虚弱な兄と比べて蔑ろにして来たクセに、親面してももう遅い

月白ヤトヒコ

文字の大きさ
上 下
573 / 673

492

しおりを挟む

対抗戦当日の朝。俺は緊張や不安というよりも対抗戦に出るのが嫌すぎてゲロりそうになっていた。心の底からドタキャンしたい。誰か代役で出て欲しい。俺には無理。この学園の貧弱生物ですよ?? 人間が亜人に勝てないのは常識だと思うんだけど、華薇先生を見てるとそうでも無いかもと思い込んぢゃうのかな…ここの生徒も先生たちも。

「「はぁ・・・帰りたい」」

俺と妹華の叶わぬ願いの言葉が重なる。こういう所は兄妹だなとしみじみ思う。然し、今更とやかく言ってもどうしようもない。ここに来た時点で帰るという選択肢は無くなっている。今あるのは『敗北』と『降参』のどちらかの選択肢のみ。俺的にはすぐさま降参したいところなんだが、タッグマッチともなるとペアが同意しなければ無効になってしまう。最悪な事に俺のペアは陽汰先輩である為、降参の選択肢は元から排除されているに決まっている。結局、俺に残された選択肢は『勝利』と『敗北』のどちらか。正直、怪我する前に安全に敗北したい。まぁ、無理だと思うが。

「さて、そろそろ開会式だ。行こうか」

陽汰先輩が舞台の袖から、俺達に声をかける。どうやら対抗戦の前に出場メンバーの発表がもうそろ始まるらしい。俺達が席を立つとそのタイミングで、舞台から司会者の声が響き始める。

「今日は待ちに待った一年に一度の対抗戦!!今年も生徒会チームと風紀委員会チームが互いの全てをかけて火花を散らす!!では、先ずは生徒会チームの紹介です!!」

それを合図に壁に貼り付けられたモニターに生徒会のメンバーが映し出されていく。

「先鋒! 生徒会会計・青柳シェロぉぉおお!!そして、彼女のパートナーはなんと!妹絶対主義お兄様!青柳ユウぅぅうううう!!」

どうやら先鋒から大将へという順番で舞台に出ていくらしい。

「よし、行くか。シェロ」

「・・・足だけは引っ張らないでくださいね」

ユウ先輩がシェロさんを肩に座らせて舞台へと緊張もなく堂々と出ていく。歓声が湧き、その後も次々とメンバー紹介が行われ、大将の番が来た。

「お待たせしまた!最後は我らが生徒会長!!誰よりも正義感が強く生徒だけでなく教師からも熱い信頼を寄せられし男!!聖桐陽汰ぁぁあ!!」

そう紹介が終えると先程まで以上の歓声が響き渡る。本当に陽汰先輩は大人気らしい。そんな人の後に俺の紹介とか辛すぎる。

「彼のパートナーは、先程紹介した久慈宮妹華さんのお兄さんであり、華薇先生の下僕で有名な二年生!!久慈宮兄太ぁぁあ!!」

・・・・?? 華薇先生の下僕?俺ってそんな風に思われてたのか…。

「みんな、今日は応援よろしく頼むよ」

「・・・・」

陽汰先輩は舞台に出て、司会者からマイクを受け取ったあと、そう声掛けをする。既に生徒達の大半が生徒会チームに寄っていることだろう。

「それでは、次は風紀委員会チームの紹介を始めます!先鋒!! 全男子の心をへし折ってきた氷結女王こと雪柳結七ゆきやなぎゆいなぁぁあ!!」

その紹介と共に現れたのは、俺の中学時代の後輩だ。枝毛ひとつない美しい白髪と凛とした表情は、慈愛園の男子共の心を撃ち抜くには十分だろう。

「そして次はパートナー・・・・」

次々と風紀委員メンバーが紹介されていく中で、副将で魔宙先輩の名前があがった。それに関しては俺以外にも生徒会メンバーや観客も驚いていた。風紀委員長なら大将戦に出ると思っていた。然し、順番を決めるルールに、大将は必ず生徒会長と風紀委員長のみとは記載されていなかった。という事は、アイツが大将戦に出るというわけだ。

「まさかまさかの風紀委員長が副将との事で驚きですが、気になる大将はコイツだぁぁあああ!!風紀委員会の番犬!天風狗兎ぅぅううう!!」

その紹介と共に、天風が姿を現し、舞台に既に立っていた俺に敵意のこもった視線を向けてくる。勿論、目を合わせることはしない。こんなめんどい奴の相手をするほど俺も暇ではない。というか単純に関わりたくないだけだったりする。

