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「レザン先輩もメルン先輩も、なんだか元気がありませんね。大丈夫ですか?」
「……うむ」
「……いきなり、テストさせられて……ちょっとな。そう言うフィールズは元気そうだな」

 どうやら、学力を測る為のテストでテンションだだ下がりのようだ。

「はいっ、楽しかったです!」
「……楽しい勉強なんかあるもんか」
「ふふっ、それがあったんですよ! たくさん本を読んで面白かったです!」
「……ふっ、フィールズと俺らじゃあ、楽しいの定義が違うようだな」

 と、遠い目をするテッド。

「レザン君は数学が苦手。テッド君は基礎的な計算は得意なようですが、方程式や公式を使う計算になると間違いが目立ちますね。そして二人共、歴史と教養関係が苦手」
「ぐはっ……」
「……むぅ」
「卒業試験の範囲は三年分ですからね。一、二年生の復習や基礎も確りしておいた方がいいかもしれません」

 ライアンさんの報告に、ダメージを受ける二人。

「まぁ、数学は公式を暗記してひたすら問題を解いて慣れるしかないけど、歴史と教養については、割と楽しく勉強できるんじゃないかな?」
「た、たのしく……」
「うん。そうだねぇ……観劇でもしようか?」
「へ?」
「興味が薄いから覚えられないんだと思うよ。だから、まずは興味を持つことから。僕も最近のスケジュールは余裕あるし。よければ、みんなで観劇に行かない?」
「戦記ものと恋愛もの、ミステリーにオペラ。どれがいい?」
「え? いや、その、おにーさん? 今日思い付いて、すぐ行こうって、そんな簡単にできるもんなんですか? チケットとか、座席とかの手配は難しいと思うんですけど」
「……珍しく、テッドがまともなことを言っているな」
「そこっ、ウルサいぞっ」
「ああ、その辺りは大丈夫。僕、劇団とかのスポンサーやってるから」
「え? スポンサー? セディーが?」
「ふふっ、驚いた? ネイト」
「うん。なんで劇団?」
「同級生や後輩に、俳優志望の子が複数いてね。で、僕の他にも、演劇や歌劇好きな人に出資者を募って、劇団を立ち上げちゃった」
「ええっ!? おにーさんってば、案外アグレッシブっ?」
「ん~……僕がって言うよりは、僕達にお金を出させた先輩がアグレッシブかな? 貴族の二男、二女以下の、才能のある子達が平民の劇団に入って潰されて行く姿を見てられないって。だったら、自分達で作った方が早いって、本当に作っちゃったんだよねぇ。先輩が」
「セディーの先輩って?」
「今度、新しい・・・伯爵位を貰う人」
「・・・第三、王子殿下」
「うん。あの人、僕の二つ上なんだけど、結構強引な人なんだよねぇ。生徒会に誘われて、断ったら無茶振りされるようになっちゃってね。それから、偶に使われてるんだ」
「おにーさんリアル王子様とお知り合いだったっ!?」
「ふふっ、びっくりした?」

 驚愕するテッドに、コクコクと無言で頷くリールとレザン。

「ふぇ~、第三王子殿下ですか~。確かに、あの方は芸事がお好きな方ですけど。セディック様、側近になるの断っちゃったんですね~」
「ええっ!?」
「まぁ、殿下が在学中はうちも結構ごた付いていたからね。そんなめんどくさ……じゃなくて、そういう重要な役目は、僕には荷が重いから」

 ぁ~……五年以上前のことか。そりゃ、騎士学校に入れられたわたしが知るワケない。そして、実際に面倒だったのだろう。母とか、セディーが王子殿下の側近に選ばれたと知ったら……なんかもう、うん。マジ面倒なことになっていただろう。セディーは断っていて正解だ。

「や、今絶対めんどくさいって言い掛けましたよねっ!?」
「ふふっ、気のせいじゃないかな? それに、エリオット君だって第三王子殿下とは面識があるみたいだよ?」
「あ、はいっ。次期公爵としての教育の一環で、お祖父様と一緒に王室主催のお茶会に参加したことがありますから。そのときに、第三王子殿下と少しお話をさせて頂きました!」
「ヤだ! 忘れてたけどフィールズもかなり良いとこの子だったっ!!」
「あの人、芸事が好きで政には関わりたくないって言って、今度王族を抜けて新しい伯爵家を興すことになったんだよねぇ」
「なんかもう、おにーさんとフィールズの交友関係でお腹いっぱい……」
「えっと、僕は第三王子殿下とは年が離れているので、交友という程は親しくないですよ?」
「やー、実際に王子様と話したことあるってのがもう、庶民からすりゃすっげーことだから」

 と、なんかすごいセディーの交友関係に驚きながら昼食を済ませた。

 お昼、なに食べたかちょっと思い出せない。

 午後にはケイトさんとリヒャルト君が来て、ケイトさんはおばあ様と。リヒャルト君はわたし達と過ごした。

 そして観劇にお誘いすると、

「いきたいです!」

 というリヒャルト君の返事で、ケイトさんも参加決定。

 アクション多めの、戦記ものの劇を見ることに決まった。

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