虚弱な兄と比べて蔑ろにして来たクセに、親面してももう遅い

月白ヤトヒコ

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「ふふっ、そうだよ」

 と、笑顔で……積み上げられたお勧めの本とは別の、凶器になりそうな程分厚い辞書がぎっしり詰まった棚を指し、

「気になった単語やわからない言葉があったら、その都度調べながら読むこと。推理小説だと、富豪や貴族、それらの家の当主が殺されちゃうのは定番でしょ? あれって、案外遺産相続や継承権についてしっかり書かれている本もあってね。他にも恋愛小説の、お花畑なヒロインと王子様が結ばれるって言う、現実にはあり得ない話だとしても、作者がちゃんと法律を調べて書いてるのがわかったりもして、案外面白いんだよねぇ」

 にっこりとセディーが微笑む。

「実際に起こったノンフィクションで、犯罪の記録から裁判までの流れと、判決、刑罰までが確りと書かれている本もあるし。遺産相続に巻き込まれて大変な思いをしたという人のエッセイだとか、マイナーな法律が結構役に立ったりしたって言う経験談とかね? そういう部分を読み流さないで、確りと読んでごらん」
「ふぇ~……本って、そういう読み方もあるんですね~。知らなかったです」
「うん。例えば、この恋愛小説。高位貴族に見染められて~って言う王道の定番で、ストーリー的にはつまらない内容だけど、結構貴族や王室関連の習慣やマナーが詳細に描かれている。これを書いたのは、王宮に出入りできるような人、もしくはその関係者なんじゃないかな? って、想像できたりとかもね」

 クスクスと笑うセディー。

 成る程、そういう風な身バレもある、と。王宮の慣習を詳細にって、作者さんは大丈夫なんだろうか・・・と、ちょっと心配になってしまった。

「セディーが恋愛小説を読むとは知らなかったな。かなり意外かも」
「ああ、これは別に僕が好んで読んだワケじゃなくて……昔は、そんなに体調が悪くなくてもベッドから出してもらえなくて。かなり暇だったからね。侍女とかが持ってた本を頼み込んで貸してもらって読んだんだよねぇ」
「侍女の本……?」
「うん。もう、なんて言うか……誰かさんの相手をしなくて済むならって、一日の大半は本を読んでいたんだけど。さすがに、暗記済みの教科書や本を毎日読むのはつらかったからね。読んだことがない本なら、どんな内容のものでもいいってお願いしたら、絵本から恋愛小説、推理小説の娯楽本から、エッセイ、園芸やら料理のレシピ本、外国語の本、戯曲、辞書や専門書まで、使用人達がこっそりといろんなジャンルの本を差し入れてくれてね。ああ、ちなみにだけど、こっちにあるのは僕の私物だから安心してね」
「……セディック様は、乱読家でしたか」
「そうだねぇ」

 セディーはにこにこと話しているけど・・・誰かさん、か。小さい頃は、本当に大変だったんだろうなぁ。それこそ、本に没頭して逃げたくなるくらいに。

「とりあえず、気になった本を読んでみてよ。わからないところがあるなら、気兼ねなく質問してくれて構わないから」

 と、勉強? する為に、セディーお勧めの本を手に取った。

 ぶっちゃけ、あれだ。最初は、こんなんで勉強になるの? って、ちょっと思ってた。

 でも、この方法凄い。普通に教科書や参考書を読むより、ストーリー仕立ての方が頭にするすると入って来る気がする。

 と、結構楽しく勉強ができている。

 リールもエリオットも、楽しそうだ。

 自分の読んだ本を互いに勧め合って、自分では選ばない本を読むのも新しい発見がある。

 そして、改めてセディーの記憶力の良さにびっくりさせられた。どの本を持って行っても、瞬時にその本の話ができる。

 あっという間にお昼になり――――

 卒業試験組と一緒に昼食。

 テッドとレザンは・・・なんかぐったりしていた。

「レザン先輩もメルン先輩も、なんだか元気がありませんね。大丈夫ですか?」

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