554 / 673
番外。エドガー(おとん)視点。9
しおりを挟む特に気にしていなかった。
そんなある日。
セディックの婚約を父と母が勝手に決めたと、メラリアが怒っていた。侯爵邸まで行って文句を言って来たらしい。そして、母に酷いことを言われ、セディックにも迷惑だと言われて送り返されたのだとか。
暫くメラリアを外へ出すなと、僕と使用人達へ命令があった。
貴族家当主が婚約者を決めるのは常識で、僕がメラリアと結婚したことの方が珍しいことなのだが・・・
なんでも、暴力を振るうような乱暴者で婚約解消された令嬢がセディックに宛がわれて可哀想だと思った、だからそんな婚約はやめてほしいと言いに行った、とのこと。
泣きながら、
「セディーが可哀想だわ……そんな評判の悪い人と婚約させられて、お家のために犠牲になるなんて」
そう言っていた。
少し調べてみると、件の令嬢は元々伯爵位を継ぐ為に育てられていたらしい。
娘を当主にと考える程、縁戚関係が酷かったのだとか。だが、近年息子が生まれた為、弟の方へ継承権が移行。
当主になれなくなったので、嫁に出る必要があった。大方、高位貴族で婚約者が決まっていなかったセディックに目を付けたというところだろう。
所詮、女が爵位を継ぐことなどできないんだ。
それに、父が決めた婚約なら仕方ない。
でも、ふと、セディックの婚約者という令嬢はフィオレのような女では……? と、頭を過ぎった。けれど、当主である父の決めたことに、僕が異を唱えることはできない。
もし、セディックの婚約者がフィオレのような男勝りの女だとして。そのままセディックと結婚してしまったら・・・
僕が当主になって、セディックとは離縁させる。
そうしようと決め、
「僕が当主になったら、そんな婚約は解消するから大丈夫だよ」
とメラリアを宥めた。
✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰
メラリアと二人で暮らしていて――――
セディックから連絡があった。用事があるので時間を作ってほしい、と。
そして、セディックはネイサンと二人でうちにやって来た。
久々に見たネイサンは・・・嫌になるくらい、若い頃の母とそっくりだった。
無論、男女の差はあるにせよ、雰囲気や意志の強さが……その顔と、薄黄緑の瞳とに顕れている。見たくなくて、目を逸らす。
セディックが切り出したのは、思いも寄らぬ話。
自分が侯爵位を継ぐには、父と母に可愛がられているネイサンをこの家にいさせるワケにはいかない。なので、ネイサンの除籍を願うとのこと。
なんだ、やはりセディックもネイサンのことが目障りになったのか。この二人は大きくなるにつれ、仲が悪くなったのだろう。
そう思い、除籍届にサインをする。
ネイサンがペンを取り、サインを終えた瞬間、縁が切れたと思わず笑いが込み上げた。
縁が切れた。これでもう、親子じゃない!
ネイサンがどこで野垂れ死のうが、もう僕には関係ない!
「ありがとうございました」
と、微笑むセディック。
ああ、中身はフィオレに似たと思っていたが、やはりセディックもこちら側……
だと、そう思ったのは一瞬。
セディックは冷たく僕達を馬鹿にすると、僕に別の書類を差し出した。
それは、信じられないもの。
なぜ、僕の侯爵家からの除籍届がっ!?
意味がわからない。だって、僕が侯爵家を継ぐんだっ!!
優秀で、男じゃないことを惜しまれたフィオレじゃなくて、この僕がっ!!
だというのに・・・侯爵位を継ぐのは、僕をすっ飛ばしてセディックだとっ!?
セディックのような若造に、侯爵が告げるワケがない!
正当な嫡男は僕だっ!?
なのに、なのに、なのにっ・・・
僕が使えない? そんなことはっ・・・
メラリアがセディックに声を上げる。
返るのは、セディックの蔑んだような冷たい視線と暴言。
メラリアが泣き出し、僕へ縋る。
それすらも茶番だと切って捨てるセディック。
思わず激昂し、セディックを殴ろうとしたとき、目の前に突き付けられたのは鞘に入ったままの剣だった。
冷ややかなペリドットの瞳が、真っ直ぐに僕を見る。
母と同じ、呆れたという風な表情。やめろっ、そんな顔で僕を見るなっ!?
セディックの護衛だと、僕が騎士学校へ入れたお陰で警護の真似事ができるのだと。僕へと暴力を振るうことも躊躇わないと、その瞳が語る。
親に剣を向けるなど、許されることじゃ……
なのに、除籍されたから他人だと?
そして、『ネイサンへの殺人未遂』を仄めかされ――――
言い訳も、できなくなった。
確かに、客観的に見ると、僕達の言動にはネイサンに対する悪意……いや、未必の故意の殺意が疑われても仕方ない言動ばかりで――――
幾ら母と姉に似たネイサンが嫌いでも、『殺人未遂』だ。言い逃れは、できない。訴えられて裁判になったら、僕達は負ける。
そうすれば・・・犯罪者となってしまう。
2
お気に入りに追加
749
あなたにおすすめの小説

なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?
ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。
だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。
これからは好き勝手やらせてもらいますわ。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

妹と寝たんですか?エセ聖女ですよ?~妃の座を奪われかけた令嬢の反撃~
岡暁舟
恋愛
100年に一度の確率で、令嬢に宿るとされる、聖なる魂。これを授かった令嬢は聖女と認定され、無条件で時の皇帝と婚約することになる。そして、その魂を引き当てたのが、この私、エミリー・バレットである。
本来ならば、私が皇帝と婚約することになるのだが、どういうわけだか、偽物の聖女を名乗る不届き者がいるようだ。その名はジューン・バレット。私の妹である。
別にどうしても皇帝と婚約したかったわけではない。でも、妹に裏切られたと思うと、少し癪だった。そして、既に二人は一夜を過ごしてしまったそう!ジューンの笑顔と言ったら……ああ、憎たらしい!
そんなこんなで、いよいよ私に名誉挽回のチャンスが回ってきた。ここで私が聖女であることを証明すれば……。

もう一度あなたと?
キムラましゅろう
恋愛
アデリオール王国魔法省で魔法書士として
働くわたしに、ある日王命が下った。
かつて魅了に囚われ、婚約破棄を言い渡してきた相手、
ワルター=ブライスと再び婚約を結ぶようにと。
「え?もう一度あなたと?」
国王は王太子に巻き込まれる形で魅了に掛けられた者達への
救済措置のつもりだろうけど、はっきり言って迷惑だ。
だって魅了に掛けられなくても、
あの人はわたしになんて興味はなかったもの。
しかもわたしは聞いてしまった。
とりあえずは王命に従って、頃合いを見て再び婚約解消をすればいいと、彼が仲間と話している所を……。
OK、そう言う事ならこちらにも考えがある。
どうせ再びフラれるとわかっているなら、この状況、利用させてもらいましょう。
完全ご都合主義、ノーリアリティ展開で進行します。
生暖かい目で見ていただけると幸いです。
小説家になろうさんの方でも投稿しています。

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

三度目の嘘つき
豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」
「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」
なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

えっ「可愛いだけの無能な妹」って私のことですか?~自業自得で追放されたお姉様が戻ってきました。この人ぜんぜん反省してないんですけど~
村咲
恋愛
ずっと、国のために尽くしてきた。聖女として、王太子の婚約者として、ただ一人でこの国にはびこる瘴気を浄化してきた。
だけど国の人々も婚約者も、私ではなく妹を選んだ。瘴気を浄化する力もない、可愛いだけの無能な妹を。
私がいなくなればこの国は瘴気に覆いつくされ、荒れ果てた不毛の地となるとも知らず。
……と思い込む、国外追放されたお姉様が戻ってきた。
しかも、なにを血迷ったか隣国の皇子なんてものまで引き連れて。
えっ、私が王太子殿下や国の人たちを誘惑した? 嘘でお姉様の悪評を立てた?
いやいや、悪評が立ったのも追放されたのも、全部あなたの自業自得ですからね?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる