虚弱な兄と比べて蔑ろにして来たクセに、親面してももう遅い

月白ヤトヒコ

文字の大きさ
上 下
522 / 673

455

しおりを挟む


 それから、あれよあれよという間に『ケイト様謝恩会』の予定が決まり――――

「どうせなら、セディック様もご参加頂けないでしょうか?」

 と、レイラ嬢が言い出して、

「まあ! ケイト様の婚約者様にご参加頂けるのですかっ!?」
「ハウウェル先輩、セディック様に聞いてみてくれますか?」

 きらきらした瞳をわたしへ向ける一年生三人。

「一応、聞いてみるだけは」

 多分、セディーは断らないだろうなぁ……と思って、手紙を出した。

 セディーの返事はOK。

 そして、折角せっかくだからとケイトさんへドレスを用意することになったそうです。まぁ、あれだ。例の如く、おばあ様が張り切っているそうです。

 という旨を伝えると、キャーキャーと黄色い悲鳴が・・・

「ケイト様の婚約者様でハウウェル様のお兄様がご参加ですって! きっと、見目麗しくて文武両道、完璧な美男美女のカップルに違いありませんわっ!!」
「・・・セディック様は、ハウウェル様程には見目麗しくはありませんことよ?」

 レイラ嬢の落ち着いたツッコミ。

「え?」
「お顔立ちは整っている部類ではありますけど、ハウウェル様よりは地味な色味ですし」
「セディック様は、栗色の髪にブラウンの瞳だもんね~」

 にこにこと同意するエリオット。

「ええ。それに、どちらかと言うと運動は苦手な方ではないかしら?」
「あ、でもでも、成績は優秀だって聞いたよ? 今、三年生で主席をキープしている方や、十番以内に入っている方々は、セディック様にお勉強を教わってたって聞いたし」
「まあ、セディック様は本当に教え上手ですのね」
「え? あの、それじゃあ、ケイト様はどうして婚約を?」
「ミシェイラ、あなたなにげに失礼ね?」
「まあ、アンダーソン嬢はほぼ初対面のハウウェル先輩に喧嘩を吹っ掛けるような人ですもんね~。人前で喧嘩を売る辺り、レイラちゃんよりも度胸があると思うよ」
「ぅっ……」
「な、なにげに抉りますわね、フィールズ様……」
「エリオットは、昔からこうですわ」
「ふぇ? えっと、ケイト様がセディック様を選ばれたのは、セディック様がすっごく優しいからだと思いますよ? そうですよねっ、ハウウェル先輩!」
「っ!! そ、そう言えばハウウェル様がここに・・・」

 サッと一瞬で顔を青ざめさせながら、わたしの方へ振り返る乗馬クラブ次期副部長こと、ミシェイラ・アンダーソン嬢。

「も、申し訳ございませんハウウェル様っ!!」

 なんというか、この子もこの子で周りが見えなくなる子だよなぁと思う。

 大丈夫だろうか? 来年度は二年生だ。

「やー、ウケるわ~」

 と、話を聞いていたテッドがケラケラ笑う。

「ま、おにーさんは確かにハウウェルより綺麗な顔してないし、運動は苦手っぽいわなー。んで、肝心の婚約した理由だっけ? それはあれだ。部長とハウウェルのおにーさんは、ブラコンが意気投合しての婚約だ! な、ハウウェル」
「へっ?」
「まあ、なんだかすっごく面白い理由ですのね!」
「ケイト様もセディック様も、弟さんのことがとっても大好きですからね~」

 ぎょっとするアンダーソン嬢に対し、ワクワク顔とにこにこ顔のレイラ嬢とエリオット。

「まぁ・・・間違ってはいない、かな?」
「そ、そんな、それが、ケイト様が婚約した理由……? だ、だって、ケイト様は、伯爵家を継ぐために努力していらして、それなのに弟君が生まれたからと後継から外されて、前の婚約も解消されて、おつらい思いをされて、それを婚約者様に慰められて……愛が芽生えたなんて理由ではありませんのっ!?」
「おー、なんつー勘違い。どこの恋愛小説だ? んなんより、実際の理由のが面白くて笑えんぞー? な、ハウウェル」
「それもそれでどうかと思うけどね? まあ、いいけど。そうですねぇ・・・まず、ケイトさんは弟さんを溺愛しています。ぶっちゃけ、わたしの兄よりも弟さんの方が優先順位が高いと思いますよ?」

