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「ああ、そう言えばそんなこともあったねぇ」

 去年の交流会は、ケイトさんがわたしのパートナーを務めてくれて、新しいドレスと靴をセディーがプレゼントして、それらを身に付けてくれたケイトさんをエリオットとレイラ嬢が気遣って……

 ケイトさんにダンスを申し込んだテッドに、ケイトさんの代わりをエリオットが勝手に引き受けて、男同士で踊ってすっごく目立っていた。

 まぁ、アレはレイラ嬢のエリオットへの女性避けという気遣いも含まれていたんだけどね。なんでも、女性よりも女性パートを上手く踊れる男へダンスを申し込むのはハードルが高い、のだとか。

「……なら、そのアンダーソン嬢とやらに申し込んで来たらどうだ? 交流会で踊った相手が男だけ、なんて思い出しか残らんぞ?」

 ぼそりと、リールが言った。

「っ!! なん、だとっ……そ、そんなことは……こ、交流会はまだあと一回残って」
「……次も、パートナーがいるとは限らないぞ?」
「ぐはっ!!」

 なにやら、リールの言葉がクリティカルヒットしたようで胸を押さえるテッド。

「そして、その次は卒業パーティーだ」
「・・・わかった。行って来るっ!!」

 と、テッドは皿を置いてフロアへ向かった。

「・・・大丈夫かな?」
「? なにがだ?」
「や、結構食べてたみたいだから。動くと気持ち悪くならないかな? って。やけ食いの後のダンス」

 テーブルに重なっている皿を指すと、

「・・・無理なら、戻って来るだろう。多分」

 リールはすっと視線を逸らした。

 まぁ、ワルツならそんなに激しい動きじゃないから……うん。無事を祈っておこう。と、遠い目になっていたら、

「ハウウェル先輩っ!」

 弾む息でこっちにやって来るエリオット。

「あら、お二人ですか? メルン先輩がいませんわね。珍しい」

 わたしとリールの左右を見て、アホがいないことに首を傾げるレイラ嬢。

「あれ? そう言えばメルン先輩は?」
「ああ、テッドならアンダーソン嬢にダンスを申し込みに行った……と思ったけど、どうしたの? テッド」
「あ、メルン先輩。もう踊って来たんですか?」

 キリっとした顔で戻って来たテッドが、

「ふっ……ダンスするの久し振りだから、ちょっと練習に付き合ってくれフィールズ!」

 エリオットにダンスを申し込んだ。

「ふぇ? えっと、わかりました! それじゃあ、ちょっと行ってくるね、レイラちゃん」
「ええ。行ってらっしゃい」

 さっきは、去年エリオットと踊らされたと言っていたクセに。まぁ、エリオットとそのパートナーのレイラ嬢がいいって言ってるんだからいいのかな?

 そして、去年同様に注目を浴びながらの男同士のダンス。キャッと嬉しそうな声がしたような? 男同士のダンスを見ても……面白い、か。ウケ狙いやなにかの出し物と思われているのかもしれない。

「ふふっ、これで今年もエリオットにダンスを申し込む子はいなくなりますわ」

 レイラ嬢的には、ルリア嬢の為にエリオットの虫除けができればそれでいいのだろう。

 リールは、にこにこと上機嫌なレイラ嬢に少し引いている。

「あら、メルン先輩も去年よりは上手くなりましたわね」
「ああ、去年フィールズ伯爵家の別荘に遊びに行ったとき、ダンスの特訓をしましたから」
「そうでしたか」

 なんて話していたら、急に二人の動きが止まった。

「あら、どうしたのかしら?」
「……やけ食いの後のダンスは、やはり危険だったか」
「まあ……」

 ぼそりとした声に、テーブルに目を落として苦笑するレイラ嬢。

 そして、エリオットに支えられてテッドが戻って来た。

「……ぅえ……きもち悪……」
「大丈夫ですか? 保健室に行きますか? メルン先輩」
「ゃ、すこし……休めば、だいじょう……ぶ……」

 口を押さえ、顔色の悪いテッド。

「……ィールズ。頼みが、ある……」
「はい、なんですか? なんでも言ってください!」
「おれの、かわりに……」

 ふっ、と弱々しい笑みを受かべながら……

「はい、メルン先輩の代わりに?」
「ハウウェルと……おどってやって、くれ」
「わかりました!」
「は?」

__________


 ただでは引っ込まないテッド。(*`艸´)

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