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しおりを挟む会場入りをした。
入ってすぐ、
「あら……」
小さく零れたパートナーの声。
「どうしましたか?」
「いえ、婚約者の方が先に会場入りしていたようですわ」
「え?」
と、彼女の視線の先を辿ると、満面の笑み……というか、若干恍惚気味? な顔をした男子生徒がこちらを見ていた。
・・・ぅっわ、と思ったがどうにか顔には出さないよう堪える。
どうしよ・・・挨拶とお礼をしに行くべき、なんだろうけど。行きたくない。関わりたくない。なんなら、こっちを見ている顔も見たくない。
けど、そういうワケには行かない。
「すみません、入口前でごたごたしていたせいかもしれません」
「いえ、お気になさらず」
クスリと笑みを含む返事。
そして、溜め息を堪えつつ、件の婚約者の許へ向かった。
「ハウウェル様。会場までのエスコート、ありがとうございました」
「いえ、こちらこそ」
と、パートナーを務めてくれた後輩がすっと離れて行く。
「ハウウェル様のお役に立てたようで、大変光栄です」
にっこりと、それはそれは嬉しげな笑み。
「・・・いえ、わたしの方こそ助かりました。ありがとうございました。では、わたしはこれで失礼しますね? お二人の邪魔になってはいけないので」
「あ、ハウウェル様……」
と、引き攣りそうな顔面に笑みを貼り付け、そそくさと離れた。
なにやら、物欲しそうな声がしたような気がしたが、きっと気のせいだ。
一応、パートナーを務めてくれた子には後でお礼をするとして。あの婚約者の方・・・どうしよ? できれば、放置したいなぁ。
それから、パートナーが離れたのを好機と見てか、近寄って来ようとする女子生徒がいるのが見えたので、面白くなさそうな顔でレザンとアンダーソン嬢のカップルを見ているテッドと、これまた渋い顔でそんなテッドを見ているリールの二人と合流。
「んあ? ハウウェルか・・・ふっ、早速振られてやんのー」
「いや、振っても振られてもないから。誤解を招くようなこと言わない」
「へいへい、すんませんねー」
と、不機嫌そうに管を巻くテッド。
「ったく……レザンの裏切者めっ」
踊るレザンとアンダーソン嬢、エリオットとレイラ嬢の二組のカップルを見ながらテーブルの料理がどんどん減って行く。やけ食いだ。
「……なんなら、アンダーソン嬢にダンス申し込めば? 乗馬クラブの誼で引き受けてくれるかもよ?」
「んぐっ!? な、なに言ってんだハウウェルっ!?」
「え? だって、羨ましいんでしょ?」
「めっちゃうらやましいっ!!」
躊躇いも無く即答。
「なら、頼めば?」
「え? や、でも、それは……」
「ほら、去年エリオットと特訓したでしょ。基本的なワルツくらいは踊れるようになったんじゃないの?」
「ぐっ……」
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女性パートを……というのは冗談だけど、男性パートのスタンダードワルツとテンポの速いワルツは踊れるようになった筈だ。
「くっ……去年の交流会でフィールズと踊らされたことを思い出しちまったじゃないかっ」
「ああ、そう言えばそんなこともあったねぇ」
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