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しおりを挟むわたしの剣は綺麗じゃないというか・・・ぶっちゃけ、かなり泥臭いんですが。
なんというか・・・
「リヒャルトに剣の稽古をつけて頂けないでしょうか?」
と、ケイトさんに頼まれてしまいました。
「その、ケイトさん。お恥ずかしながら・・・わたしの剣は実戦的で、正道ではないのです。なので、リヒャルト君に教えるのは、わたしは向いてないと思います」
最初はそう言ってやんわりと断ろうとした。
騎士学校ではわたしの戦い方を知っている普通の奴らに嫌がられるくらいには、わたしの剣は嫌らしいと評判だった。一部……というには少なくないけど、レザンみたいな脳筋やら強さを追い求める、仕合、打ち合いなどが大好きな、頭のネジがちょっと外れ気味な連中以外には、敬遠されていたからなぁ。
「失礼だとは思いますが、幼少期からお綺麗でいらしたネイサン様がご自分の身を守って来た方法を、リヒャルトへ教えて頂きたいのです。わたしが剣を教えることも考えたのですが、リヒャルトは男の子です。やはり、殿方と女性では身体の使い方や戦い方、身の守り方も異なりますので。それに、わたしも自分の剣が綺麗だとは思っていません。殿方相手に油断や隙を誘う戦い方や、女が相手だという侮りを利用したりもします。剣を使うと見せ掛けて、鞭や銃を本命の武器として使うこともよくあります。正道の剣をリヒャルトに教えたいのであれば、そういう方を教師として招きます。それを踏まえた上で、考えて頂けないでしょうか?」
怪我についても、骨折まで行くような大怪我はさせないこと。但し、打ち身、捻挫、擦り傷、掠り傷、多少の切り傷などは許容するとのこと。父君であるセルビア伯爵にもその許可は既に取っている、と。
リヒャルト君を大事に大事にしているケイトさんにそうまで言われてしまったら、断り難い。
「わかりました」
と、引き受けることにしました。
そして、今日。リヒャルト君に剣を教えるというワケですが。
庭に出て――――
「ネイトにいさま、けんのしゅぎょう、なにをするんですかっ?」
きらきらした期待に満ちた顔でわたしを見上げるリヒャルト君の顔に、早速気が引けてます。
「そうですねぇ・・・まずは、わたしとお話しましょうか?」
「? おはなし、ですか?」
「はい。まずは確認です」
庭の木陰に座り、話をすることにしました。
「リヒャルト君は、剣を習いたいと思っていますか? ケイトさんに言われたから、お父上に言われたから、それで習おうと思ったというのでしたら、それなりの剣を教えようと思います」
「? それなり、ですか?」
「はい。剣に限らず、自分でやろうと思ったことでないと続きませんからね。リヒャルト君は、どうして剣を習おうと思いましたか?」
「えっと、ぼくは……ねえさまをまもりたいです! ネイトにいさまは、どうしてけんをならおうとおもいましたか?」
「……そうですねぇ、わたしの場合は……」
まず、自分の身を守ろうと思ったことがきっかけだ。
そして、いつもわたしと一緒にいて、わたしの世話をしてくれた……あのとき、一緒に置き去りにされた乳母の命まで危険だったと聞いて、男であるわたしが守らなきゃ、と思った。
それにセディーも、あの頃は身体が強くなかったから守りたいと思った。
クロシェン家でお世話になって、ロイと一緒に剣を習って、わたし達の後ろをひよこみたいに付いて歩く可愛い女の子を守ろうと思った。
それで、ロイと競うように打ち合いをして――――
こっちに戻って来て、騎士学校に入れられて――――
なんか、必死なって自分の身を守っていた。
まあ、あれだ。
「自分の身を守りたい、と思ったことがきっかけですね」
「じぶんのみ?」
「ええ。小さい頃、遠出したときに手違いで出掛け先に置き去りにされたことがありまして。そのときは乳母と一緒だったのですが、二人で夜道を歩くのはちょっと怖かったですねぇ。悪い人に攫われたらどうしようって考えて、それで強くなろうと思いました」
「ネイトにいさま、だいじょうぶでしたかっ!?」
「ええ。歩いている途中で、お迎えが来ましたからね」
「そうですか……よかったです」
あの両親なら、花畑置き去り事件がまた起こりかねないと思ったし。
まぁ、そう思ったのはお祖父様とおばあ様も一緒で、その後すぐに隣国のクロシェン家に預けられたワケだけど。
やっぱり、小さい頃の出来事ってそう簡単には忘れられないよねぇ……
夜盗や賊に襲われても、自衛できるように自分を鍛えたし。国内なら、どこに置き去りにされても戻って来れるよう、地理も勉強した。今では、この辺りの周辺国なら地力で国に帰って来れるという自負もある。
リヒャルト君にそこまでは求めないけど。
「では、ケイトさんを守りたいという気持ちを忘れないでくださいね?」
「はい!」
「いい返事ですね」
と、リヒャルト君の気持ちを確認して、リヒャルト君の体格に合う木剣を選んだ。
さて、なにから教えようか・・・
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