 ケイトさんは、筋金入りのブラコン。

「え?」
「まあ! 薄々そうなのかもしれないとは疑っていましたが、ケイト様は本当にリヒャルト君優先でしたのねっ!?」
「ええっ!?」
「それで、そんなリヒャルト君ラブなケイト様がどうしてセディック様と婚約を致しましたのっ!?」
「ケイトさんとの初対面のときに、『おめでとうございます』ってセディーがお祝いしたのがきっかけだって言っていましたよ」
「? それは普通のお祝いでは? それに、なんのお祝いですの?」
「リヒャルト君が生まれたとき。ケイトさんが家督を継ぐ道は無くなったと、嘲るようなお祝いや、同情するようなお祝いの言葉は沢山頂いていたようです。それこそ、セディーのなにげない、純粋にリヒャルト君の誕生を祝う一言を嬉しく思うくらいに、ケイトさんは心無い言葉を掛けられていたのではないか、と。セディーはそう言っていましたね」
「っ!?」
「なんですのそれはっ!?」
「ひ、酷いです! それで、ケイト様は……?」
「ケイトさん曰く、リヒャルト君を蔑ろにする男は願い下げらしいよ。それで、今はリヒャルト君を可愛がっているでしょ? セディーと一緒に」
「ハッ! だから、ケイト様とセディック様とリヒャルト君は、あんな親子みたいに仲睦まじい様子でしたのね!」
「・・・ケイト様が、そんなに苦しんでいただなんて」
「まあ、ケイトさんは貴族家当主として、他人に弱みを見せないようにという教育を受けて来た方ですからね。知らなくても無理はありませんよ。理想の押し付けというのは、押し付けられている方を苦しめることもありますからね」
「・・・」

 泣きそうな顔で黙ってしまうアンダーソン嬢。

「ま、今はおにーさんって言う、弟さんをめっちゃ可愛がってくれる上、侯爵予定な婚約者がいることだし、部長もハッピーなんじゃね?」
「そうですわね! 軽薄先輩もいいことを言いますわね!」
「へ? 軽薄先輩って、俺のこと?」
「もう、レイラちゃん失礼なこと言わないの。確かにメルン先輩は軽薄なところもあるけど、これでも先輩なんだからねっ」
「くっ……相変わらず、なかなかなことをっ……」

 と、わちゃわちゃしながら、『ケイト様謝恩会』の企画を詰めて行く。

 ちなみに、レザンはこういうことに一切役に立たないので、許可を出す置物となっている。


__________


 後輩ちゃんはミシェイラ・アンダーソンに名前決定。ミシェイラちゃんです。

しおりを挟む
感想 175

あなたにおすすめの小説

【短編】復讐すればいいのに〜婚約破棄のその後のお話〜

真辺わ人
恋愛
平民の女性との間に真実の愛を見つけた王太子は、公爵令嬢に婚約破棄を告げる。 しかし、公爵家と国王の不興を買い、彼は廃太子とされてしまった。 これはその後の彼(元王太子)と彼女(平民少女)のお話です。 数年後に彼女が語る真実とは……? 前中後編の三部構成です。 ❇︎ざまぁはありません。 ❇︎設定は緩いですので、頭のネジを緩めながらお読みください。

この声は届かない

豆狸
恋愛
虐げられていた侯爵令嬢は、婚約者である王太子のことが感知できなくなってしまった。 なろう様でも公開中です。 ※1/11タイトルから『。』を外しました。

これは一周目です。二周目はありません。

基本二度寝
恋愛
壇上から王太子と側近子息達、伯爵令嬢がこちらを見下した。 もう必要ないのにイベントは達成したいようだった。 そこまでストーリーに沿わなくてももう結果は出ているのに。

婚約破棄を申し込まれたので、ちょっと仕返ししてみることにしました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約破棄を申し込まれた令嬢・サトレア。  しかし、その理由とその時の婚約者の物言いに腹が立ったので、ちょっと仕返ししてみることにした。

三度目の嘘つき

豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」 「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」 なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~

矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。 隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。 周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。 ※設定はゆるいです。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

処理中です...