513 / 673
446
しおりを挟む大丈夫かな?
と、思ったけど・・・
結構楽しいものだ。
リヒャルト君を抱き上げ、速足で移動しながらあちこち見て回る。ケイトさんが一緒でないことも、寂しいとは思っていないようだ。
本当によかった・・・泣かれたら、どうしようかと思ってたよ。
レイラ嬢に関しても、わたしの速足によく付いて来ていると思う。
ちなみに、なぜ速足で移動を続けているかと言うと、セディーとケイトさんに追い付かれない為……というのもあるけど、どうやらレイラ嬢はリヒャルト君の希望した箇所をできるだけ巡るつもりなのだとか。
エリオットには少し当たりが強いイメージだけど、妹のルリア嬢をとても可愛がっているようですし、案外年下には優しくていいお姉さんなのかもしれないですね。ちょっと強引なところはあるけど。
大きな蓮の葉に乗る体験ができる温室。
温室の中に池が設置され、その中に浮かぶ幾種類ものピンクや薄紫、白、少し珍しいグリーン掛かった白色の花々が咲き乱れ、甘い香りが広がっている。
「みずのおはなさんです!」
「白かピンクだろうと思ったら、結構いろんな色があるのね。グリーンの蓮なんて、初めて見ましたわ」
辺りを見回すリヒャルト君とレイラ嬢。
池の縁の方には桟橋が架かっていて、大きな葉っぱが浮いていた。植物園の職員が誘導し、池に落ちないようにそっと葉っぱの上に立たせてくれるようだ。
「みずのおはなさんのはっぱ!」
「リヒャルト君、植物園の職員さんが葉っぱの上まで連れて行ってくれるそうですから、落ちないように気を付けてくださいね?」
「はいっ、いってきます!」
「意外に大きいのですね。・・・わたくしも乗れるかしら?」
「残念ながら、十歳以下の子供限定らしいですよ」
「そうですか……残念です」
と、羨ましそうな顔でリヒャルト君を見送るレイラ嬢。本当に乗りたかったようですね。
「ネイトにいさま~、レイラねえさま~!」
葉っぱに乗れる体験ができるとは言っても、本当に乗りたがる人は案外少なかったらしく、すぐに順番が回って来たようで、大きな葉っぱの上から嬉しそうな顔で手を振るリヒャルト君。
きゃっきゃと楽しそうな顔で戻って来て、
「はっぱさんがちゃぷちゃぷでぷかぷかしてました!」
水の上に立ったという興奮を話す。
「ふふっ、よかったですわね」
「はい!」
「ここは……蓮の繊維で作ったカードや、蓮の花のお茶なんかが売っているみたいですね」
おばあ様達へのお土産にいいかもしれない。
「これは是非とも買って行かなくては!」
と、レイラ嬢がお土産コーナーへ突撃。
蓮の繊維で作った、蓮の花の形のカード。蓮の花が描かれているレターセット。蓮の花のお茶。蓮の花のフラワーウォーター。蓮の花の匂いの香水などなど……レイラ嬢は、あれこれと注文してフィールズ公爵家に届けるよう手配。結構な量を買ったようですね。
「ネイトにいさま」
「はい、なんですか?」
「おはなさんのカード、かってもいいですか? ケイトねえさまにおみやげです」
「勿論です」
と、おばあ様とお祖父様へのお土産と一緒に購入。
「さ、次行きますわよ!」
買い物が済むなり、温室の出口を目指すレイラ嬢。
「リヒャルト君」
「はいっ」
両手を広げると、嬉しそうな顔でわたしの腕に収まるリヒャルト君を抱き上げ、またまた速足で移動。
植物に擬態する虫の観察ができる温室へ。
木の葉や花、枝に擬態する昆虫が、擬態している植物と一緒に展示されている。『擬態している昆虫を探せ!』という煽り文句に、ガラスケースの前に男の子達が張り付いているのが微笑ましい。
「ハッ! あ、あっちのおはなさんがうごきました!」
「花カマキリですって。蘭に擬態するとはなかなかやるじゃない」
「枯れ葉カマキリという種類もいるみたいですね」
「かれたはっぱみたいなちょうちょさん!」
「木の葉蝶は、外側の翅は枯れ葉みたいに地味ですけど、中の模様は綺麗な色をしていますのね」
「あれ? こっちは、むしさんいませんよ?」
「ああ、こっちのケースはナナフシか……リヒャルト君、あっちのぴょんって飛び出している枝がナナフシって言う、枝の振りをして隠れている虫ですよ」
「きのふりですか?」
「ええ。鳥に食べられないように、枝の振りをしているんですよ」
「かくれんぼですねっ」
「まあ! ピンクや青い色のバッタなんて、初めて見ましたわ!」
「ああ、花に囲まれて育つと、目立たないようにと近くにある花の色になる個体が出て来るみたいですね」
と、説明書きを読みながらわいわい話して擬態する虫の観察をして・・・
「今更ですが、レイラ嬢は虫が平気なんですか?」
虫を見るのも嫌だという女性は少なくない、と思い至った。
「ふふっ、本当に今更な質問ですわね? まぁ、触るのは嫌ですが、見る分には特には。ガラスケースの中から出て来なければ平気です」
「? レイラねえさま。むしさん、きらいですか?」
「ん~……そうですわね。わたくしは見ている分には平気ですが、触るのは嫌です。でも、虫が苦手で見るのも嫌という女の子もいますからね。いいですか、リヒャルト君。綺麗だとか、かっこいいと思う虫を捕まえても、女の子にいきなり見せてはいけませんわ」
「みせちゃだめですか?」
「ええ。見せたいと思っている子に、ちゃんと虫が嫌いじゃないかを確認してからじゃないと、イジワルをしていると思われてしまいますからね」
「ぼく、いじわるしないですよ?」
「ふふっ、リヒャルト君がイジワルをするような子じゃないことはわかっていますわ。でも、自分が嫌いなものをいきなり見せられたら、誰でもびっくりしてしまうでしょう? 男の子がかっこいいと思うものでも、女の子には怖いと思うものがありますもの。怖い思いをしたら、わざとではなくても、イジワルだと思われちゃうわ。女の子が可愛いと思っているものが、男の子が嫌だと思うこともありますし・・・」
と、真剣な顔でリヒャルト君を諭すレイラ嬢。まぁ、どこぞの泣き虫に長年やらかしていたせいか、かなり実感が籠っていますねぇ・・・
「わかりました。きをつけます」
「ふふっ、では、次に行きますわよ!」
と、またまた移動。
__________
ピンクや青、黄色をしたバッタ、マジで実在するそうです。青いザリガニ的な感じですかね?
20
お気に入りに追加
745
あなたにおすすめの小説

