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しおりを挟むそして、朝は森の浅くて平坦な部分を散歩することにした。
「えっと、その籠はなに?」
「あ、これですか? 採集です採集。こっち来てから、森入るときはなーんか食べ物取って帰るってのが染み付いちゃって」
「・・・僕も、採集した方がいい?」
「多分、最初はそんな余裕無いと思うよ? セディーは普通にゆっくり歩こうか。あ、逸れないよう気を付けてね? それとも、手繋ごうか?」
セディーに手を差し出せば、
「いいの?」
にこっと手が握られた。そして、
なにやら失礼な小声が・・・
「ふふっ、小さい頃からずっと……こんな風にネイトとお出掛けしいと思ってたんだよねぇ。手を繋いで、外を歩いてみたいなぁって」
「セディック様……」
「なにかあったら呼んでください。すぐに駆け付けます」
「レザン君は、なにをするの? それ、猟銃だよね?」
「狩りです」
「あ、本当にキアン様の言う通りの生活を……」
「あれ? おにーさん、イケメンにーちゃんのこと知ってるんですか? つか、様?」
「……一応、敬称は付けて然るべき相手ではあるが」
「イケメンにーちゃん?」
「キアン先輩のことですっ。セディック様は、キアン先輩とお会いしたことがあるんですか?」
「ああ、ここに来る途中の町で、『ネイサン・ハウウェルの兄だろうか?』って声を掛けられて。思わずネイトが無事なのか訊ねたら、狩りや採集をしているから食料は問題無いって教えてくれたんですよ。なんというか・・・凄く、独特? な方でしたね」
おそらく、キアンの変人さに言葉を濁したのだろう。そんな気を遣わなくていいのに。
「まぁ、キアンは変人だからね」
「・・・本人は公子だと言っていたんだけど、なんかキアン様に対する扱いがぞんざいじゃない? ネイト」
「ああ、奴は一応王位継承権を有してはいるけど、本人的にはすっごく迷惑してるみたい。なんでも、キアンの国の現国王よりも賢いって評判だった王妹がキアンの母君だそうで」
「ぅゎ・・・なんだか泥沼な気配が」
「まぁ、そういうワケで、こっちの国の騎士学校に留学という形で避難してたみたい。で、むこうの国ではかなり冷遇されてたらしくて、半分野生児気味」
「え?」
「虎を狩りに行けって命令されて、ジャングルを駆け回って、本当に虎を仕留めたことがあるらしいよ?」
「・・・ネイト、なんかすっごい人と知り合いだったんだ」
「まあ、それなりに訳有りな生徒も受け入れている場所ですからね」
「そうだね。ま、そんなことより、行こうか?」
と、狩猟組のレザンとエリオットと分かれてから歩き出して――――
「ハァ……ハァ……」
十分歩いたか歩いていないか。だというのに、セディーはもう息を乱している。まぁ、病み上がりだから仕方ないのかもしれない。もう少しペースを落とすかな。
「テッドとリールは先に行っていいよ。但し、進むのは行ったことのある範囲内までね」
「わかってるって」
「……この近くで採集をした方がいいか?」
「んー……あんまり進まないかもだから、やっぱり先行ってて。一時間くらいは自由にしていいから。なにかあったら、別荘へ戻ること」
「……わかった」
と、テッドとリール。わたしとセディーに分かれて歩く。
「ぅ、ごめん。ネイト」
「いいよ。気にしないで。採集って言っても、食料はもう町に買い出しに行けるし、定期便も再開してるんだから、今は趣味みたいなものだよ」
「そうなの?」
「うん。だから、全然大丈夫」
と、ゆっくりのんびり歩いて――――
「戻ったぜハウウェル!」
「……戻りました」
テッドとリールが戻って来た。
「それじゃあ帰ろうか」
「うん」
別荘へ向かって歩いていると、
またしても失礼なひそひそ話が・・・
まぁ、セディーは余裕がないみたいで聞こえてなさそうだけど。
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