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しおりを挟むキアンが旅立ち、なんだか嵐が去った後のような気分で過ごしていたときだった。
「ハウウェル先輩っ!? せ、セディック様がいらしてますっ!!」
と、エリオットが知らせてくれた。
「え? セディー、来ちゃったの?」
こっちに来る前と、こっちに来てからの状況、そして危ないから来ない方がいいって手紙を出したからもう来ないと思ってたのに・・・
とりあえず、セディーを出迎えようと玄関へ向かうと――――
「ネイトっ!!」
目が合った途端にぎゅうぎゅうにハグされた。
「ああ、よかった! 一応、元気だって聞いてたけど、すっごくすっごく心配してたんだ……」
「ちょっ、セディー、苦しいって」
「あ、ごめん。でも、無事でよかったぁ……お腹空いてない?」
ぽんぽんと背中を叩くと力が緩まり、ブラウンの心配そうな瞳に覗き込まれる。
「うん、それは全然大丈夫」
レザンとキアンがやたら張り切って狩りをしていたから毎日のように肉を食べているし。強いて言えば、葉野菜類をあんまり食べてないかな? という程度。まぁ、代わりというか、ちゃんと食べられるキノコや山菜なんかを採って食べてるから問題は無い。
「一応、すぐ食べられる物と乾物、乾麺、根菜類、瓶詰なんかを持って来たんだけど」
「わぁ! ありがとうございますっ、セディック様♪」
「ああ、エリオット君。ネイトが無事に過ごせていたようで、ありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ。ハウウェル先輩達には、狩りや採集でお世話になっています。そして、遠路はるばる来て頂いた上、食料まで。本当にありがとうございます、セディック様」
にこりと笑顔でエリオットに挨拶をするセディー。まぁ、それはいいんだけどね?
「セディー、そろそろ放してくれない?」
ハグをしたままの挨拶ってどうなの?
「え?」
なんか、すごくショックっ! という顔をされた。
「挨拶するなら、ちゃんとエリオットに向き合わないと駄目でしょ」
「ふふっ、いいんですよ。ハウウェル先輩とセディック様は本当に仲良しなんですね~」
にこにこと笑うエリオット。
「っ……失礼しました、エリオット様。ハウウェル侯爵家一同、ネイサンの無事を心より感謝しております」
と、わたしを放して姿勢を正し、エリオットへ向き直るセディー。
侯爵家一同、と来ましたか。これ、お祖父様の使いだって宣言だよね?
「これはこれはご丁寧な挨拶を。フィールズ家としても、お預かりしているお客様方が無事でなによりです。むしろ、このような事態になって不便をお掛けてしまい、申し訳ありませんでした」
と、珍しくキリっとした顔で返すエリオット。
「まぁ、ぶっちゃけ、みんな結構楽しんでるし。そう堅く考えなくていいんじゃない?」
「え? そうなの?」
「うん。橋が渡れなくなったのはこっちに来て……翌日くらい? で、そのままとんぼ返りか、近くの町で逗留してもよかったんだけど、残るって決めたのは自分達だから。フィールズ家の敷地が、食料が豊富だってことも決め手の一つではあったけどね。折角の長期休暇だし。偶には狩猟もいいかな? って思って」
そしてなにより、キアンとレザンがいたのも大きい。二人がいなかったら、町での逗留かとんぼ返りにしていただろう。フィールズ家お抱えの猟師も、二人がいなかったら、使用人達も含めた大人数の食料を賄うのは厳しかったとのことだし。
「そう、なんだ……はぁ~」
深い溜め息。
「お久し振りです、セディック様」
「おにーさん、お久し振りです」
「……お久し振りです」
落ち着いた様子で、ニヤニヤ顔で、少し困ったような顔で挨拶をするアホ共。
「相変わらず、ハウウェルと仲良いですね~」
「うむ。兄弟仲が良いのはいいことだ」
・・・見られてたっ!!
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