虚弱な兄と比べて蔑ろにして来たクセに、親面してももう遅い

月白ヤトヒコ

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番外。エドガー(おとん)視点。9

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 特に気にしていなかった。

 そんなある日。

 セディックの婚約を父と母が勝手に決めたと、メラリアが怒っていた。侯爵邸まで行って文句を言って来たらしい。そして、母に酷いことを言われ、セディックにも迷惑だと言われて送り返されたのだとか。

 しばらくメラリアを外へ出すなと、僕と使用人達へ命令があった。

 貴族家当主が婚約者を決めるのは常識で、僕がメラリアと結婚したことの方が珍しいことなのだが・・・

 なんでも、暴力を振るうような乱暴者で婚約解消された令嬢がセディックに宛がわれて可哀想だと思った、だからそんな婚約はやめてほしいと言いに行った、とのこと。

 泣きながら、

「セディーが可哀想だわ……そんな評判の悪い人と婚約させられて、お家のために犠牲になるなんて」

 そう言っていた。

 少し調べてみると、くだんの令嬢は元々伯爵位を継ぐ為に育てられていたらしい。

 娘を当主にと考える程、縁戚関係が酷かったのだとか。だが、近年息子が生まれた為、弟の方へ継承権が移行。

 当主になれなくなったので、嫁に出る必要があった。大方、高位貴族で婚約者が決まっていなかったセディックに目を付けたというところだろう。

 所詮、女が爵位を継ぐことなどできないんだ。

 それに、父が決めた婚約なら仕方ない。

 でも、ふと、セディックの婚約者という令嬢はフィオレのような女では……? と、頭を過ぎった。けれど、当主である父の決めたことに、僕が異を唱えることはできない。

 もし、セディックの婚約者がフィオレのような男勝りの女だとして。そのままセディックと結婚してしまったら・・・

 僕が当主になって、セディックとは離縁させる。

 そうしようと決め、

「僕が当主になったら、そんな婚約は解消するから大丈夫だよ」

 とメラリアを宥めた。

✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰

 メラリアと二人で暮らしていて――――

 セディックから連絡があった。用事があるので時間を作ってほしい、と。

 そして、セディックはネイサンと二人でうちにやって来た。

 久々に見たネイサンは・・・嫌になるくらい、若い頃の母とそっくりだった。

 無論、男女の差はあるにせよ、雰囲気や意志の強さが……その顔と、薄黄緑の瞳とに顕れている。見たくなくて、目を逸らす。

 セディックが切り出したのは、思いも寄らぬ話。

 自分が侯爵位を継ぐには、父と母に可愛がられているネイサンをこの家にいさせるワケにはいかない。なので、ネイサンの除籍を願うとのこと。

 なんだ、やはりセディックもネイサンのことが目障りになったのか。この二人は大きくなるにつれ、仲が悪くなったのだろう。

 そう思い、除籍届にサインをする。

 ネイサンがペンを取り、サインを終えた瞬間、縁が切れたと思わず笑いが込み上げた。

 縁が切れた。これでもう、親子じゃない!

 ネイサンがどこで野垂れ死のうが、もう僕には関係ない!

「ありがとうございました」

 と、微笑むセディック。

 ああ、中身はフィオレに似たと思っていたが、やはりセディックもこちら側……

 だと、そう思ったのは一瞬。

 セディックは冷たく僕達を馬鹿にすると、僕に別の書類を差し出した。

 それは、信じられないもの。

 なぜ、僕の侯爵家からの除籍届がっ!?

 意味がわからない。だって、僕が侯爵家を継ぐんだっ!!

 優秀で、男じゃないことを惜しまれたフィオレじゃなくて、この僕がっ!!

 だというのに・・・侯爵位を継ぐのは、僕をすっ飛ばしてセディックだとっ!?

 セディックのような若造に、侯爵が告げるワケがない!

 正当な嫡男は僕だっ!?

 なのに、なのに、なのにっ・・・

 僕が使えない? そんなことはっ・・・

 メラリアがセディックに声を上げる。

 返るのは、セディックの蔑んだような冷たい視線と暴言。

 メラリアが泣き出し、僕へ縋る。

 それすらも茶番だと切って捨てるセディック。

 思わず激昂し、セディックを殴ろうとしたとき、目の前に突き付けられたのは鞘に入ったままの剣だった。

 冷ややかなペリドットの瞳が、真っ直ぐに僕を見る。

 母と同じ、呆れたという風な表情。やめろっ、そんな顔で僕を見るなっ!?

 セディックの護衛だと、僕が騎士学校へ入れたお陰で警護の真似事ができるのだと。僕へと暴力を振るうことも躊躇わないと、その瞳が語る。

 親に剣を向けるなど、許されることじゃ……

 なのに、除籍されたから他人だと?

 そして、『ネイサンへの殺人未遂』を仄めかされ――――

 言い訳も、できなくなった。

 確かに、客観的に見ると、僕達の言動にはネイサンに対する悪意……いや、未必の故意の殺意が疑われても仕方ない言動ばかりで――――

 幾ら母と姉に似たネイサンが嫌いでも、『殺人未遂』だ。言い逃れは、できない。訴えられて裁判になったら、僕達は負ける。

 そうすれば・・・犯罪者となってしまう。

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