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 前回の続きですが、視点変更。

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 結局、犯罪者になる度胸はないようでエドガー・ハウウェルはハウウェル侯爵家からの除籍届にサインを書いた。

 そもそも、除籍などは貴族家当主の独断でできる。わざわざ本人の同意なんて必要無い。

 まあ、元貴族で平民に落ちた犯罪者だなんて、底辺もいいところ。貴族、平民どちらからも蔑まれ、疎まれる。

 プライドだけは無駄に高いこの男が、そんな暮らしができる筈はない。

 ある意味強制とは言え、自分で選ばせてやったんだ。文句など言わせない。

 我ながら性格が悪いとは思うけど・・・

「ネイト。先に馬車に戻っててくれる?」
「え? でも、セディー」

 心配そうな顔で、項垂れている両親を見やるネイト。

「大丈夫。ライアンもいるし。最期にちょっと話をするだけ。すぐに戻るから。それに、ね?」

 ぽんと懐を叩くと、

「わかった。あんまり無理しないでね?」

 渋々という顔で頷いたネイトが部屋を出て行く。

 ここから先はあんまり、ネイトには見せたくない。

 まぁ、ネイトへの殺人未遂を口にすることだって、かなり嫌だったんだけど。本当に、この人達は手を煩わせてくれる。

「では、選んでください。ハウウェル家とは無関係な他人として市井で暮らして行くか、このままこの家で終生暮らして行くかを」

 項垂れていた顔に、希望が宿る。

「ああ、やっぱりセディーは優しいのね」

 にこりと安心したように微笑む母。

「そうよね。家族だものね」
「ええ。この家を選ぶなら、二人だけで暮らしてくださいね」
「え?」
「ほら、下手に市井に下りて、ネイトの目に触れることになったら目障りじゃないですか。僕はもう、ネイトの視界にあなた達を二度と入れたくない。それくらいだったら、この家に暮らすことくらいは許してあげようと思いまして」
「セディックっ!?」
「五月蠅いですね、まだ話の途中ですよ? ああ、言い忘れていましたが、僕は護身用に銃を携帯しています。そんな怖い顔で近付かれると、思わず撃ってしまうかもしれませんね」

 にっこりと微笑むとざっと下がる男。

「っ!?」

 どうにかしろ、という風に執事へ視線を向けるが、執事は首を振る。

「セディック様の仰る通りに」

 ちなみに、この家の刃物や武器になりそうな品物は、使用人によって厳重に管理されている。馬鹿共が変なことを考えないように、とのお祖父様の命令で。

「それで、あなた達はどうしますか? 早く選んでください」
「セディー……どうしてこんなことをするの?」
「どうするのか聞いているんです。ネイトを待たせているって言ったじゃないですか。それとも、今すぐこの家から追い出してもいいんですよ? もう、他人なんですから」

 そう言うと、母は泣き崩れた。

 相変わらず・・・本当に、なにも変わらない。目障り極まりない。


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 ネイサン視点で書くか迷って、セディー視点になりました。緊迫してます。

 そして、宣伝です。短編、『「面白れー女」→ヒロイン辛酸フラグを叩き折らせて頂きます!』が完結しました。

 タイトル通り、ヒロインちゃんを「面白れー女」呼ばわりする厄介俺様男とのフラグをへし折る話。主人公の口が悪いです。(笑)

 ネイサンやケイトさんが絡んで来た輩をやり込める様子が好きな方、俺様男が嫌いという方は楽しめるかと思います。

 『月白ヤトヒコ』の作品リンクから飛べるので、興味のある方は覗いてやってください。(^∇^)


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