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番外。エドガー(おとん)視点。8
しおりを挟むネイサンがうちからいなくなっても、僕の日常はなにも変わらない。元々関わらないようにしていたのだから、それも当然だ。
メラリアの方も、大して変わらない。
いや、ネイサンがいないことでメラリアの怒声が無くなった。機嫌が悪くなることも減った。
セディックに付きっ切りなのは変わらず。
少し変わったことと言えば――――
セディックが、僕達を見る目が冷ややかになったくらいだろうか。
メラリアは気付いていないだろうが、メラリアへの視線に・・・敵意を感じることがある。
それだけセディックが、ネイサンを可愛がっていたということか。
だが、メラリアは気付いていない。頭が悪くて鈍いから仕方ないのかもしれない。
僕へ向ける冷ややかな視線は生意気だとは思うが、僕だって母の言いなりになっていた父を見る目は冷ややかだった。
セディックの、敵意混じりの冷ややかな視線以外は穏やかな日々が続き――――
そのセディックも、成長するにつれ段々体調を崩すことが減り、やがて学園へ通うようになった。寮へ入れるのはメラリアが反対したので、うちから通うことに。
侯爵邸だと、通学時間的に厳しかったかもしれないが、うちの方が学園には近い。通学で疲れているからと言って、セディックはメラリアを遠ざけているようだ。
そんなある日、隣国から僕に手紙が届いた。
『ネイサンをこちらの学校に通わせてもいいだろうか?』と、許可を得る内容の手紙。学費も生活費も、こちらで全て出すから、と。そういう風に書かれていた。
冗談じゃない! あちらで育ったら、ネイサンが益々母のようになってしまう! 顔だけでなく、中身まで似てしまうじゃないかっ!? と。そう、反射的に思った。
そして、即座に返信を返した。『ネイサンを入れる学校はこちらで決めるので、そちらの教育は結構だ』と。一応、ネイサンを育ててもらったことへの礼を書いて。
ネイサンに迎えを出すようにと、預かってもらっていた分の礼金。そして、帰って来てからの教育の手配をさせた。
無論、僕は迎えになど行かない。
それから数日して、うちに帰って来たようだが顔も見ていない。金茶の頭を見掛けても、視界に入れないようにする。
ただ、メラリアが……帰って来たネイサンが以前よりも言うことを聞かなくなったと言っていた。
「ネイトったら、セディーの気持ちも考えないで剣を振って。酷いと思いません? それを注意したわたくしに口答えまでしたんですよ? でも、セディーはそんなイジワルなネイトを庇ってあげたのよ。本当に優しい子よね」
「どうしてネイトはあんな子になってしまったのかしら? やっぱり、お義母様に取り上げられたから仕方ないのかしら? わたくしがネイトのお母様なのに」
不満そうに募る言葉。そしてある日――――
「エドガー様」
メラリアが顔を歪めて言った。
「ネイトが・・・どんどんお義母様に似て来るの。前まで、薄茶だった瞳の色が・・・お義母様と同じペリドットの色に」
泣きそうな、怯えるような表情で。
「どうして? なんで? 前までは、薄い黄緑に見えるのは日に透けたときだけだったのに! ネイトがっ・・・」
子供の頃と、大きくなってから容姿や瞳の色が変わるのはそう珍しいことじゃない。
ネイサンは男のクセに・・・母に瓜二つになって来ている。金茶の髪に薄黄緑の瞳。端正な美貌。その顔はフィオレよりも、母に似ている。その顔が変わることを期待しなかったワケじゃない。
だが、僕の期待も虚しく・・・外見だけでなく中身の方、性格までもが母に似て来ているらしい。
そして、そんなネイサンを見て不安定になるメラリア。
やはり、ネイサンはうちに置いてはおけないか。
僕とフィオレが通った、今はセディックが通っている学園にネイサンも通わせる予定をしていたが・・・そうだな。ネイサンは確か剣を振るのだったか。
なら、その希望を叶えてやろう。全寮制で、卒業までは滅多に生徒を帰省させないという騎士学校の話を聞いたことがある。正当な理由が無いと新年も長期休暇のときにも生徒を外に出さないのだとか。
父にはなにも言わず、ネイサンをその騎士学校へ入れる手配をした。
そして、ネイサンはうちからまたいなくなった。
その後、父と母にまた叱られたが、ネイサンが騎士になりたいだと思ったで通した。
セディックは僕達を憎々しげに見て、学園寮へ入った。
家の中から息子二人がいなくなった。
メラリアと僕の、二人の静かな生活。
メラリアはセディックがいなくなって寂しそうにしているが・・・セディックが生まれる前と同じになっただけだ。直に慣れるだろう。
それから――――ネイサンが騎士学校を卒業したらしい。うちには帰って来なかった。侯爵邸の方へ帰っているようだ。セディックの方も、学園を卒業。
セディックの方も、帰って来ない。
卒業式の案内が届いてなかった、きっと学園側の手違いだとメラリアが文句を言っていたが・・・セディックが、僕達を呼びたくなかったのだろう。
なぜセディックが帰って来ないのかと、メラリアが侯爵邸の方へ手紙を出したようだ。
「将来侯爵を継ぐために、お義父様のところでお勉強するのですって。もう、偶には顔を出してもいいのに。セディーもこういうところは気が利かないわ。やっぱり男の子なのね」
返信を読みながら溜め息を吐く。
それから、セディックが父の手伝いを始めたせいか、僕の方の仕事が少し減った気がする。
セディックは偶に帰って来て、使用人達と話をしてまた侯爵邸に帰って行く。父からなにか言い付けられているのだろう。
特に気にしていなかった。
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