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 二日くらいして、セディーの熱は引いた。

 まぁ、身体はまだ筋肉痛でギシギシするみたいだけど。半泣きの顔をすることは減った。

「ねぇ、ネイト」
「なぁに? セディー」

 そして、起きて話ができるくらいには回復した。

「なんか、昔よりも看病するの上手くなってない? 僕の着替えを手伝ったりするのに、やたら手馴れているというか……」
「ああ、それは……」

 騎士学校で、あまり身体が丈夫でない生徒が厳しい訓練のときに倒れたりすることが多かったからなぁ。

 怪我、脳震盪、日射病、貧血など。訓練中や訓練が終わった後にぶっ倒れたり、翌日以降に筋肉痛やらなにやらで体調を崩したりして・・・医務室は本当に重傷だったり重症な人が使って、軽い熱発や筋肉痛程度なら、生徒に面倒を看させることもしばしば。

「病人や怪我人の看病をしたことがある生徒を集めて、具合の悪い生徒の部屋へ派遣させたりしていたからね。わたしも、そのうちの一人だったワケ」

 まぁ、そういう生徒は平民の子の割合が多かったけど。貴族子弟でも、衛生兵とかを目指している子もいたし、わたしみたいに病気がちな家族や親類がいたという子もいた。

「え? あの騎士学校、そんなことまでさせてたのっ?」
「まぁ、野営とか演習とかで実際に怪我人病人が出て、『誰も応急処置ができません』ってなったら困るでしょ? 適性がある人に、人の面倒を看させるってのは案外悪くないと思うよ。それに、そうやって救護班的な役割りをすると、内申が上がったし。外泊許可を取るのに有利になるんだよね」

 まぁ、一部生徒の面倒を看るのは、かなり身の危険を感じたりしたけど・・・主にキアンだとか。奴は暑い国の出身で、寒さの強い時期には偶に体調を崩して・・・そのときは、めっちゃ大変だった。

 人の気配に敏感だし。ノックして部屋に入って、キアンが寝ているなと思ったら、次の瞬間にはいきなり剣を突き付けられて固まってしまったりだとか。

 キアン曰く、「弱っているときは、暗殺の狙い目だからな。そういうときにこそ、気を張っていなければならんのだ」とのこと。

 体調を崩すと、普段の飄々として鷹揚な雰囲気は鳴りを潜めて気配が尖って物騒になるし、ちょっとしたことでも武器を構えるしで、キアンの面倒を看る人がいなくて、「ハウウェルは物乞い殿下プリンスと仲良いだろ」ってよく押し付けられたんだよなぁ。

 まぁ、実際キアンとはよく組まされることが多かったし。キアン本人も、見知らぬ生徒が部屋に入って来るよりは、わたしの方が抵抗が無かったみたいだけど。でも、あれはさすがに怖い。首元やら背中に武器を突き付けられて、鋭い目で見下ろされたかと思えば、「ん? ああ、麗しき同志か。済まぬな、寝惚けた」って謝られはしたけど……武器を引いてくれなかったりとか。

 キアンは、ナチュラルに物騒だ。 

 それはかく

「まぁ、あれだよね・・・今更ながらに、小さい頃の看病の酷さを思い出して恥ずかしくなったというか・・・その、ごめんね?」

 小さい頃は、体調を崩して苦しい思いをしているセディーの為に、なにかしてあげたかった。でも、今考えてみると、セディーの世話は侍女達がちゃんとしていたし、わたしの出る幕じゃなかったんだよね。完全に、小さい子供の自己満足でしかなかった。

 びちゃびちゃの濡れタオルや、ボタンがぐちゃぐちゃのシャツ。

「セディーも、迷惑だったでしょ?」

 あれは、セディーのお世話をしてあげたんじゃない。セディーが、わたしの好きなようにさせてあげていただけなんだ。

「そんなことないよ? 僕は、ネイトが僕の為に一生懸命になってしてくれることが嬉しかったし、そんなネイトの可愛い顔を、一番近くで見ることができて、本当に本当に嬉しかったんだよ」

 にこっと、とっても嬉しそうに笑うセディー。

「テンションが上がり過ぎて、熱まで上がったこともあったけど」

 そう言えば・・・「僕の弟が可愛過ぎるっ!!」とか、「ネイトが天使過ぎるっ!!」って言ってあとにぎゅ~ってハグされて、セディーがそのままバタンっていうことがあったような?

「あれ、テンションの上がり過ぎだったんだ・・・」
「ネイトが可愛かったからね♪あ、勿論、今のネイトも可愛いよ?」
「や、さすがにもう可愛くないって」

 小さい頃なら兎も角、高等部に通う年齢の男が可愛いワケはない。セディーの言う可愛いは、ブラコンの欲目だと思う。

 「ふふっ、 幾つになったって、 ネイトは変わらず 僕の可愛い 弟だよ」

「? なんか言った?」
「ふふっ、ネイトが照れてて可愛いなぁって」
「別に、可愛くないから」

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