「ふんっ。僕の事を無視するとは相変わらず君は舐めているようだね、久慈宮兄太」

司会者からマイクを奪い取り、そう声をかけてくる。まさかマイクを使用しての発言とは、観客から変に注目されてしまうじゃないか。予想通り観客がざわめき始める。

「はははっ!随分と躾のなってない番犬だね。でも、兄太君には役不足だと思うよ、淫魔風紀委員長」

「あら、そちらこそウチの番犬を舐めてると痛い目を見るわよ、ガリ勉君」

バチバチと陽汰先輩と魔宙先輩が火花を散らす。正直、俺を巻き込まないで欲しいし、役不足なのはこっちだと思うんですが。

「ふんっ。大将戦を楽しみにしているんだな、久慈宮兄太」

「・・・帰りたい」

弱音を吐く俺にそう言葉を吐き捨てて、天風がマイクを司会者に返す。

「とても盛り上がっていますが、まずは先鋒戦!! 出場選手以外は舞台裏での待機をお願いします!」

司会者の進行で、舞台には先鋒戦に出場するメンバーだけが残る。

「では先鋒戦!生徒会チームからは青柳兄妹!!そして風紀委員会チームからは雪柳姉妹!! そして気になる最初の種目は--」

巨大なモニターにルーレットが映し出され、数回まわった後に、針がとある部分で止まる。

「第一種目!!互いの嘘を見抜け!その名も【ブラフゲーム】!!」

司会者が種目名をそう声高らかに告げた。

「ブラフゲーム・・・余裕ですね」

「俺たち、青柳兄妹に負けはねえ!」

余裕満々な青柳兄妹と、

「足を引っ張らないでね、八宵やよい

「 そっちこそ足引っ張んなよ、クソ姉貴」

仲の悪そうな雪柳結七と雪柳八宵。

「それでは第一種目【ブラフゲーム】開幕です!!」

司会者の合図により、対抗戦が始まった。
しおりを挟む
感想 175

あなたにおすすめの小説

生命(きみ)を手放す

基本二度寝
恋愛
多くの貴族の前で婚約破棄を宣言した。 平凡な容姿の伯爵令嬢。 妃教育もままならない程に不健康で病弱な令嬢。 なぜこれが王太子の婚約者なのか。 伯爵令嬢は、王太子の宣言に呆然としていた。 ※現代の血清とお話の中の血清とは別物でござる。 にんにん。

伯爵令嬢が婚約破棄され、兄の騎士団長が激怒した。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

婚約破棄? 五年かかりますけど。

冬吹せいら
恋愛
娼婦に惚れたから、婚約破棄? 我が国の規則を……ご存じないのですか?

嫁ぎ先(予定)で虐げられている前世持ちの小国王女はやり返すことにした

基本二度寝
恋愛
小国王女のベスフェエラには前世の記憶があった。 その記憶が役立つ事はなかったけれど、考え方は王族としてはかなり柔軟であった。 身分の低い者を見下すこともしない。 母国では国民に人気のあった王女だった。 しかし、嫁ぎ先のこの国に嫁入りの準備期間としてやって来てから散々嫌がらせを受けた。 小国からやってきた王女を見下していた。 極めつけが、周辺諸国の要人を招待した夜会の日。 ベスフィエラに用意されたドレスはなかった。 いや、侍女は『そこにある』のだという。 なにもかけられていないハンガーを指差して。 ニヤニヤと笑う侍女を見て、ベスフィエラはカチンと来た。 「へぇ、あぁそう」 夜会に出席させたくない、王妃の嫌がらせだ。 今までなら大人しくしていたが、もう我慢を止めることにした。

眠りから目覚めた王太子は

基本二度寝
恋愛
「う…うぅ」 ぐっと身体を伸ばして、身を起こしたのはこの国の第一王子。 「あぁ…頭が痛い。寝すぎたのか」 王子の目覚めに、侍女が慌てて部屋を飛び出した。 しばらくしてやってきたのは、国王陛下と王妃である両親と医師。 「…?揃いも揃ってどうしたのですか」 王子を抱きしめて母は泣き、父はホッとしていた。 永く眠りについていたのだと、聞かされ今度は王子が驚いたのだった。

婚約破棄ですか? ならば国王に溺愛されている私が断罪致します。

久方
恋愛
「エミア・ローラン! お前との婚約を破棄する!」  煌びやかな舞踏会の真っ最中に突然、婚約破棄を言い渡されたエミア・ローラン。  その理由とやらが、とてつもなくしょうもない。  だったら良いでしょう。  私が綺麗に断罪して魅せますわ!  令嬢エミア・ローランの考えた秘策とは!?

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

処理中です...