虚弱な兄と比べて蔑ろにして来たクセに、親面してももう遅い

月白ヤトヒコ

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番外。エドガー(おとん)視点。2

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 上位クラス内でも上位の席次を保ち、乗馬クラブに入って馬を乗り回す姉。

 姉の入学当初、乗馬クラブに女子生徒が入ることは難色を示されたという。しかし、侯爵令嬢という肩書と勝気で社交的な性格とで、乗馬をしたいという高位貴族令嬢を募り、学園側と交渉して女子生徒の入部を認めさせたという。

 女子乗馬クラブを作ってはどうかという話も出たそうだが、馬場をもう一つ作る余裕は学園側にもないとのことで、その話は見送られたのだとか。

 その件以降、姉は学園内で益々女子生徒達に憧れられるようになった。

 僕は努力しても、上位クラスの真ん中より下くらいで高位貴族としてはギリギリの成績。運動も並み。

 顔は……父似で、自分ではそんなに悪くないとは思っているが。際立った美貌(の見た目を裏切るじゃじゃ馬さ)だと称えられる母と、母よりは劣ると称されるが美しい容姿の彼女達と並ぶと、凡庸以下に見えるらしい。

 姉に憧れ、擦り寄る為に僕に近付こうとする女。

 母に憧れ、僕に娘を宛がおうとする貴族夫人達。それ故、僕に媚びを売る女達。

 実際の僕を見て、落胆した顔。馬鹿にする顔。嘲笑う顔。そんな顔を一瞬見せた後の……または、そんな顔が透けて見える薄っぺらい媚び。

 母に、姉に扱き下ろされ、不満顔で僕へ文句を言いに来る男達。

 僕は、そんな人間関係に心底うんざりしていた。

 そうやって鬱屈していた僕に――――

 僕をエドガー・ハウウェルだと知らない……いや、フィオレ・ハウウェル、そしてネヴィラ・ハウウェルの名前すら知らないで話し掛けて来た、馬鹿な女子生徒が現れた。

 二年のとき、新入生として入学して来たその女は子爵の娘。

 余程頭が悪いのか、中間テストの後に職員室の近くで教師に苦言を呈されていた。

 なんでも、宿題は完璧なのに授業で当てられたりテストで答えられないのはどういうことか? という風なことを聞かれていた。

「宿題はおうちで、お兄様やお姉様が教えてくれてるんです」

 と、にこにこと答えていた。

 ああ、宿題を兄弟にさせているのか、とそう思って通り過ぎようとした。

 すると、教師の苦言は終わったようで、

「女の子はあまり賢くなくていいって、可愛ければそれでいいって。お父様もお兄様達も言っていたんだもの」

 不満げな小さな呟きがいやに耳に残った。

 それから、なんとなくその馬鹿な女子生徒を目で追うようになった。

 ある日の図書館。

「困ったわ」

 と、やる気のなさそうな態度でプリントを広げていた馬鹿な後輩がいた。そして、目が合った。その瞬間、にこりとした笑顔。

「先輩、ですよね? 宜しければわたくしに教えてくださいませんか? 問題が難しくって」

 物怖じしない態度でそう言われた。

「なぜ僕に? こういうのは、女子生徒ならフィオレの方へ行けばいい」

 顔を顰めた僕に返るのは、きょとんとした表情。

「フィオレ様、というのはどなたのことでしょうか?」
「え? 君は・・・フィオレを、フィオレ・ハウウェルを知らない、のか?」
「えっと、フィオレ様というのは有名な方……なのでしょうか?」

 思わず絶句した。僕に近付くのは、姉や母目当てか、または二人にやり込められたと文句を付けて来る輩ばかりだったから。

 まさか、この学園にフィオレ・ハウウェルのことを知らない生徒がいるとは思わなかった。

「……ああ、いや……」
「? 先輩?」
「……その、なんで僕なんだ?」
「頭が良さそうだと思ったからですわ。先輩は上位クラスの方でしょう?」
「あ、ああ、そうだが……でも、普通は男子ではなく、女子生徒に頼むのでは?」
「そうかもしれませんが、近くにはいませんもの。上位クラスの女子生徒が。それに、わたくしにはお兄様がいて、いつもお勉強はお兄様達に教わっていますの。なので、わたくしに教えてくださいな」

 にこりと、断られるとは微塵も思っていなさそうな笑顔。

 結局、押し切られる形で彼女に勉強を教えることになってしまったが・・・

 ハッキリ言って、彼女は馬鹿だった。

 普通クラスの問題が難しいと言って、ペンは握りはするが自分から書こうとしない。教えてほしいと言って、僕が答えを言うのをにこにこと待っている。

 確かに、この姿勢では教師も苦言を呈したくもなるだろう。そう思った。

「助かりました。先輩は頭がいいですね。ありがとうございました」

 と、名乗りもしないで彼女は帰って行った。

 それが、僕とメラリアとの出逢い。

__________


 一応、エドガー(おとん)はメラリア(おかん)の頭が悪いというのは、わかっています。(笑)

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