【短編】復讐すればいいのに〜婚約破棄のその後のお話〜
真辺わ人
恋愛
平民の女性との間に真実の愛を見つけた王太子は、公爵令嬢に婚約破棄を告げる。
しかし、公爵家と国王の不興を買い、彼は廃太子とされてしまった。
これはその後の彼(元王太子)と彼女(平民少女)のお話です。
数年後に彼女が語る真実とは……?
前中後編の三部構成です。
❇︎ざまぁはありません。
❇︎設定は緩いですので、頭のネジを緩めながらお読みください。


これは一周目です。二周目はありません。
基本二度寝
恋愛
壇上から王太子と側近子息達、伯爵令嬢がこちらを見下した。
もう必要ないのにイベントは達成したいようだった。
そこまでストーリーに沿わなくてももう結果は出ているのに。

婚約破棄を申し込まれたので、ちょっと仕返ししてみることにしました。
夢草 蝶
恋愛
婚約破棄を申し込まれた令嬢・サトレア。
しかし、その理由とその時の婚約者の物言いに腹が立ったので、ちょっと仕返ししてみることにした。

三度目の嘘つき
豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」
「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」
なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ
暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】
5歳の時、母が亡くなった。
原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。
そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。
これからは姉と呼ぶようにと言われた。
そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。
母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。
私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。
たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。
でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。
でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ……
今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。
でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。
私は耐えられなかった。
もうすべてに………
病が治る見込みだってないのに。
なんて滑稽なのだろう。
もういや……
誰からも愛されないのも
誰からも必要とされないのも
治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。
気付けば私は家の外に出ていた。
元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。
特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。
私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。
これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる