたドレスはなかった。 いや、侍女は『そこにある』のだという。 なにもかけられていないハンガーを指差して。 ニヤニヤと笑う侍女を見て、ベスフィエラはカチンと来た。 「へぇ、あぁそう」 夜会に出席させたくない、王妃の嫌がらせだ。 今までなら大人しくしていたが、もう我慢を止めることにした。

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

眠りから目覚めた王太子は

基本二度寝
恋愛
「う…うぅ」 ぐっと身体を伸ばして、身を起こしたのはこの国の第一王子。 「あぁ…頭が痛い。寝すぎたのか」 王子の目覚めに、侍女が慌てて部屋を飛び出した。 しばらくしてやってきたのは、国王陛下と王妃である両親と医師。 「…?揃いも揃ってどうしたのですか」 王子を抱きしめて母は泣き、父はホッとしていた。 永く眠りについていたのだと、聞かされ今度は王子が驚いたのだった。

婚約破棄ですか? ならば国王に溺愛されている私が断罪致します。

久方
恋愛
「エミア・ローラン! お前との婚約を破棄する!」  煌びやかな舞踏会の真っ最中に突然、婚約破棄を言い渡されたエミア・ローラン。  その理由とやらが、とてつもなくしょうもない。  だったら良いでしょう。  私が綺麗に断罪して魅せますわ!  令嬢エミア・ローランの考えた秘策とは!?

処理中です...