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「もう一人の副部長については、相手の方へ打診してみます」
「あ、質問いいですか?」
「ええ、どうぞ」
「もう一人の副部長がフィールズっだったりはしませんかー?」
「単純な乗馬技術で選ぶのでしたら、それもいいかもしれませんが・・・」
「まぁ、女子生徒と接するのが苦手・・・というか、未だに逃げ回っているようなエリオットに副部長は無理でしょ」
「あー、そっか、忘れてたわ」
「えっと、わたしの意見を言ってもいいですか?」
「ええ。なんでしょうか?」
「今年は、ケイトさんが初の女子生徒で部長を務めたのですから、次の副部長には女子生徒を入れた方がいいと思うのですが」

 三年生が次の部長を指名するのは、大体が副部長をしていた人から。つまり、二年で副部長に選ばれた人は、部長候補でもあるということ。

「ふふっ、乗馬クラブのことを考えてくださって嬉しく思いますが、それは相手の意向もあるので、強制ではありませんからね」

 にこりと微笑むケイトさん。

「そうですね。すみません」
「では、わたしはこれで」

 と、そんな話をした数日後。

「クロフト様、ネイサン様。この方が次の副部長です」

 そうケイトさんに紹介されたのは、今年度始め。ケイトさんへ勝負というか喧嘩を吹っ掛けて来た男子の先輩と十時間耐久レースをした、その勝負の大本の原因。副部長だと紹介されたときにわたしへ突っ掛かって来た後輩の女子生徒でした。

 どうやら彼女は、ケイトさんの婚約者を『ハウウェル先輩』だと聞いていて、わたしと婚約したのだと勘違いをして、副部長就任を身内贔屓だと思った模様。

 まぁ、件のレースで先輩を負かした後、最初に勝負を吹っ掛けて来た彼女と話してケイトさんはセディーの婚約者だと誤解を解いて、「日を改めて勝負をしますか?」と聞いたところ、それ以来絡まれなくなった……というか、遠巻きにされていた覚えがあるんだけど。

 一応、乗馬系の勝負を年上の男子に吹っ掛けるくらいだから、それなりに乗馬は上手い。性格も勝気で、あまり物怖じしないタイプ。

 副部長としては、そう悪くないだろう。

 ただ、部長となるにはケイトさんのように上手く立ち回れそうにはない、かな? これからの成長に期待と言ったところか。

 わたしは嫌われているだろうけど、間にレザンを挟めばやり取りはできる。まぁ、わたしが副部長なのは承知の上で副部長を引き受けていると思うから、必要最低限のやり取りはしてくれる筈だし・・・最悪、彼女との会話は全部レザンに任せるという手もある。

「その節は大変失礼を致しました。副部長に相応しくあれるよう精進しますので、宜しくお願い致します。ハウウェル様、クロフト様」

 と、瞳をきらきらさせてレザンと……わたしを見上げる彼女。

「?」

 確か、わたしは彼女に嫌われていた覚えがあるんだけど? それが、なぜこうもきらきらした視線を向けられることに?

「うむ。宜しく頼む」
「えっと、よろしくお願いします?」
「はい!」

 戸惑っている間に、上機嫌な笑顔で彼女は去ってしまった。

 どういうこと?

「問題は無さそうですね」

 安堵したようにふわりと微笑むケイトさん。

「では、近々お披露目をしましょう」
「了解しました」

 頷くレザンに、ケイトさんも行ってしまった。

「よう、どしたよ? 変な顔してさー」

 と、寄って来たのはテッド。

「変って、失礼な」
「んじゃ、どしたよ? 美女顔が曇ってんぞ」
「喧嘩なら安く買ってあげるよ? 丁度、外に出る手間もないし」
「いやいやいや、ちょっ、相変わらず喧嘩っ早いな! で、なんなん?」
「や、なにって言うか……新しい副部長予定の子を紹介されたんだけど……」
「おう、そんで?」
「前に、わたしに突っ掛かって来た後輩の女子生徒がいたでしょ? 十時間耐久レースをやる流れを作ったあの子……わたしのこと嫌ってたんじゃないの? って思って」
「ん~……あ~、あれか。ま、遠巻きにされてたハウウェルは知らねーだろうけどさ。実はお前、かなり部長のこと庇ってたじゃん」
「? 庇って、というか、喧嘩を代わりに買ったって感じじゃない?」

 セディーの婚約者で、行く行くは身内になってくれるケイトさんのことを、義弟として味方するのは当然のことだ。

「おう、それな。その、喧嘩代わりに買ってってやつ? で、ハウウェルは部長のファンの人達からの好感度爆上がりなワケよ」
「はい?」
「ま、元々美女同士な見た目でお似合いって意見もあって好意的な人達もいたけど、ほら? 部長に当たり強い……アホ共の鼻っ柱折ってんの見て、スカッとした女の子達も多いんだってさ。だから、ハウウェルなら部長の隣にいてもOKみたいな?」
「や、ケイトさんの婚約者はセディーなんだけど……」
「その辺りはなー、おにーさんもう卒業しちゃってるから」
「・・・よくわからないけど、ケイトさんに親切? にしていたわたしの好感度が上がっている、ということでいいの?」
「いいんじゃね? つか、あの子かー。そっかそっか、あんま怖がらせんなよー」
「うむ。留意しよう」

 まぁ、向こうからなにかをして来ない限り、わたしの方からなにかをするつもりは無い。そのスタンスは変わってないんだけどね?

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