虚弱な兄と比べて蔑ろにして来たクセに、親面してももう遅い

月白ヤトヒコ

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「そうですね。ありがとうございました」

 にっこりとセディーが晴れやかに微笑む。

「僕は、必要無いって言ったんですけどね」
「セディー? なにが必要無いの?」

 ふぅ、と溜め息混じりの呟きに、きょとんとした問い掛け。

「あなた達に権限なんて無いんだから。ネイトの除籍願いも国に提出すれば済むので、わざわざあなた達の同意は要らないって、僕は言ったんですけどね。それでもお祖父様とおばあ様は、あなた達に肉親の情というものを期待していたみたいなんですよ」
「え?」
「そんなの、期待するだけ無駄なのに」
「セディー? なにを言ってるの?」
「仮定の話ですよ。もし、あなた達がネイトの除籍に同意しなければ、あなた達の処遇を少しは考えると言っていたんですけどねぇ?」

 緩く弧を描き、酷薄な笑みを浮かべる唇。

「処遇だと? どういう意味だ?」
「そのままの意味です。では、続けてこちらの書類にもサインをお願いします。ライアン」
「はい」

 と、先程の書類とは別の書類を父へ差し出すライアンさん。

「なんだこれはっ!?」

 さっと書類に目を走らせた父が激昂。

「見ての通り、エドガー・ハウウェル。あなたの除籍届です。サインを」
「どういうことだセディックっ!!」
五月蠅うるさいですね、大声を出さないでくださいよ」
「侯爵を継ぐのは僕だっ!? それを、今更除籍っ? あり得ないだろっ!!」
「さっきの話を聞いてなかったんですか? ハウウェル侯爵を、お祖父様から継ぐのは僕ですよ。あなたをすっ飛ばして、ね」
「は? なにを言ってるっ!? 父上がそんなこと許す筈が」
「馬鹿ですか。それこそ今更だ。子爵夫人としての務めも果たさず、子供の育児放棄をして、社交どころか醜聞を提供する女を野放しにして、本家当主夫妻へと迷惑を掛けて、尻拭いをさせて、あまつさえその状況を楽しむような性根の腐った男が、侯爵になれるとでも? 侯爵位というのは、それ程甘くないんですよ」
「お、お前みたいな若造に侯爵が務まる筈」
「あなたより、僕の方がずっとマシですよ。碌に社交もせず、嫁の手綱も握れない軟弱者。これなら、本当に伯母様が嫡子としてハウウェル家に残るべきでした」
「う、煩いっ!? 僕とあの女を比べるなっ!? それに、女なんかが当主になれるワケないだろっ!!」
「なれますよ。我が国は、女性にも爵位の継承権が認められていますからね」
「せ、正当な嫡男は僕だっ!!」
「あなたが使えないから、僕が当主になるんですよ」
「セディー? どうしてそんな酷いことを言うの? お父様にそんな意地悪なことを言わないで?」
「本当に、頭が悪い人ですね。なにも判っていないなら、大人しく黙っていてください。それくらいなら、あなたにもできるでしょ」
「セディーっ!? なんでそんなこと言うのっ? あなたは優しい子でしょっ!? お義父様とお義母様なの? お義父様とお義母様が、セディーにそう言えって命令したのねっ? セディーが逆らえないからって、なんて酷いことをさせるのっ!! 大丈夫よ、セディー。お父様とお母様があなたを守ってあげるから、そんな酷い命令なんて聞かなくていいの、ね? そうでしょ? エドガー様」

 甲高い声に涙が混じり、父へと泣き付く母。

「いい加減にしてください。僕はあなたの、そうやって他人に責任転嫁して悲劇のヒロイン振るところがずっと嫌いだった。気持ち悪いんですよ。あなた、一体幾つなんですか? 幼児なら兎も角、中年になっても泣き喚けば周りが言うことを聞いてくれると思っているその思考も、全く理解できない。見苦しい」
「っ!?」
「セディックっ!? メラリアになんてことを言うんだっ!!」
「率直な事実ですが? あなたも、そうやって得意げにヒロインを庇うヒーロー面が気持ち悪いんですよ。演劇がしたいのでしたら、さっさと除籍届にサインをして舞台俳優にでもなったらどうです?」
「セディックぅっ!!!!」

 と、顔を真っ赤にさせた父がセディーに掴み掛かろうとしたので、すっと剣を突き付ける。

「ネイトっ!?」

 耳障りな甲高い悲鳴。

「っ!? なんの真似だネイサンっ!?」
「セディーの護衛ですが?」
「親にこんなことをしていいと思っているのかっ!?」
「ついさっき、あなたに除籍されましたからね。わたし達はもう他人です」

 まぁ、厳密には除籍届の書類審査が通ってから、他人になるんだけど。あと、剣は一応まだ鞘からは抜いてないし。

「もうこんなことやめてちょうだいっ!? お願いだからっ!? あなた達は優しい子でしょっ!! お父様に謝ってっ!! 今ならまだ許してあげるから!」
「……話にならない。いい加減、黙れ」

 冷えた低い声と、底光りするブラウンが母へ向けられる。

「!」
「あなた達に選択権があるとでも? 本当は、ここまではしたくなかったんですが・・・訴えてもいいんですよ? あなた達二人を。殺人未遂で」
「は?」

__________


 腐ったお花畑が爛漫中。(笑)

 そして、宣伝です。短編、『「面白れー女」→ヒロイン辛酸フラグを叩き折らせて頂きます!』を投稿しました。

 タイトル通り、ヒロインちゃんを「面白れー女」呼ばわりする厄介俺様男とのフラグをへし折る話。主人公の口が悪いです。(笑)

 『月白ヤトヒコ』の作品リンクから飛べるので、興味のある方は覗いてやってください。(^∇^)

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