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しおりを挟む「お、お前は狂ってるっ!?」
思わず込み上げて来る笑い。
「ふふっ、あはははっ!」
「なにがおかしいっ!?」
「いやですねぇ。他ならぬあなたが、それを言いますか? あなた達みたいに性根の腐った馬鹿共と長らく暮らしていたこの僕が、まともに育つとでも? あなた達のその、愚かな言動を見て? そんな筈、ないじゃないですか」
僕はネイトと引き離されたけど・・・ネイトは両親と離れたお陰で、僕みたいに歪まず、真っ直ぐな優しい子に育った。
「もし、僕が多少はまともに見えるのだとしたら、それはネイトやお祖父様とおばあ様のお陰ですよ。今でも……後腐れなく処理したい気持ちはありますけど。僕はネイトや婚約者、その弟に顔向けできなくなるようなことは、あまりしたくないので」
ハッキリとは明言しない言葉の含みを理解したのか、理解できないものを見るような、恐怖に満ちた視線が向けられる。そして、みるみる失せて行く顔色。
僕からすると、この二人の方が全く理解できないんだけどなぁ?
まあ、そう怯えなくても・・・ネイトにケイトさん、リヒャルト君が悲しむようなことはしない。なるべくなら、ではあるけど。
「でも……必要に迫られたら、仕方ないですよね?」
僕が、幼少期に変なことを考えても実行しなかったのは偏に、ネイトがいたからということに尽きる。多分、考えていたことを実行していても、お祖父様が揉み消してくれたかもしれないけど。
それでも踏み留まったのは・・・小さい頃のネイトは、コイツらから冷たくされて、悲しんでいたから。
こんな人達でも、仮にも血縁。いなくなると、ネイトが悲しむと思ったから。だから、やめた。
「では、さようなら。もう二度と会うことは……ああ、いえ。どちらかとは、あと一度だけ会うことになるかもしれませんねぇ」
「セディー? お母様に会いに来てくれるの?」
今までの話を理解していないのか、なにも聞いていなかったような、なにかを期待するようなブラウンの瞳が向けられる。まぁ、理解していないのだろう。
「埋葬くらいはしてあげますので。どちらかが亡くなったときに、片方が生きていれば顔を合わせることもあるでしょうね。二人一編に死んでくれれば手間は省けるんですけどね? では、失礼します。呉々も、ネイトに視界に入らないように。これからは、お祖父様と僕の手を煩わせるようなことはしないでくださいね?」
と、使用人達に人員整理の通達をして、ハウウェル子爵邸を後にした。
「セディック様」
見送りにと付いて来た執事が、伺うように口を開く。
「なに?」
「わたくしに、エドガー坊ちゃまのお世話をさせてください。坊ちゃまがああなってしまったのは、わたくし共がお諫めできなかったからです。故に、どうか償わせてください。お願い致します」
白髪の増えた頭が深く下げられる。
「・・・いいよ。他にも希望者がいるなら、そのままあの二人の世話をすればいい。但し、この家には馬と馬車などの移動手段は置かない。人数分の食料と医者は定期的に手配してあげるけど。あの二人に、外部との接触は一切させないこと。これが条件だ」
「ありがとうございます」
もう、この家に用は無い。
「宜しいのですか? セディック様」
複雑そうな顔をしたライアンが尋ねる。
「まぁ、本人達がいいって言うなら、いいんじゃない? 監視を置く手間が省けるし」
自分から閉じ籠るのと、他人から閉じ籠められること。自分で外部と接触しないのと、外部からの接触を絶たれることでは、随分と違う。
好奇心は猫を殺すという言葉があるけど、退屈は文字通りに人を殺す。外部からの刺激が無いと、人間は衰退して行く。
やることがなにも無いと、人間は通常よりも早く老いるのだという。そして、若くとも早く惚ける。最終的には――――早く死ぬ、のだそうだ。
もしかしたら、あの二人はお祖父様とおばあ様よりも早くに死ぬことになるかもしれない。
まぁ、どうでもいいことだけど。
「それより・・・僕が怖い? ライアン」
「そう、ですね……正直に言えば、少しだけ。ですが、セディック様は高位貴族ですからね。見た目を裏切るその苛烈さと強かさも、むしろ頼もしいと言えるのでは?」
「そっか……ああ、言い忘れてたけど。さっきのこと、ネイトには内緒にしてね?」
「はい」
「ふふっ、ライアンはいい子だねぇ」
馬車と馬を全て侯爵家本邸へ移動させるように手配して、ネイトの待つ馬車へ向かった。
__________
なんだか、セディーのヤンデレホラー劇場っぽくなりましたが、両親への微ざまぁでした。
ヤトヒコ的には『微ざまぁ』のつもりですが……どうでしょうかね?
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